夕暮れに問う(庭球/鳳)
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ある日の休み時間、俺は意を決して、長太郎の席まで行った。
「? どうしたの、澪士」
「……あのさ、長太郎」
珍しく周りに誰もいない。それが好都合だった。
次の授業の準備をしていたらしかったが、俺が近づくのが分かったのか、すぐに顔を上げて声を掛けてくれる。
「……勉強、教えてください」
俺が小さな声でそう言うと、長太郎は驚いたような顔をする。
「いきなりどうしたの? 澪士頭いいでしょ」
「……ちがくて」
俺は確かにテストでは結構いい成績を取っている。テスト前には長太郎と勉強会をすることもあるが、その時はどちらかが一方的に勉強を教えてもらうというわけではなく、互いに黙々とやって時折議論に花を咲かせる、くらいのものだ。決して馬鹿ではない、と思う。
それでも苦手なことだってある。こんなことを長太郎に頼むのはあまりに恥ずかしいので、耳まで真っ赤になっているのが分かる。暑い。
俺は座っている長太郎の目線と同じ高さにしゃがみ、そっと耳打ちするように言う。
「音楽、が」
「ああ」
それだけ言うと長太郎は分かったようで苦笑を返してきた。
「そんなに苦手だったっけ」
「……練習したんだけどさ、全然だめで、」
「じゃあ今日の放課後、練習しようか」
「え? 今日の放課後?」
間髪入れずに答える長太郎に俺は思わず聞き返す。
だってテニス部の練習は? と問うと大丈夫、と言われる。
「テスト前だし」
「それはそうだけど」
「澪士の成績が悪かったら皆心配するし」
皆、とは具体的に誰のことを指しているのか分からなかったが、長太郎が直々に教えてくれるとなれば大丈夫だ。
俺は頷いた。基礎さえできれば1人で練習もできるだろう。
「よろしくお願いします」
「分かった」
丁度休み時間の終了を告げる鐘が鳴ったので、俺は自席に戻った。
放課後、俺は長太郎に着いて音楽室に来ていた。
「ピアノだっけ? 澪士の課題」
「うん」
広い音楽室に置かれている無数の机と椅子、そしてグランドピアノ。その存在感が、実は少し苦手だったりする。
「……あのさ、長太郎」
「ん?」
「練習中に……その、誰かが来たら、恥ずかしいんだけど」
俺はプライドの高い方で、努力は陰で行い、表ではきちんと振舞っていたいタイプだ。誰に見栄を張っているのか分からないけど。
そのためそう告げると、俺の性格を分かっている長太郎は、大丈夫、と答えた。
「先生に言ってあるから。一日貸してくださいって」
「え? そうなの?」
「澪士がそう言うと思って」
一体どこまでイケメンなのか。何でこんな奴と友達付き合いが出来ているのか、俺は自分で自分が分からない。
「ありがとう」
「どういたしまして」
鞄を適当な机の上に置き、中から課題の楽譜を取り出す。
そしてグランドピアノの前の椅子に座った。
「澪士、楽譜は読めるよね」
「読める」
「じゃあ何が難しい? リズム?」
「……究極にリズム感がない」
この度の音楽の課題は、ピアノかギターかバイオリンのどれかを選び、選んだ楽器で1曲弾くことだ。課題曲は難しくないものを配布される。
勿論ここは氷帝学園なのでピアノを習っている生徒は圧倒的に多い。彼ら彼女ら習っている人にとってこの課題は易しいらしい。
長太郎は確かバイオリンを選択していた。バイオリンこそ習っている生徒用だろうが。
「ところで何でピアノにしたの?」
「バイオリンはまず不可能だと思った」
「そう?」
「あと、ギターは弦を押さえると指が痛い。あの楽譜が読めない」
「TAB譜のこと? 慣れれば簡単だと思うけど……」
そりゃ何でも出来る長太郎からすればそうだろう。
「消去法でピアノ」
「なるほどね」
でもそもそも、と彼は言う。
「リズム感がないんじゃどの楽器も難しいよね」
「……それなんだよな……」
音楽の基本ができない。昔から本当に苦手だった。
「じゃあ現状どんなものか確認することから始めようか」
「はい」
長太郎は音楽室の棚からメトロノームを出してくる。
「これを120に合わせるから、まずはそれに合わせて手を叩いてみようか。4分の4拍子で」
カチ、カチ、カチ、カチ、とメトロノームは完璧なリズムを打ち出す。当然これには乗れる。
それを暫く続けた後、次は60にするから、と長太郎が言う。
「さっきのリズムを感じたまま、手拍子してみて。メトロノームの音は少し少なくなるから」
カチ、…、カチ、…。
途端に焦る、合わなくなる。
それを少しやったところで苦笑しながら長太郎はそれを止めた。
「……結構な感じだね」
「……はい」
「でも大丈夫、少し練習したらすぐできるようになるよ」
