黄金を求めし者(神トラ2/ラヴィオ)
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「少し、昔話をしようか。このロウラル王国の話を」
僕はゆっくりと振り返り、リンクにそう持ちかける。
どうしてこうなったのか、原因を作った者はもういない。
僕は終わらせるのだ、これで。僕たちの代で。
それはもう戻らない、遠い昔のお話。
僕が産まれて、物心ついてから少し経ち、両親が亡くなった。
両親はロウラル国の王と妃で、その息子である僕は、まだ何も分からない内から王子であり、王であった。
両親を頭脳として支えたのはユガという人物だった。
彼は孤独の僕に、読み書きから始まり、ロウラル国の歴史や政治の仕方など、色々なことを教えてくれた。
また、僕には唯一友人と呼べるラヴィオという存在がいた。
ユガは僕より遥かに大人で、もうどのくらい生きてるのか分からないくらい多くのことを知っていて、僕には手の届かない存在だったが。
ラヴィオは僕と歳も近く、よく一緒に剣の稽古をしたり、城の近くの村に遊びに行っていた。
僕を精神的に支えてくれていたのは、間違いなくラヴィオだった。
「参ったっ!」
僕はそう言って槍を放り出し、床の上に寝転んだ。
相手をしてくれていたラヴィオは、てくてくとこちらにやってくる。
「強いよー、ラヴィオ」
「私ごとき相手に強いなどと言っていては、いつまで経っても1人で外出なんて、できないですよ」
「いいよ、それはもう。諦めてるから」
ある日の昼下がり、僕はラヴィオと槍の稽古をしていた。
兵士らは午前の訓練が終わり、昼食と休憩を経て、もう少しすればこの訓練場に戻ってくるだろう。
僕たちはその前に片付けて、撤退しなければならなかった。
「ああ、でも。兵士長は、ラヴィオよりも遥かに強いんでしょう。……僕にはもう、想像もできないな」
「強くなければ、この国や王子を護ることはできませんからね」
ラヴィオはさらりと答え、僕の投げ出した槍を拾い、簡単に手入れを始めた。
僕は起き上がり、座り直す。
「王子、この後は」
「この後? ああ……ユガが呼んでいたから、ユガに会わなきゃ」
「ユガに?」
「うん、そう。多分、昨日の絵に関することだと思うけど――え、どうかした?」
僕がつい驚いてしまう程に、ラヴィオは変な顔をしていた。顰め面。
「私もついていきます」
「は? でもラヴィオは、この後稽古――」
「いいから、ついていきます!」
そう言ってラヴィオは手早く槍を片付け、僕を連れて訓練場を出た。
ユガの部屋は、訓練場から少し離れた所にある。確か、昼過ぎならいつでも訪ねてきていいと言っていた筈だ。
「……ラヴィオは別に、ユガに訊くことは、何もないでしょ?」
「勿論」
「うーん、2人はあんまり、仲良くないよねえ。僕としては、もう少し仲良くしてほしいところだけど……まあ、相性が合わないなら仕方ないか」
僕はぶつぶつと呟きながらラヴィオの後についていく。ラヴィオが変なところで過保護なのは、今に始まったことじゃない。別にユガは、僕をとって食べたりなんかしないのに。
兵士長も僕に甘いというか、必要以上に警護をしようとするから、何だかたまに面倒くさくなる時がある。失礼。
僕のことを思ってくれているのは分かるんだけど、ねえ。
「ユガ、入るよー」
扉をノックし、僕が声を掛けて扉を開ける。ユガはいつものようにカーテンを閉め切り、蝋燭を点して、本を読んでいた。
壁にはあまり趣味がいいとは言えない絵がいくつも掛かっている。壁画のように描かれた人々の絵だ。
一度、その絵をどこで買ってくるのか訊ねたことがあるが、不気味に微笑むだけで答えてはくれなかった記憶がある。
「王子、お待ちしておりました。……はて、ラヴィオを連れてくるようにと言った記憶はありませんが」
「私は王子の護衛です。お気になさらず」
「この城の中でも護衛が必要とは、この世界も大分」
そのジョークは笑えないよユガ、と言って、僕は肩を竦める。
「それで、用事って」
「そうでした。昨日の絵に関する記述、一体どこから見つけてきたのです? そんな文献がここの図書館にあるのですか?」
「えっ、なんのこと」
ユガが手招きしたので、僕はユガの隣に言って手元の紙を覗き込む。
それは昨日の僕の答案だった。昨日はユガに、絵に関する課題を出されたのだ。
