夕暮れに問う(庭球/鳳)
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「長太郎、お疲れ」
「澪士」
夕暮れ、俺はクラスメイトの鳳長太郎と校門で出会う。
にっこりと笑って手を振ると、彼は早足でこちらに向かってきた。
「澪士、何でこんな時間まで?」
「委員会とか、色々あって。遅くなりそうだったからついでに勉強もしようと思ったらさ、テニス部と同じ時間になっちゃったな」
彼の後ろに居る何人かのテニス部の先輩方。俺が頭を下げると、向こうは軽く手を上げた。
俺はテニス部でも何でもないが、仲の良い長太郎に連れられて何度か見学に行ったことがある。その時に正レギュラーの人たちがとても良くしてくれたのだ。
こんなファンの多い氷帝テニス部正レギュラーの人たちと普通に会話が出来るなんてどこかの誰かに恨まれやしないかと思わないこともないのだが。
「長太郎、俺たち先帰るからなー」
「あっはい! お疲れ様です!」
「? 長太郎、一緒に帰らなくていいのか?」
長太郎が敬愛してやまない宍戸先輩が長太郎に声を掛ける。他にも忍足先輩や向日先輩もいたが、彼らは今日は歩きで帰るようだ。お金持ちなんだから迎えに来てもらうとか、せめてバスで帰るとかしたらいいのに。
そして長太郎も彼らと同じ方面に帰る筈だ。俺は疑問に思ってそう問う。
「大丈夫。遠回りして帰るから」
「何で?」
「澪士こっちだよね」
残念ながら俺は彼らとは反対の方面に帰るのだ。それがあまり長く一緒に居られない理由でもあった。
「そうだけど……長太郎は逆じゃん」
「大丈夫、澪士と話して帰りたいから」
「ふーん」
長太郎はいつも穏やかに笑っているような奴だ。そして何を考えているのか分からない。その笑顔の裏に色々なものが隠されているのかもしれない、と思っても、只のクラスメイトである俺には分からないし、分かる必要もないだろうと思っていた。
長身は俺の隣に並ぶ。この瞬間がちょっとコンプレックスだったりする。
「あのさ、長太郎。何cmだっけ? 身長」
「えーと、この前測ったら185cmだったかな」
「……高すぎかよ」
俺が言うと長太郎は笑う。
「気にしてるの?」
「や、違うし」
「俺が高すぎるだけだって」
それは本当にその通りだと思うのだが――日本人男性の平均身長は170cmくらいの筈だ――この長身爽やかイケメンに言われるとどうにも腹が立つ。謙遜にもならない。
それに、と長太郎は言葉を続ける。
「澪士はそのくらいの身長の方が可愛いと思うけど」
「……はあ?」
可愛い、という男に言うと褒め言葉にならない単語を出され、俺はちょっとイラっとくる。
「167cmだっけ」
「……何で覚えてんだよ」
「教えてくれたじゃん、身体測定の時」
「いやそれは覚えてる理由にはならないだろ」
そんな他愛もない話をしながら歩いていると、いつの間にか、俺の家の前に着いていた。
気づいて俺は慌てる。
「え、長太郎! すごい今更だけど、こんなとこまで来て大丈夫か? こっからだったら遠いだろ」
「大丈夫。澪士が心配だったから送りたかっただけだから」
「心配って……俺だって男だし大丈夫だって」
「じゃあまた明日」
「じゃあ」
そう言って手を振り長太郎は背中を向ける。
少し考えて俺は大きな声を出した。
「長太郎! ……その」
振り返る長太郎の顔を見て、ああやっぱり声を掛けるんじゃなかった、と後悔した。
「……送ってくれてありがとう」
「うん」
少し小さな声で言うと、また長太郎は笑って手を振る、今度こそ俺は声を掛けずに、その背中が角を曲がるまで見送った。
――只のクラスメイトに、こんなに緊張するなんて、どういうことなのか。
(……まあいいや)
多分、長太郎が何をやってもサマになるイケメンだから仕方ないのだ。男の俺だってどきどきすることあるもん、たまに。