「! 本当?」
「うん」
じゃあリズム練習をしていこうか、という言葉に、お願いします、と答えた。
「? どうしたの、澪士」
「……あのさ、長太郎」
珍しく周りに誰もいない。それが好都合だった。
次の授業の準備をしていたらしかったが、俺が近づくのが分かったのか、すぐに顔を上げて声を掛けてくれる。
「……勉強、教えてください」
俺が小さな声でそう言うと、長太郎は驚いたような顔をする。
「いきなりどうしたの? 澪士頭いいでしょ」
「……ちがくて」
俺は確かにテストでは結構いい成績を取っている。テスト前には長太郎と勉強会をすることもあるが、その時はどちらかが一方的に勉強を教えてもらうというわけではなく、互いに黙々とやって時折議論に花を咲かせる、くらいのものだ。決して馬鹿ではない、と思う。
それでも苦手なことだってある。こんなことを長太郎に頼むのはあまりに恥ずかしいので、耳まで真っ赤になっているのが分かる。暑い。
俺は座っている長太郎の目線と同じ高さにしゃがみ、そっと耳打ちするように言う。
「音楽、が」
「ああ」
それだけ言うと長太郎は分かったようで苦笑を返してきた。
「そんなに苦手だったっけ」
「……練習したんだけどさ、全然だめで、」
「じゃあ今日の放課後、練習しようか」
「え? 今日の放課後?」
間髪入れずに答える長太郎に俺は思わず聞き返す。
だってテニス部の練習は? と問うと大丈夫、と言われる。
「テスト前だし」
「それはそうだけど」
「澪士の成績が悪かったら皆心配するし」
皆、とは具体的に誰のことを指しているのか分からなかったが、長太郎が直々に教えてくれるとなれば大丈夫だ。
俺は頷いた。基礎さえできれば1人で練習もできるだろう。
「よろしくお願いします」
「分かった」
丁度休み時間の終了を告げる鐘が鳴ったので、俺は自席に戻った。
放課後、俺は長太郎に着いて音楽室に来ていた。
「ピアノだっけ? 澪士の課題」
「うん」
広い音楽室に置かれている無数の机と椅子、そしてグランドピアノ。その存在感が、実は少し苦手だったりする。
「……あのさ、長太郎」
「ん?」
「練習中に……その、誰かが来たら、恥ずかしいんだけど」
俺はプライドの高い方で、努力は陰で行い、表ではきちんと振舞っていたいタイプだ。誰に見栄を張っているのか分からないけど。
そのためそう告げると、俺の性格を分かっている長太郎は、大丈夫、と答えた。
「先生に言ってあるから。一日貸してくださいって」
「え? そうなの?」
「澪士がそう言うと思って」
一体どこまでイケメンなのか。何でこんな奴と友達付き合いが出来ているのか、俺は自分で自分が分からない。
「ありがとう」
「どういたしまして」
鞄を適当な机の上に置き、中から課題の楽譜を取り出す。
そしてグランドピアノの前の椅子に座った。
「澪士、楽譜は読めるよね」
「読める」
「じゃあ何が難しい? リズム?」
「……究極にリズム感がない」
この度の音楽の課題は、ピアノかギターかバイオリンのどれかを選び、選んだ楽器で1曲弾くことだ。課題曲は難しくないものを配布される。
勿論ここは氷帝学園なのでピアノを習っている生徒は圧倒的に多い。彼ら彼女ら習っている人にとってこの課題は易しいらしい。
長太郎は確かバイオリンを選択していた。バイオリンこそ習っている生徒用だろうが。
「ところで何でピアノにしたの?」
「バイオリンはまず不可能だと思った」
「そう?」
「あと、ギターは弦を押さえると指が痛い。あの楽譜が読めない」
「TAB譜のこと? 慣れれば簡単だと思うけど……」
そりゃ何でも出来る長太郎からすればそうだろう。
「消去法でピアノ」
「なるほどね」
でもそもそも、と彼は言う。
「リズム感がないんじゃどの楽器も難しいよね」
「……それなんだよな……」
音楽の基本ができない。昔から本当に苦手だった。
「じゃあ現状どんなものか確認することから始めようか」
「はい」
長太郎は音楽室の棚からメトロノームを出してくる。
「これを120に合わせるから、まずはそれに合わせて手を叩いてみようか。4分の4拍子で」
カチ、カチ、カチ、カチ、とメトロノームは完璧なリズムを打ち出す。当然これには乗れる。
それを暫く続けた後、次は60にするから、と長太郎が言う。
「さっきのリズムを感じたまま、手拍子してみて。メトロノームの音は少し少なくなるから」
カチ、…、カチ、…。
途端に焦る、合わなくなる。
それを少しやったところで苦笑しながら長太郎はそれを止めた。
「……結構な感じだね」
「……はい」
「でも大丈夫、少し練習したらすぐできるようになるよ」
「! 本当?」
「うん」
じゃあリズム練習をしていこうか、という言葉に、お願いします、と答えた。