「ああ、それ……トライフォースのお話? 確か僕の部屋にある本に書いてあったと思うんだけど。忘れちゃった」
「全く……出典は書くようにと、いつも言っているでしょう。次回もまた出典が無ければ、やり直しにさせますからね」
「えっ、それは勘弁してよ……」
絵にまつわる物語で好きなものを記述せよ、という簡単そうで難しい課題だった。絵に興味が無ければ探すだけで大変だ。
幸い、僕はすぐにトライフォースに関する記述を本から見つけることができた。トライフォースを中心に、勇者と王女が立っている絵だ。
確か、トライフォースを得て世界を我が物にした魔王が、時の勇者と七賢者によって聖地に封印され、復活したものの、再び勇者に倒されるという話。
このロウラル王国にも、昔はトライフォースがあったんだったなと、懐かしく想像して書いたのだ。
「しかしこの話は私も知りませんでした」
「えっ、ユガ知らないの?」
「ええ。このロウラル王国の話ではないのかもしれませんね」
「えっそんな」
「大体、ここにはトライフォースはもう存在しませんからね」
「……この物語は、昔の話だよ? トライフォースがあった頃の話。その頃には、そんな戦いもあったのかもしれない。物語なんだから、それでいいでしょ」
ユガに言われ、何だか苛立った。僕より遥かに長く生きており、トライフォースのある頃も知っているからかもしれなかった。
それだけ? と問い、僕は足早にユガの部屋を出る。ラヴィオも急いでついてきた。
「レイシ王子」
「……なに?」
「お願いなので、あまり1人でユガとは会わないでください」
「何で?」
苛立っているのに、意味の分からない言葉を投げかけられ、僕の心は更にささくれ立つ。
「ユガが何をするか分かりません」
「……どういう意味?」
「ユガは確かに、かつての王や、今の王子を支えているかもしれません。けれど奴は、何を考えているか分からない男です。今に王子のことも、裏切るかもしれない」
僕はゆっくりと振り向いた。ラヴィオがユガのことをあまり良く思っていないのは、僕も知っていた。
けれど、ユガ無しにこの崩れ始めた王国は保てないし、これからも、ユガ無しで僕はやっていく自信がない。
「……考えておくよ」
ラヴィオに曖昧な言葉を残し、僕は自室へと戻った。
僕はゆっくりと振り返り、リンクにそう持ちかける。
どうしてこうなったのか、原因を作った者はもういない。
僕は終わらせるのだ、これで。僕たちの代で。
それはもう戻らない、遠い昔のお話。
僕が産まれて、物心ついてから少し経ち、両親が亡くなった。
両親はロウラル国の王と妃で、その息子である僕は、まだ何も分からない内から王子であり、王であった。
両親を頭脳として支えたのはユガという人物だった。
彼は孤独の僕に、読み書きから始まり、ロウラル国の歴史や政治の仕方など、色々なことを教えてくれた。
また、僕には唯一友人と呼べるラヴィオという存在がいた。
ユガは僕より遥かに大人で、もうどのくらい生きてるのか分からないくらい多くのことを知っていて、僕には手の届かない存在だったが。
ラヴィオは僕と歳も近く、よく一緒に剣の稽古をしたり、城の近くの村に遊びに行っていた。
僕を精神的に支えてくれていたのは、間違いなくラヴィオだった。
「参ったっ!」
僕はそう言って槍を放り出し、床の上に寝転んだ。
相手をしてくれていたラヴィオは、てくてくとこちらにやってくる。
「強いよー、ラヴィオ」
「私ごとき相手に強いなどと言っていては、いつまで経っても1人で外出なんて、できないですよ」
「いいよ、それはもう。諦めてるから」
ある日の昼下がり、僕はラヴィオと槍の稽古をしていた。
兵士らは午前の訓練が終わり、昼食と休憩を経て、もう少しすればこの訓練場に戻ってくるだろう。
僕たちはその前に片付けて、撤退しなければならなかった。
「ああ、でも。兵士長は、ラヴィオよりも遥かに強いんでしょう。……僕にはもう、想像もできないな」
「強くなければ、この国や王子を護ることはできませんからね」
ラヴィオはさらりと答え、僕の投げ出した槍を拾い、簡単に手入れを始めた。
僕は起き上がり、座り直す。
「王子、この後は」
「この後? ああ……ユガが呼んでいたから、ユガに会わなきゃ」
「ユガに?」
「うん、そう。多分、昨日の絵に関することだと思うけど――え、どうかした?」
僕がつい驚いてしまう程に、ラヴィオは変な顔をしていた。顰め面。
