御伽噺と微笑む(オムニバス)
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月からバロン王国へ帰還した後、セシルが国王になるのはごく自然な流れに思えた。
「セシルが治めるのなら、きっと良い国になるね。ローザもずっとセシルのことを支えていくんでしょ?」
「僕は、バロン王のようになれるだろうか?」
「もちろんあなたもずっと一緒に居るでしょ? レイシ」
「うん」
何も考えずに僕はセシルとローザとそんな会話を交わした。この先も、地球を守ったこのメンバーで、ずっとバロン王国を守っていくと無邪気に信じ込んでいた。
それから1週間ほど経ったある晩、何だか嫌な予感がして寝付けなかった。
黒魔道士としてずっと彼らの側に居た僕にとって、その悪い予感は無視できないものだった。こういう風に居ても立っても居られなくなった時、必ずと言っていい程悪いことが起こったのだ。
僕は急いでベッドから起き上がると闇雲に城門の方へ飛び出した。
「……カイン!」
「!」
そこで僕が見かけたのはよく見知った人の後ろ姿だった。
こんな真夜中だというのに鎧をしっかり着込み、兜も被っている。こんな暗いのに兜を被って前が見えているのだろうか?
それでもその後ろ姿を見れば誰か分かる。現に僕が声を掛けたことで彼は足を止めた。
「レイシ、なんでここに?」
「それは僕の台詞だよ」
カインの声音は困惑しているようだった。何故こんな夜中にここへやってきたのか、と。
「僕は嫌な予感がしたんだ。今まで何か悪いことが起きた時に感じていた予感が」
「……それで出てきたら、俺が居たと?」
「うん」
カインは溜息を吐いた。
「カイン、黙って出て行くつもりだった?」
僕の問いには答えない。それはつまり肯定だ。
「どこに行くつもり?」
「……答えないつもりだ、と言ったら?」
「僕も着いていく」
「はあ?」
カインは思わずといった感じで声を上げる。
「どこに行くのか分からなくても、カインにもう会えないなんて僕には耐えきれない」
「レイシを連れていけるような場所じゃない。危険だ」
「だとしたら尚更」
危険な場所ならば、カインだって無事で帰ってこられるとは限らないだろう。
僕の知らないところでカインが死んでしまうなんて、この世から居なくなってしまうなんて、考えられなかった。
「僕にカインを守らせて、とは言わないよ。でももしカインが死んでしまうその時が来てしまうなら、その時は僕も一緒に居たいから」
「……勝手だな」
「そうだよ、僕は最終的には自分のことを考えちゃうよ」
人間って皆そうだろうか。誰も聖人君子にはなれないのだろうか。
「だから連れて行って。お願い」
「……わかったよ」
「! 本当に!?」
「お前が一度言い出したら聞かない奴なのは知ってるから」
溜息交じりにそう言われても怒る気にはなれない。
急いでカインの手を掴み、自室へ戻って出かける準備をした。
「セシルとローザには、何も言わないの?」
「……多分、分かってると思う」
「分かるかなあ?」
「ああ」
どこへ行くの、と再び尋ねると、どこに行きたい、と訊かれる。
「僕が決めていいの?」
「ああ、いいよ」
「……そうだなあ……」
この手にすっぽりと収まるだけの荷物を持って、僕たちはバロン城を出た。
向かう先はどこだろう。天国か地獄か。
「そうだ、今までに見たことのない所へ行こう」
「見たことのない所?」
「それを探す旅」
嗚呼、空を見上げれば、星たちだけが輝いて見える。
隣のカインは漸く、少し笑ってくれた。
「セシルが治めるのなら、きっと良い国になるね。ローザもずっとセシルのことを支えていくんでしょ?」
「僕は、バロン王のようになれるだろうか?」
「もちろんあなたもずっと一緒に居るでしょ? レイシ」
「うん」
何も考えずに僕はセシルとローザとそんな会話を交わした。この先も、地球を守ったこのメンバーで、ずっとバロン王国を守っていくと無邪気に信じ込んでいた。
それから1週間ほど経ったある晩、何だか嫌な予感がして寝付けなかった。
黒魔道士としてずっと彼らの側に居た僕にとって、その悪い予感は無視できないものだった。こういう風に居ても立っても居られなくなった時、必ずと言っていい程悪いことが起こったのだ。
僕は急いでベッドから起き上がると闇雲に城門の方へ飛び出した。
「……カイン!」
「!」
そこで僕が見かけたのはよく見知った人の後ろ姿だった。
こんな真夜中だというのに鎧をしっかり着込み、兜も被っている。こんな暗いのに兜を被って前が見えているのだろうか?
それでもその後ろ姿を見れば誰か分かる。現に僕が声を掛けたことで彼は足を止めた。
「レイシ、なんでここに?」
「それは僕の台詞だよ」
カインの声音は困惑しているようだった。何故こんな夜中にここへやってきたのか、と。
「僕は嫌な予感がしたんだ。今まで何か悪いことが起きた時に感じていた予感が」
「……それで出てきたら、俺が居たと?」
「うん」
カインは溜息を吐いた。
「カイン、黙って出て行くつもりだった?」
僕の問いには答えない。それはつまり肯定だ。
「どこに行くつもり?」
「……答えないつもりだ、と言ったら?」
「僕も着いていく」
「はあ?」
カインは思わずといった感じで声を上げる。
「どこに行くのか分からなくても、カインにもう会えないなんて僕には耐えきれない」
「レイシを連れていけるような場所じゃない。危険だ」
「だとしたら尚更」
危険な場所ならば、カインだって無事で帰ってこられるとは限らないだろう。
僕の知らないところでカインが死んでしまうなんて、この世から居なくなってしまうなんて、考えられなかった。
「僕にカインを守らせて、とは言わないよ。でももしカインが死んでしまうその時が来てしまうなら、その時は僕も一緒に居たいから」
「……勝手だな」
「そうだよ、僕は最終的には自分のことを考えちゃうよ」
人間って皆そうだろうか。誰も聖人君子にはなれないのだろうか。
「だから連れて行って。お願い」
「……わかったよ」
「! 本当に!?」
「お前が一度言い出したら聞かない奴なのは知ってるから」
溜息交じりにそう言われても怒る気にはなれない。
急いでカインの手を掴み、自室へ戻って出かける準備をした。
「セシルとローザには、何も言わないの?」
「……多分、分かってると思う」
「分かるかなあ?」
「ああ」
どこへ行くの、と再び尋ねると、どこに行きたい、と訊かれる。
「僕が決めていいの?」
「ああ、いいよ」
「……そうだなあ……」
この手にすっぽりと収まるだけの荷物を持って、僕たちはバロン城を出た。
向かう先はどこだろう。天国か地獄か。
「そうだ、今までに見たことのない所へ行こう」
「見たことのない所?」
「それを探す旅」
嗚呼、空を見上げれば、星たちだけが輝いて見える。
隣のカインは漸く、少し笑ってくれた。