そう言い聞かせて俺は家に入った。
「澪士」
夕暮れ、俺はクラスメイトの鳳長太郎と校門で出会う。
にっこりと笑って手を振ると、彼は早足でこちらに向かってきた。
「澪士、何でこんな時間まで?」
「委員会とか、色々あって。遅くなりそうだったからついでに勉強もしようと思ったらさ、テニス部と同じ時間になっちゃったな」
彼の後ろに居る何人かのテニス部の先輩方。俺が頭を下げると、向こうは軽く手を上げた。
俺はテニス部でも何でもないが、仲の良い長太郎に連れられて何度か見学に行ったことがある。その時に正レギュラーの人たちがとても良くしてくれたのだ。
こんなファンの多い氷帝テニス部正レギュラーの人たちと普通に会話が出来るなんてどこかの誰かに恨まれやしないかと思わないこともないのだが。
「長太郎、俺たち先帰るからなー」
「あっはい! お疲れ様です!」
「? 長太郎、一緒に帰らなくていいのか?」
長太郎が敬愛してやまない宍戸先輩が長太郎に声を掛ける。他にも忍足先輩や向日先輩もいたが、彼らは今日は歩きで帰るようだ。お金持ちなんだから迎えに来てもらうとか、せめてバスで帰るとかしたらいいのに。
そして長太郎も彼らと同じ方面に帰る筈だ。俺は疑問に思ってそう問う。
「大丈夫。遠回りして帰るから」
「何で?」
「澪士こっちだよね」
残念ながら俺は彼らとは反対の方面に帰るのだ。それがあまり長く一緒に居られない理由でもあった。
「そうだけど……長太郎は逆じゃん」
「大丈夫、澪士と話して帰りたいから」
「ふーん」
長太郎はいつも穏やかに笑っているような奴だ。そして何を考えているのか分からない。その笑顔の裏に色々なものが隠されているのかもしれない、と思っても、只のクラスメイトである俺には分からないし、分かる必要もないだろうと思っていた。
長身は俺の隣に並ぶ。この瞬間がちょっとコンプレックスだったりする。
「あのさ、長太郎。何cmだっけ? 身長」
「えーと、この前測ったら185cmだったかな」
「……高すぎかよ」
俺が言うと長太郎は笑う。
「気にしてるの?」
「や、違うし」
「俺が高すぎるだけだって」
それは本当にその通りだと思うのだが――日本人男性の平均身長は170cmくらいの筈だ――この長身爽やかイケメンに言われるとどうにも腹が立つ。謙遜にもならない。
それに、と長太郎は言葉を続ける。
「澪士はそのくらいの身長の方が可愛いと思うけど」
「……はあ?」
可愛い、という男に言うと褒め言葉にならない単語を出され、俺はちょっとイラっとくる。
「167cmだっけ」
「……何で覚えてんだよ」
「教えてくれたじゃん、身体測定の時」
「いやそれは覚えてる理由にはならないだろ」
そんな他愛もない話をしながら歩いていると、いつの間にか、俺の家の前に着いていた。
気づいて俺は慌てる。
「え、長太郎! すごい今更だけど、こんなとこまで来て大丈夫か? こっからだったら遠いだろ」
「大丈夫。澪士が心配だったから送りたかっただけだから」
「心配って……俺だって男だし大丈夫だって」
「じゃあまた明日」
「じゃあ」
そう言って手を振り長太郎は背中を向ける。
少し考えて俺は大きな声を出した。
「長太郎! ……その」
振り返る長太郎の顔を見て、ああやっぱり声を掛けるんじゃなかった、と後悔した。
「……送ってくれてありがとう」
「うん」
少し小さな声で言うと、また長太郎は笑って手を振る、今度こそ俺は声を掛けずに、その背中が角を曲がるまで見送った。
――只のクラスメイトに、こんなに緊張するなんて、どういうことなのか。
(……まあいいや)
多分、長太郎が何をやってもサマになるイケメンだから仕方ないのだ。男の俺だってどきどきすることあるもん、たまに。
そう言い聞かせて俺は家に入った。
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