夕暮れに問う(庭球/鳳)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おはよう」
「おは……えぇ!?」
朝、いつもより早い時間に家を出る。俺はいつも徒歩で登校だ。
さてお気に入りの音楽でも聴きながら行くか、と思ったところ、挨拶されたので挨拶し返そうとしたのだが。
「長太郎、何でここに!?」
びっくりした。7時40分だぞ。朝練のない俺みたいな奴にとってはかなり早い登校だが、テニス部はもう朝練の始まっている時間だろう。
そう問うと、長太郎は朝の爽やかさのごとく、当然だとばかりに笑った。
「俺たち、付き合ってるでしょ」
「……えーと」
それは勿論そうなのだが、そういうことではなく。
大体あの女子とは一度も一緒に登校したことがないと昨日はっきり言っていたはずだ。勿論あの子は俺の近所に住んでいるらしいから方面が反対なのは分かりきっていることだが。
なのに何で今日はここにいるのか。
「勿論来週からはちゃんと朝練行くよ」
「当たり前だろ……」
「でも今日は、特別な日だから」
「特別な?」
「昨日から付き合い始めて、初めての一緒の登校だから」
ほら、と言って長太郎が手を差し出してくる。これを握り返せということなのだろうか。
「……はい」
だが拒否する理由もない。あの子に見られたら、と頭をよぎるが、もう怖いものはなかった。
今は長太郎が味方だ。俺にとってはそれが全て。
「俺、夢じゃないかって心配してたんだ」
「え?」
「澪士と付き合ってること」
だから、手を繋ぐことを拒否されなくてよかった、と。
全く恥ずかしげもなくそんなことを言われて、逆に俺の方が恥ずかしくなってしまう。
「……手くらい」
「ん?」
「手くらい、いつでも繋いでやるよ。……付き合ってるんだし」
小さな声でそう言うと、長太郎がより幸せそうに笑った。
「ありがとう、澪士」
俺達は再び他愛もない会話をしながら学校へ歩く。
さすがに校門が近づいてきたところで手は解いたが、いつもより長太郎と触れ合っている面積が多いことは確かだった。
ただ隣に歩いているだけなのに、肩が長太郎の腕に触れている。それはカップルにとって幸せなことなのかもしれないけど、まだ俺にはただただ恥ずかしくて、緊張するだけのことだった。
「おは……え?」
教室に入っていくと例の女の子は先に登校していた。
俺と長太郎があまりに仲良さそうに話しながら入ってきたせいなのか、彼女の表情が引き攣る。
「何で……?」
キモいっつっただろ、とでも言いたげな表情をする。まだクラスメイトはまばらだから、長太郎さえ一緒にいなければ、多分死ねでも何でも言っていただろう。
でももう俺は、怖くない。
ちゃんと言おう、そう思ったのだが、それより先に長太郎が口を開いた。
「あのさ」
「何、鳳くん」
「澪士に酷いこと言ったって本当?」
「え?」
僅かなクラスメイトが聞き耳を立てているのが分かる。長太郎の声が普段とは全然違って険しいからだ。
「キモいとか死ねとか」
「そんなこと言うわけないでしょ、作り話でしょ」
「あ、そ」
長太郎の声色のあまりの冷たさに、俺は思わず怯える。
「別れよう」
「え!?」
「ごめん、俺、君の言うことより、澪士の言うことを信じたい」
長太郎が一瞬俺に視線を遣る、その瞬間、その子の表情も物凄く怒っているように見えた。
「何で、私たちまだ付き合って1週間だよ!? 私のこと何も知らないのに、男子の方が好きなんて!」
「仕方ないよね、好きになっちゃったんだから」
話はこれでおしまい、とでも言わんばかりに、長太郎は自分の席に戻っていく。俺も大人しく席についた。
これ、後で何か言われるだろうな、多分。付き合っていた女子だけじゃなくて他のクラスメイトにも。
長太郎は見事に大ごとにしてくれそうだ。
「何で……何で、」
長太郎が見てない間に女の子はこちらを睨んでくる。殺さんばかりの視線で。
俺は長太郎が味方だと思えば何でも耐えられる。……ちょっとキツイけど。
「ねえ鳳くん」
怒ったままの女の子は長太郎の席まで押しかけていく。
「何で私よりあいつの方がいいの? 何が?」
「そういうとこ」
「え?」
「そうやって他人を貶めようとする人、嫌いなんだ」
そういう人だって気づけなくて最初に断れなかった、ごめんね、と。
本当に謝っているのか単純に馬鹿にしているのか分からないようなことを言う。
女の子の怒りに油を注いでいるのだが、それは本気で言っているのだろうか。
「……絶対に許さないから!」
女の子は俺の席の側を通り過ぎる時、小声で言う。今は長太郎の目があるからそこまで言えないのだろう。
大体俺のことをキモいと言っておきながらなぜ長太郎には言わないのか。これが恋ってやつか?
