君が好きだ(オムニバス)
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並盛中学校の卒業式の日、僕は校内を走り回っていた。
「はあ……はあ……」
これだけドタバタすればすぐに会えるだろうと思っていたが、成る程僕の読みは甘かった。
すっかり息が切れても体育館以外ではあまり人の気配がしない。
僕は諦めて自分の教室に戻って自分の席に座った。今日が最後だ。
「会えると思ったのにな……」
僕はそう独り言ちて腕を机の上に置き、窓の外を見遣った。
外には、いつもよりちゃんとアイロンを掛けた制服を纏い、紺色の筒を持った生徒たちが溢れている。
どれだけ特別な日かを象徴しているかのようだ。
「話したいこと、あったのに」
ぽつりと呟いた、その時。
「誰に、話したいって?」
「!」
聞き覚えのある声に僕はばっと振り向く。
開いた教室の陰に居たのは。
「雲雀さん!」
「五月蠅いよ。廊下走ってたのは君だろ?」
「ああ、そう」
会えるかなと思って、と答える。
雲雀さんが近づいてきたが僕は逃げる気も起きなかった。
「ふーん、逃げないんだ?」
「そう。どうしても今日、雲雀さんに話したいことがあって。聞いてくれる?」
「……嫌って言っても話すでしょ?」
「うん」
「じゃあ好きにしなよ」
半ば投げやりに言う雲雀さんの横顔に僕は話し出す。
「僕、高校は海外に行くんだ」
「え?」
ぱっと雲雀さんがこちらを見る。
やった、掴みは完璧だ。
「海外に? 何で」
「何でって……両親が海外に行くから?」
切っ掛けは父の海外転勤だ。専業主婦の母は父に着いていきたいと言った。
お前はどうしたい? と聞かれた時に、僕は海外の高校に通いたいと答えた。
勿論、僕ももうじき高校生なのだから、1人で日本に残ることもできる。どうするかは最後の最後まで悩んだ。でも海外に行くことを決断したのは、雲雀さんが居るからだ。
「いつから?」
「明後日には日本を発つよ」
「随分早いんだね」
「1年前には決まってたことだから」
僕はそれをずっと誰にも話さなかった。誰かに囚われるのが怖かった。進路相談をするから担任は知っているけれど、クラスメイトに出来るだけ言わないでおいてほしいと伝えていた。
だから多分誰も知らないだろう。でも今の時代、どこにいたってすぐにメールはできるし、直接会うのが難しいってだけでいつだって繋がっていられる。
「だから最後に、雲雀さんに会って直接、言いたいと思って」
僕は中学校に入学してからあまりいい生徒ではなかった。不良という程ではなかったけれど。
そんな僕に、雲雀さんはずっと目を付けていた。
だから僕たちの間には、歪ではあるけれど、友情がある。他の誰にもない、濃いものだ。
「へえ」
「雲雀さん、お世話になりました」
僕は立ち上がり頭を下げる。
さて言いたいことは言い終わった、すっきりしたと思いながら教室を出ようとすると、後ろから声が聞こえた。
「それだけで出て行くつもり?」
「……まだ何か?」
「まだも何も、僕は何も言ってないんだけど」
振り返ると雲雀さんは怒っているように見えた。何故怒るのだろう?
いい加減、僕という腹の立つ草食動物が居なくなって、大分生活も楽になるだろうに。
「雲雀さん、僕に何か言うことが?」
「勝手に海外に行くことを決めて、一方的に言い置いていくなんて、いい度胸だよね」
「え、だってもう決まってる――雲雀さん?」
ドン、と僕のすぐ隣の壁が叩かれる。僕の背中には壁の感触がする。
待てよ、これって壁ドンってこと?
