夕暮れに問う(庭球/鳳)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
人並みをかき分け着いた先は、行列のできているパスタ屋だった。
こんな暑い中待つのは嫌だな、と思っていたところだったが、長太郎は俺を置いて店の中へ入っていく。
「澪士、早く」
「え? でも並ばなきゃ」
「大丈夫だよ」
そう言って長太郎は、動こうとしない俺の手を掴み、店の中へ引きずり込む。周りの視線が痛い。
出迎えた店員に鳳です、と名乗るのは、まさか。
「12時からご予約の鳳さまですね。お待ちしておりました」
「え」
こちらへどうぞ、と案内される。俺は驚きながらも従うよりほかにはない。
眺めのいい窓際の席に案内され席につき、思わず口を開く。
「予約してたのか、長太郎」
「まあ」
「俺が魚が食べたいとか言ったらどうするつもりだったんだよ……ラーメンとかさ」
「澪士は何でもいいって言うだろうなって思ったから」
しれっとそう答え、メニューを開く長太郎。俺はもう何も言えず。
「何がいい? 澪士、ペペロンチーノとか好きじゃなかったっけ」
「ああ、好きだけど……」
「分かった。すみません」
そう答えると長太郎は少しだけ手を上げ店員さんを呼び、素早く注文する。
あまりの手馴れている感にもう口を挟むのはやめよう、と感じ、俺は一口水を飲んだ。
「他に何か行きたい所は考えてんの?」
「本屋も少し見たいかなって思ってて」
「本屋か、俺も欲しい本あるから行きたい」
「よかった、じゃああそこの大きい本屋行こうか」
どんな本? と問われ、漢検、と答える。
「そっか澪士、漢検受けてたよね、この前。それは受かったんじゃなかった?」
「そう、受かったから次は3級受けようと思って」
「凄いね」
「長太郎は? 何の本?」
「特に何ってことはないんだけど」
最近ハマっている小説の話をされる。
奇しくも俺が最近気になっている作家だったので、ぜひ新刊を買って貸してくれ、という話になった。
昼食を食べた後、約束通り本屋に行き少し長居した後、カフェで少し話していると、あっという間に夕方になってしまった。
映画を見たいと俺は言い、映画館に向かったが、残念ながら俺が観たかった映画はここではやっていないようだ。そこそこ大きい映画館なのに。
「残念だね」
「まあ、DVDでも借りて観ることにする」
もう少し遠い町に行けば上映しているのかもしれないが、今日はそこまでする気にもならず。
帰ろうか、と俺が言い、送る、と長太郎が答えた。
「いやバスで帰ろうかと思ってるから大丈夫」
「少し遠回りかもしれないけど、歩いて帰らない?」
俺の言葉を遮るように歩きの提案をされる。
結構歩いたような気がするので正直そんなに元気でもなかったが、本音を言うと、もう少し長太郎と一緒に居たいと思っているのは事実だった。
提案に頷き、2人は並んで歩く。影は長く伸びている。
「今日、楽しかったなー」
「それならよかった」
「また長太郎と遊びたい」
長太郎と一緒に居るのは楽しい。気を遣わなくて済むし、彼は色々なことを知っているので話していて楽しいから。
素直にそう言うと長太郎は嬉しそうに笑う。
「俺も澪士と一緒に居るのが一番楽しい」
「そう? 嬉しい」
相手もそう感じていてくれるのは本当に嬉しいことだ。
少し恥ずかしくなって、俺たちの間には暫し沈黙が横たわった。
「……そろそろ、着くな」
いつもの角を曲がろうとしたところで俺がぽつりと呟く。
その瞬間、後ろからいきなり抱きしめられた。
「長太郎……?」
心臓が口から飛び出る勢いで驚くが、平静を装って尋ねる。
長太郎の頭が俺の肩の上に乗り、その少し跳ねた髪が俺の首筋に触れてくすぐったい。
「本当は、もっと一緒にいたい」
絞り出すような、切なげな声が耳元で発せられる。その声音と言葉に、俺の心臓はきゅっと掴まれた。
「……ちょうたろ、」
「ごめん」
引き留めて、という言葉と共に俺は解放された。
ふっと振り返って長太郎の表情を見ようとしたが、夕焼けが背後に迫っており、俺の方からじゃ眩しくて見えなかった。
「今日はありがとう。本当に楽しかった」
「こちらこそ」
「また月曜日」