だとしたら俺は一生女の子とは付き合えないだろう。
「澪士、大丈夫」
「?」
長太郎は俺の傍にやってきて言う。
とても真剣な顔で口にするので戸惑った。
「今後、どんなことがあっても絶対に離さないし、守るから」
「……お前、それって」
「?」
プロポーズじゃんか。
「おは……えぇ!?」
朝、いつもより早い時間に家を出る。俺はいつも徒歩で登校だ。
さてお気に入りの音楽でも聴きながら行くか、と思ったところ、挨拶されたので挨拶し返そうとしたのだが。
「長太郎、何でここに!?」
びっくりした。7時40分だぞ。朝練のない俺みたいな奴にとってはかなり早い登校だが、テニス部はもう朝練の始まっている時間だろう。
そう問うと、長太郎は朝の爽やかさのごとく、当然だとばかりに笑った。
「俺たち、付き合ってるでしょ」
「……えーと」
それは勿論そうなのだが、そういうことではなく。
大体あの女子とは一度も一緒に登校したことがないと昨日はっきり言っていたはずだ。勿論あの子は俺の近所に住んでいるらしいから方面が反対なのは分かりきっていることだが。
なのに何で今日はここにいるのか。
「勿論来週からはちゃんと朝練行くよ」
「当たり前だろ……」
「でも今日は、特別な日だから」
「特別な?」
「昨日から付き合い始めて、初めての一緒の登校だから」
ほら、と言って長太郎が手を差し出してくる。これを握り返せということなのだろうか。
「……はい」
だが拒否する理由もない。あの子に見られたら、と頭をよぎるが、もう怖いものはなかった。
今は長太郎が味方だ。俺にとってはそれが全て。
「俺、夢じゃないかって心配してたんだ」
「え?」
「澪士と付き合ってること」
だから、手を繋ぐことを拒否されなくてよかった、と。
全く恥ずかしげもなくそんなことを言われて、逆に俺の方が恥ずかしくなってしまう。
「……手くらい」
「ん?」
「手くらい、いつでも繋いでやるよ。……付き合ってるんだし」
小さな声でそう言うと、長太郎がより幸せそうに笑った。
「ありがとう、澪士」
俺達は再び他愛もない会話をしながら学校へ歩く。
さすがに校門が近づいてきたところで手は解いたが、いつもより長太郎と触れ合っている面積が多いことは確かだった。
ただ隣に歩いているだけなのに、肩が長太郎の腕に触れている。それはカップルにとって幸せなことなのかもしれないけど、まだ俺にはただただ恥ずかしくて、緊張するだけのことだった。
「おは……え?」
教室に入っていくと例の女の子は先に登校していた。
俺と長太郎があまりに仲良さそうに話しながら入ってきたせいなのか、彼女の表情が引き攣る。
「何で……?」
キモいっつっただろ、とでも言いたげな表情をする。まだクラスメイトはまばらだから、長太郎さえ一緒にいなければ、多分死ねでも何でも言っていただろう。
でももう俺は、怖くない。
ちゃんと言おう、そう思ったのだが、それより先に長太郎が口を開いた。
「あのさ」
「何、鳳くん」
「澪士に酷いこと言ったって本当?」
「え?」
僅かなクラスメイトが聞き耳を立てているのが分かる。長太郎の声が普段とは全然違って険しいからだ。
「キモいとか死ねとか」
「そんなこと言うわけないでしょ、作り話でしょ」
「あ、そ」
長太郎の声色のあまりの冷たさに、俺は思わず怯える。
「別れよう」
「え!?」
「ごめん、俺、君の言うことより、澪士の言うことを信じたい」
長太郎が一瞬俺に視線を遣る、その瞬間、その子の表情も物凄く怒っているように見えた。
「何で、私たちまだ付き合って1週間だよ!? 私のこと何も知らないのに、男子の方が好きなんて!」
「仕方ないよね、好きになっちゃったんだから」
話はこれでおしまい、とでも言わんばかりに、長太郎は自分の席に戻っていく。俺も大人しく席についた。
これ、後で何か言われるだろうな、多分。付き合っていた女子だけじゃなくて他のクラスメイトにも。
長太郎は見事に大ごとにしてくれそうだ。
「何で……何で、」
長太郎が見てない間に女の子はこちらを睨んでくる。殺さんばかりの視線で。
俺は長太郎が味方だと思えば何でも耐えられる。……ちょっとキツイけど。
「ねえ鳳くん」
怒ったままの女の子は長太郎の席まで押しかけていく。
「何で私よりあいつの方がいいの? 何が?」
「そういうとこ」
「え?」
「そうやって他人を貶めようとする人、嫌いなんだ」
そういう人だって気づけなくて最初に断れなかった、ごめんね、と。
本当に謝っているのか単純に馬鹿にしているのか分からないようなことを言う。
女の子の怒りに油を注いでいるのだが、それは本気で言っているのだろうか。
「……絶対に許さないから!」
女の子は俺の席の側を通り過ぎる時、小声で言う。今は長太郎の目があるからそこまで言えないのだろう。
大体俺のことをキモいと言っておきながらなぜ長太郎には言わないのか。これが恋ってやつか?
だとしたら俺は一生女の子とは付き合えないだろう。
「澪士、大丈夫」
「?」
長太郎は俺の傍にやってきて言う。
とても真剣な顔で口にするので戸惑った。
「今後、どんなことがあっても絶対に離さないし、守るから」
「……お前、それって」
「?」
プロポーズじゃんか。
10/10ページ