御伽噺と微笑む(オムニバス)
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今日はバレンタインデー。
女子もそわそわ、男子もそわそわしていて、高校中の多くの生徒が授業に集中できていないようだった。それを見た教師が叱ってみてもあまり効果はなさそうだ。
澪士自身はチョコを貰える期待など元々していなかったが、周りの熱に浮かされるようにそわそわしていた。
放課後、澪士は体育館裏へ現れる。ただしこれは呼び出されたのではなく澪士が呼び出した側だ。
入学したての頃からずっと気になっていた女の子が居て、バレンタインデーは主に女性から男性へチョコを渡すことが多いイベントだと知っていても、この空気に乗じるしかないと思っていた。
少し待って現れたのは意中の女子生徒。澪士の胸はどきりと高鳴る。
こんな日にこうして呼び出された時点で多分彼女は覚悟しているだろう。ならば自分も思い切らねば。
「好きです、付き合ってください!」
勇気を振り絞って告げた言葉。
女の子は驚いた顔をしたが、すぐに口を開いた。
「ごめんなさい、澪士くん……私、好きな人がいるの……」
それだけ言うと彼女はどこかへ行ってしまった。澪士は追うこともできず立ち尽くす。
(……断られた……)
高校生にとって、勇気を振り絞った告白が断られることほどつらいものはない。
澪士は暫くそこで呆然としていたが、近づいてくる足音にはっと我に返った。
「澪士くん?」
「え、」
そこに現れたのは同じクラスの黒子。澪士の友人だ。
何でここに、と言いかけたが、黒子も同じことを澪士に問いたいようだった。
「テツヤ……」
「……それ、何ですか?」
「え、あ、」
黒子は澪士の右手にある箱を指さす。澪士は慌ててその箱を鞄の中に放り込んだ。
その様子を見て、黒子は漸く澪士が今どういう状態にあったのかを察したようだった。
こんな所で立ち尽くしているとあれば触れられたくない状況であるのは間違いないのに、敢えてそこに触れてしまった黒子は、ばつの悪そうな表情で澪士に近づいてきた。
「それ」
「あ、ちょっと」
澪士はその分下がるが黒子が早足で歩いてきて、澪士が今しがた鞄にしまったばかりのその箱を取り出す。
「ちょ、なにすん、」
普段の黒子だったら絶対にこんなことはしないだろう。相手の嫌がることなんてしたくない、ましてや澪士相手なら。
澪士が困惑するのをよそに、黒子は箱を開けた。
「み、見るなって!」
「これ、僕に下さい」
「……え……?」
半泣きの澪士に、黒子の言葉。
「僕は澪士くんからのチョコが欲しいです」
「えっ、どういうこと……?」
「わかんないですか? こう言っても」
いや、多分分かっている。本当は分かっているのだけれど、失恋のショックと黒子がいきなりそんなことを言うと思っていなくて、困惑でキャパオーバーだ。
黒子は箱を自分の鞄の中にしまうと、澪士の目を見つめて言う。
「澪士くんが好きです」
「え……」
「だからこのチョコ、僕に下さい」
真剣な目。逸らしたら負けだ、と澪士は思った。
その上でどう返すのがいいのか分からなかった。黒子が自分に対してそんな想いを抱いていることなど想定外だったのだ。
悩んでいると、黒子は踵を返す。
「え、あのテツヤ、」
「すみません、いきなりこんなことを言っても困らせてしまいますよね。僕が澪士くんのことを嫌いになることは絶対にないので、いつか僕の方を見てくれる日まで待ってます」
「あ、」
澪士が止める間もなく黒子は去っていく。再びここには1人。
そうか、自分より彼の方が無口だと思っていたけれど、実は語る言葉は沢山持っていたのだ。自分はそれを知らなかっただけだ。