それじゃ、と言って長太郎は帰っていく。
その姿がすっかり見えなくなってしまうまで、俺はそこに立ったままだった。
こんな暑い中待つのは嫌だな、と思っていたところだったが、長太郎は俺を置いて店の中へ入っていく。
「澪士、早く」
「え? でも並ばなきゃ」
「大丈夫だよ」
そう言って長太郎は、動こうとしない俺の手を掴み、店の中へ引きずり込む。周りの視線が痛い。
出迎えた店員に鳳です、と名乗るのは、まさか。
「12時からご予約の鳳さまですね。お待ちしておりました」
「え」
こちらへどうぞ、と案内される。俺は驚きながらも従うよりほかにはない。
眺めのいい窓際の席に案内され席につき、思わず口を開く。
「予約してたのか、長太郎」
「まあ」
「俺が魚が食べたいとか言ったらどうするつもりだったんだよ……ラーメンとかさ」
「澪士は何でもいいって言うだろうなって思ったから」
しれっとそう答え、メニューを開く長太郎。俺はもう何も言えず。
「何がいい? 澪士、ペペロンチーノとか好きじゃなかったっけ」
「ああ、好きだけど……」
「分かった。すみません」
そう答えると長太郎は少しだけ手を上げ店員さんを呼び、素早く注文する。
あまりの手馴れている感にもう口を挟むのはやめよう、と感じ、俺は一口水を飲んだ。
「他に何か行きたい所は考えてんの?」
「本屋も少し見たいかなって思ってて」
「本屋か、俺も欲しい本あるから行きたい」
「よかった、じゃああそこの大きい本屋行こうか」
どんな本? と問われ、漢検、と答える。
「そっか澪士、漢検受けてたよね、この前。それは受かったんじゃなかった?」
「そう、受かったから次は3級受けようと思って」
「凄いね」
「長太郎は? 何の本?」
「特に何ってことはないんだけど」
最近ハマっている小説の話をされる。
奇しくも俺が最近気になっている作家だったので、ぜひ新刊を買って貸してくれ、という話になった。
昼食を食べた後、約束通り本屋に行き少し長居した後、カフェで少し話していると、あっという間に夕方になってしまった。
映画を見たいと俺は言い、映画館に向かったが、残念ながら俺が観たかった映画はここではやっていないようだ。そこそこ大きい映画館なのに。
「残念だね」
「まあ、DVDでも借りて観ることにする」
もう少し遠い町に行けば上映しているのかもしれないが、今日はそこまでする気にもならず。
帰ろうか、と俺が言い、送る、と長太郎が答えた。
「いやバスで帰ろうかと思ってるから大丈夫」
「少し遠回りかもしれないけど、歩いて帰らない?」
俺の言葉を遮るように歩きの提案をされる。
結構歩いたような気がするので正直そんなに元気でもなかったが、本音を言うと、もう少し長太郎と一緒に居たいと思っているのは事実だった。
提案に頷き、2人は並んで歩く。影は長く伸びている。
「今日、楽しかったなー」
「それならよかった」
「また長太郎と遊びたい」
長太郎と一緒に居るのは楽しい。気を遣わなくて済むし、彼は色々なことを知っているので話していて楽しいから。
素直にそう言うと長太郎は嬉しそうに笑う。
「俺も澪士と一緒に居るのが一番楽しい」
「そう? 嬉しい」
相手もそう感じていてくれるのは本当に嬉しいことだ。
少し恥ずかしくなって、俺たちの間には暫し沈黙が横たわった。
「……そろそろ、着くな」
いつもの角を曲がろうとしたところで俺がぽつりと呟く。
その瞬間、後ろからいきなり抱きしめられた。
「長太郎……?」
心臓が口から飛び出る勢いで驚くが、平静を装って尋ねる。
長太郎の頭が俺の肩の上に乗り、その少し跳ねた髪が俺の首筋に触れてくすぐったい。
「本当は、もっと一緒にいたい」
絞り出すような、切なげな声が耳元で発せられる。その声音と言葉に、俺の心臓はきゅっと掴まれた。
「……ちょうたろ、」
「ごめん」
引き留めて、という言葉と共に俺は解放された。
ふっと振り返って長太郎の表情を見ようとしたが、夕焼けが背後に迫っており、俺の方からじゃ眩しくて見えなかった。
「今日はありがとう。本当に楽しかった」
「こちらこそ」
「また月曜日」
それじゃ、と言って長太郎は帰っていく。
その姿がすっかり見えなくなってしまうまで、俺はそこに立ったままだった。