「私もついていきます」
「は? でもラヴィオは、この後稽古――」
「いいから、ついていきます!」
そう言ってラヴィオは手早く槍を片付け、僕を連れて訓練場を出た。
ユガの部屋は、訓練場から少し離れた所にある。確か、昼過ぎならいつでも訪ねてきていいと言っていた筈だ。
「……ラヴィオは別に、ユガに訊くことは、何もないでしょ?」
「勿論」
「うーん、2人はあんまり、仲良くないよねえ。僕としては、もう少し仲良くしてほしいところだけど……まあ、相性が合わないなら仕方ないか」
僕はぶつぶつと呟きながらラヴィオの後についていく。ラヴィオが変なところで過保護なのは、今に始まったことじゃない。別にユガは、僕をとって食べたりなんかしないのに。
兵士長も僕に甘いというか、必要以上に警護をしようとするから、何だかたまに面倒くさくなる時がある。失礼。
僕のことを思ってくれているのは分かるんだけど、ねえ。
「ユガ、入るよー」
扉をノックし、僕が声を掛けて扉を開ける。ユガはいつものようにカーテンを閉め切り、蝋燭を点して、本を読んでいた。
壁にはあまり趣味がいいとは言えない絵がいくつも掛かっている。壁画のように描かれた人々の絵だ。
一度、その絵をどこで買ってくるのか訊ねたことがあるが、不気味に微笑むだけで答えてはくれなかった記憶がある。
「王子、お待ちしておりました。……はて、ラヴィオを連れてくるようにと言った記憶はありませんが」
「私は王子の護衛です。お気になさらず」
「この城の中でも護衛が必要とは、この世界も大分」
そのジョークは笑えないよユガ、と言って、僕は肩を竦める。
「それで、用事って」
「そうでした。昨日の絵に関する記述、一体どこから見つけてきたのです? そんな文献がここの図書館にあるのですか?」
「えっ、なんのこと」
ユガが手招きしたので、僕はユガの隣に言って手元の紙を覗き込む。
それは昨日の僕の答案だった。昨日はユガに、絵に関する課題を出されたのだ。
「ああ、それ……トライフォースのお話? 確か僕の部屋にある本に書いてあったと思うんだけど。忘れちゃった」
「全く……出典は書くようにと、いつも言っているでしょう。次回もまた出典が無ければ、やり直しにさせますからね」
「えっ、それは勘弁してよ……」
絵にまつわる物語で好きなものを記述せよ、という簡単そうで難しい課題だった。絵に興味が無ければ探すだけで大変だ。
幸い、僕はすぐにトライフォースに関する記述を本から見つけることができた。トライフォースを中心に、勇者と王女が立っている絵だ。
確か、トライフォースを得て世界を我が物にした魔王が、時の勇者と七賢者によって聖地に封印され、復活したものの、再び勇者に倒されるという話。
このロウラル王国にも、昔はトライフォースがあったんだったなと、懐かしく想像して書いたのだ。
「しかしこの話は私も知りませんでした」
「えっ、ユガ知らないの?」
「ええ。このロウラル王国の話ではないのかもしれませんね」
「えっそんな」
「大体、ここにはトライフォースはもう存在しませんからね」
「……この物語は、昔の話だよ? トライフォースがあった頃の話。その頃には、そんな戦いもあったのかもしれない。物語なんだから、それでいいでしょ」
ユガに言われ、何だか苛立った。僕より遥かに長く生きており、トライフォースのある頃も知っているからかもしれなかった。
それだけ? と問い、僕は足早にユガの部屋を出る。ラヴィオも急いでついてきた。
「レイシ王子」
「……なに?」
「お願いなので、あまり1人でユガとは会わないでください」
「何で?」
苛立っているのに、意味の分からない言葉を投げかけられ、僕の心は更にささくれ立つ。
「ユガが何をするか分かりません」
「……どういう意味?」
「ユガは確かに、かつての王や、今の王子を支えているかもしれません。けれど奴は、何を考えているか分からない男です。今に王子のことも、裏切るかもしれない」
僕はゆっくりと振り向いた。ラヴィオがユガのことをあまり良く思っていないのは、僕も知っていた。
けれど、ユガ無しにこの崩れ始めた王国は保てないし、これからも、ユガ無しで僕はやっていく自信がない。
「……考えておくよ」
ラヴィオに曖昧な言葉を残し、僕は自室へと戻った。
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