「逃げる気? 澪士」
「いや、逃げるとかじゃなくて」
「逃がさないよ、絶対に」
そうだ。これは獲物を狩る時の肉食動物の目だ。だとしたら、僕が獲物ってことだろうか。
冗談じゃない、と思ったが、僕はふっと慣用句を閃く。
「縁と月日は末を待て、ということで合ってる?」
「……ああ、いいよ、そういうことで」
雲雀さんは投げやりに言って僕から離れた。毒気を抜かれたのだろうか。
僕は笑う。
「やっぱり雲雀さん、好きだな、僕」
「何? いきなり」
「そういうとこ。何だかんだ、僕に優しいところ」
僕が危ない時、雲雀さんはいつも助けてくれた。僕は雲雀さんに何を出来ただろうか。
何もあげられていない気がするから、僕は感謝の念を言葉にするしかない。
「帰ってくる時、雲雀さんに連絡したいから、連絡先教えて」
「……いいけど」
「ありがとう。必ず連絡するよ」
ただし待つだけじゃいけないこともある。それは知っているから、僕はゆっくり、それを育てていこうと思う。
縁と月日は末を待て///男女が結びつく縁とこの世の幸せな生活は、じっと待っていれば必ず訪れるという意
「はあ……はあ……」
これだけドタバタすればすぐに会えるだろうと思っていたが、成る程僕の読みは甘かった。
すっかり息が切れても体育館以外ではあまり人の気配がしない。
僕は諦めて自分の教室に戻って自分の席に座った。今日が最後だ。
「会えると思ったのにな……」
僕はそう独り言ちて腕を机の上に置き、窓の外を見遣った。
外には、いつもよりちゃんとアイロンを掛けた制服を纏い、紺色の筒を持った生徒たちが溢れている。
どれだけ特別な日かを象徴しているかのようだ。
「話したいこと、あったのに」
ぽつりと呟いた、その時。
「誰に、話したいって?」
「!」
聞き覚えのある声に僕はばっと振り向く。
開いた教室の陰に居たのは。
「雲雀さん!」
「五月蠅いよ。廊下走ってたのは君だろ?」
「ああ、そう」
会えるかなと思って、と答える。
雲雀さんが近づいてきたが僕は逃げる気も起きなかった。
「ふーん、逃げないんだ?」
「そう。どうしても今日、雲雀さんに話したいことがあって。聞いてくれる?」
「……嫌って言っても話すでしょ?」
「うん」
「じゃあ好きにしなよ」
半ば投げやりに言う雲雀さんの横顔に僕は話し出す。
「僕、高校は海外に行くんだ」
「え?」
ぱっと雲雀さんがこちらを見る。
やった、掴みは完璧だ。
「海外に? 何で」
「何でって……両親が海外に行くから?」
切っ掛けは父の海外転勤だ。専業主婦の母は父に着いていきたいと言った。
お前はどうしたい? と聞かれた時に、僕は海外の高校に通いたいと答えた。
勿論、僕ももうじき高校生なのだから、1人で日本に残ることもできる。どうするかは最後の最後まで悩んだ。でも海外に行くことを決断したのは、雲雀さんが居るからだ。
「いつから?」
「明後日には日本を発つよ」
「随分早いんだね」
「1年前には決まってたことだから」
僕はそれをずっと誰にも話さなかった。誰かに囚われるのが怖かった。進路相談をするから担任は知っているけれど、クラスメイトに出来るだけ言わないでおいてほしいと伝えていた。
だから多分誰も知らないだろう。でも今の時代、どこにいたってすぐにメールはできるし、直接会うのが難しいってだけでいつだって繋がっていられる。
「だから最後に、雲雀さんに会って直接、言いたいと思って」
僕は中学校に入学してからあまりいい生徒ではなかった。不良という程ではなかったけれど。
そんな僕に、雲雀さんはずっと目を付けていた。
だから僕たちの間には、歪ではあるけれど、友情がある。他の誰にもない、濃いものだ。
「へえ」
「雲雀さん、お世話になりました」
僕は立ち上がり頭を下げる。
さて言いたいことは言い終わった、すっきりしたと思いながら教室を出ようとすると、後ろから声が聞こえた。
「それだけで出て行くつもり?」
「……まだ何か?」
「まだも何も、僕は何も言ってないんだけど」
振り返ると雲雀さんは怒っているように見えた。何故怒るのだろう?
いい加減、僕という腹の立つ草食動物が居なくなって、大分生活も楽になるだろうに。
「雲雀さん、僕に何か言うことが?」
「勝手に海外に行くことを決めて、一方的に言い置いていくなんて、いい度胸だよね」
「え、だってもう決まってる――雲雀さん?」
ドン、と僕のすぐ隣の壁が叩かれる。僕の背中には壁の感触がする。
待てよ、これって壁ドンってこと?
「逃げる気? 澪士」
「いや、逃げるとかじゃなくて」
「逃がさないよ、絶対に」
そうだ。これは獲物を狩る時の肉食動物の目だ。だとしたら、僕が獲物ってことだろうか。
冗談じゃない、と思ったが、僕はふっと慣用句を閃く。
「縁と月日は末を待て、ということで合ってる?」
「……ああ、いいよ、そういうことで」
雲雀さんは投げやりに言って僕から離れた。毒気を抜かれたのだろうか。
僕は笑う。
「やっぱり雲雀さん、好きだな、僕」
「何? いきなり」
「そういうとこ。何だかんだ、僕に優しいところ」
僕が危ない時、雲雀さんはいつも助けてくれた。僕は雲雀さんに何を出来ただろうか。
何もあげられていない気がするから、僕は感謝の念を言葉にするしかない。
「帰ってくる時、雲雀さんに連絡したいから、連絡先教えて」
「……いいけど」
「ありがとう。必ず連絡するよ」
ただし待つだけじゃいけないこともある。それは知っているから、僕はゆっくり、それを育てていこうと思う。
縁と月日は末を待て///男女が結びつく縁とこの世の幸せな生活は、じっと待っていれば必ず訪れるという意
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