でもこの答えを出すには多分少しの時間がかかるだろう。ゆっくり咀嚼しよう、そう思って空いた右手をぎゅっと握り締めた。
女子もそわそわ、男子もそわそわしていて、高校中の多くの生徒が授業に集中できていないようだった。それを見た教師が叱ってみてもあまり効果はなさそうだ。
澪士自身はチョコを貰える期待など元々していなかったが、周りの熱に浮かされるようにそわそわしていた。
放課後、澪士は体育館裏へ現れる。ただしこれは呼び出されたのではなく澪士が呼び出した側だ。
入学したての頃からずっと気になっていた女の子が居て、バレンタインデーは主に女性から男性へチョコを渡すことが多いイベントだと知っていても、この空気に乗じるしかないと思っていた。
少し待って現れたのは意中の女子生徒。澪士の胸はどきりと高鳴る。
こんな日にこうして呼び出された時点で多分彼女は覚悟しているだろう。ならば自分も思い切らねば。
「好きです、付き合ってください!」
勇気を振り絞って告げた言葉。
女の子は驚いた顔をしたが、すぐに口を開いた。
「ごめんなさい、澪士くん……私、好きな人がいるの……」
それだけ言うと彼女はどこかへ行ってしまった。澪士は追うこともできず立ち尽くす。
(……断られた……)
高校生にとって、勇気を振り絞った告白が断られることほどつらいものはない。
澪士は暫くそこで呆然としていたが、近づいてくる足音にはっと我に返った。
「澪士くん?」
「え、」
そこに現れたのは同じクラスの黒子。澪士の友人だ。
何でここに、と言いかけたが、黒子も同じことを澪士に問いたいようだった。
「テツヤ……」
「……それ、何ですか?」
「え、あ、」
黒子は澪士の右手にある箱を指さす。澪士は慌ててその箱を鞄の中に放り込んだ。
その様子を見て、黒子は漸く澪士が今どういう状態にあったのかを察したようだった。
こんな所で立ち尽くしているとあれば触れられたくない状況であるのは間違いないのに、敢えてそこに触れてしまった黒子は、ばつの悪そうな表情で澪士に近づいてきた。
「それ」
「あ、ちょっと」
澪士はその分下がるが黒子が早足で歩いてきて、澪士が今しがた鞄にしまったばかりのその箱を取り出す。
「ちょ、なにすん、」
普段の黒子だったら絶対にこんなことはしないだろう。相手の嫌がることなんてしたくない、ましてや澪士相手なら。
澪士が困惑するのをよそに、黒子は箱を開けた。
「み、見るなって!」
「これ、僕に下さい」
「……え……?」
半泣きの澪士に、黒子の言葉。
「僕は澪士くんからのチョコが欲しいです」
「えっ、どういうこと……?」
「わかんないですか? こう言っても」
いや、多分分かっている。本当は分かっているのだけれど、失恋のショックと黒子がいきなりそんなことを言うと思っていなくて、困惑でキャパオーバーだ。
黒子は箱を自分の鞄の中にしまうと、澪士の目を見つめて言う。
「澪士くんが好きです」
「え……」
「だからこのチョコ、僕に下さい」
真剣な目。逸らしたら負けだ、と澪士は思った。
その上でどう返すのがいいのか分からなかった。黒子が自分に対してそんな想いを抱いていることなど想定外だったのだ。
悩んでいると、黒子は踵を返す。
「え、あのテツヤ、」
「すみません、いきなりこんなことを言っても困らせてしまいますよね。僕が澪士くんのことを嫌いになることは絶対にないので、いつか僕の方を見てくれる日まで待ってます」
「あ、」
澪士が止める間もなく黒子は去っていく。再びここには1人。
そうか、自分より彼の方が無口だと思っていたけれど、実は語る言葉は沢山持っていたのだ。自分はそれを知らなかっただけだ。
でもこの答えを出すには多分少しの時間がかかるだろう。ゆっくり咀嚼しよう、そう思って空いた右手をぎゅっと握り締めた。