その日は長太郎とできるだけ話さないように目を合わせないように、俺は逃げるようにして帰宅した。
　だが翌日登校すると、俺に色々言ってきた女の子は女子たちに囲まれ、大きな声で話をしていた。

「ねえ聞いて、私昨日鳳くんに告白して、OK貰ったの！」
「えーすごい！ おめでとう！」
「！」

　その言葉を聞いた瞬間、俺の心臓はぎゅっと掴まれたようになる。

「もう本当にすごい幸せ！」
「えー明日土曜日でしょ、デートとかするの？」
「部活が忙しいから暫く遊べないんだって」
「えーそうなんだー」

　その大きな声は恐らく、俺へのあてつけだろう。……別に何とも思わないけど。
　だって俺と長太郎は男同士なのだ。恋愛感情なんか持つわけないし、ただの友情だし。

　でもその日、俺は授業に全く集中できず、何度も先生に怒られた。
　当然長太郎と話すこともなく、痛む心を押さえつけて逃げ続けた。





　翌週、また例の女子の周りに集団が出来ていた。
　嫌でも耳に入ってくるその話。

「今週の日曜日は部活ないから、初めてのデートなの！」
「えーいいなあ」
「どこ行くの？」
「ディズニーランド！」
「いいなー。私の彼氏つれてってくれないんだよね」
「最近新しいアトラクションできたよね？ 確か……」

　心にダイレクトに突き刺さってくる言葉を何とか回避したい、でも席が近いので嫌でも聞こえてしまう。
　かといってトイレに立ってしまえば負けを認めたことになりそうなので、俺は何とか別のことを考えて過ごそうと努めた。

（……長太郎のあれ、何だったんだろう）

　気がつけば長太郎のことを考えてしまう。でも止めようもなかった。
　あの子に告白された時、長太郎は何を考えていたのだろう？ 俺は全然知らなかったけど本当に両思いだったのだろうか。
　だとしたらあの音楽室でのキス、帰り道に抱きしめたこと。
　それらは何を意味しているのだろうか？

（わかるわけない）

　俺は突っ伏して全てをやり過ごそうとした。