御伽噺と微笑む(オムニバス)
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「澪士、一緒に帰ろうぜー」
「おー」
分からないことがある。
こうして2人で並んで歩く時に、いつも考える。
「てか陽介、今日ジュネスのバイトは?」
「ない。明日」
「ふーん」
「でも今月ピンチなんだよなー。もう少し昇給交渉しようかな」
「春闘だな」
夕暮れ時、こうして川の側の道を歩きながら俺たちは下らない話をする。
これは毎日ではない。むしろ珍しい方だ。俺も陽介もバイトがあるし、高校生は暇ではないのだ。
「そういえば澪士、うち寄る?」
「宿題なんかあったっけ」
「数学!」
「あっ、そっか。じゃ、ちょっとだけ」
そう言って俺たちは途中で進路変更する。
時間のある日はこうして陽介の部屋に寄って宿題をしていくこともある。2人でやった方が早いという理由からだ。大体は俺の答えを陽介が写しているだけなんだけど。
とはいえ陽介と過ごす時間が増えるのは俺にとっても悪い話ではないし、家で留守番をしているであろう菜々子には申し訳ないが、この提案を断れる筈もなかった。
「そういえばさ、澪士」
「んー」
「澪士って好きな奴いんの?」
「……どうした? いきなり」
「いや、何となく」
陽介に不意にそう聞かれた瞬間、俺の心臓はバクバクと大きな音を立てて鳴り出した。まさか聞こえていないだろうが。
緊張しながらゆっくりと陽介の方を見ると、陽介はこちらを見ていなかったので、少し安心した。
「陽介こそいんのかよ」
「えー俺が澪士に聞いてんだから先に答えろよ!」
「……うーん……」
「え、そんな悩む?」
笑う陽介。お前は他人事だろうが。
「いや……まあ、いるっちゃいるけど」
「まじ!? 同じクラスのやつ?」
「その前に陽介が答えろよ」
「えー」
言葉の選び方に間違いはないだろうか。今の俺は不自然じゃなかっただろうか。そんなことばかり考えてしまう。
「いやまあ俺も、いるといえばいる」
「おんなじじゃん」
「確かに」
そう言って俺たちは笑う。別にぎこちない空気は漂っていない、うん、よかった。ほっとした。
女子じゃあるまいし、"恋バナ"なんてしない。それ以上のことは聞きたくなかったし言いたくもなかった。
今の関係がいつまで続くんだろう、とも思うけれど、これ以上遠ざかってしまうのが怖いから、だったら別に何も起きなくて構わないとも思った。
俺たちはまた他愛ない話を再開しながら――恋愛ではない話をしながら――夕暮れに向かって歩いた。
「おー」
分からないことがある。
こうして2人で並んで歩く時に、いつも考える。
「てか陽介、今日ジュネスのバイトは?」
「ない。明日」
「ふーん」
「でも今月ピンチなんだよなー。もう少し昇給交渉しようかな」
「春闘だな」
夕暮れ時、こうして川の側の道を歩きながら俺たちは下らない話をする。
これは毎日ではない。むしろ珍しい方だ。俺も陽介もバイトがあるし、高校生は暇ではないのだ。
「そういえば澪士、うち寄る?」
「宿題なんかあったっけ」
「数学!」
「あっ、そっか。じゃ、ちょっとだけ」
そう言って俺たちは途中で進路変更する。
時間のある日はこうして陽介の部屋に寄って宿題をしていくこともある。2人でやった方が早いという理由からだ。大体は俺の答えを陽介が写しているだけなんだけど。
とはいえ陽介と過ごす時間が増えるのは俺にとっても悪い話ではないし、家で留守番をしているであろう菜々子には申し訳ないが、この提案を断れる筈もなかった。
「そういえばさ、澪士」
「んー」
「澪士って好きな奴いんの?」
「……どうした? いきなり」
「いや、何となく」
陽介に不意にそう聞かれた瞬間、俺の心臓はバクバクと大きな音を立てて鳴り出した。まさか聞こえていないだろうが。
緊張しながらゆっくりと陽介の方を見ると、陽介はこちらを見ていなかったので、少し安心した。
「陽介こそいんのかよ」
「えー俺が澪士に聞いてんだから先に答えろよ!」
「……うーん……」
「え、そんな悩む?」
笑う陽介。お前は他人事だろうが。
「いや……まあ、いるっちゃいるけど」
「まじ!? 同じクラスのやつ?」
「その前に陽介が答えろよ」
「えー」
言葉の選び方に間違いはないだろうか。今の俺は不自然じゃなかっただろうか。そんなことばかり考えてしまう。
「いやまあ俺も、いるといえばいる」
「おんなじじゃん」
「確かに」
そう言って俺たちは笑う。別にぎこちない空気は漂っていない、うん、よかった。ほっとした。
女子じゃあるまいし、"恋バナ"なんてしない。それ以上のことは聞きたくなかったし言いたくもなかった。
今の関係がいつまで続くんだろう、とも思うけれど、これ以上遠ざかってしまうのが怖いから、だったら別に何も起きなくて構わないとも思った。
俺たちはまた他愛ない話を再開しながら――恋愛ではない話をしながら――夕暮れに向かって歩いた。