アルファの受難(FEif/ゼロ)
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次にマークス兄さんの部屋に行こうと考え歩き出した時、向かいから誰かが来ていることに気づいて足を止める。
「……!」
向こうが近づいてくるにつれ、それがゼロだと分かった。
僕は思わず息を止め、じっとゼロを見つめる。
「……ゼロ」
「ハヤミ様」
僕たちは距離が2mくらい空いているかと思うところで互いに立ち止まり、名を呼ぶ。
そのゼロの表情を見て、ああ彼はレオンに今度こそちゃんとした理由を言いに来たんだ、と察した。
「ゼロ、聞かせて。理由を」
僕はそう言い近くの空き部屋に彼を連れ込む。ああ何だ、さっきレオンと一緒に聞くって言ったのに。
それでもその理由は僕が先に聞きたいと思ったし、原因は正しく森と厩舎での出来事だと思っていたから、僕に聞く権利があると思った。
後ろ手で扉を閉めると、ゼロが溜息を吐く。
「……まさか、もう一度お会いすることになるとは思っていませんでした」
「僕に理由を言えって言ったよね」
「はい」
責める口調で言うと、目を合わせないまま口を開いた。
「ハヤミ様、もうあなたにお会いすることは叶わないと思っていました。私があんなことをしたのですから」
「何? それで謝っているつもり?」
「いえ、謝るつもりはありません。あの時からその気持ちは変わっていません」
聞く人が聞けば、なんて不遜な態度だと怒るだろう。以前の僕だったら確実に張り飛ばしている。
「これ以上私がここでお仕えを続ければ、私はまた同じ過ちを犯すことになる。今だって必死に抑えているんです」
「ッ!」
ゼロは僕の手を取り、自身の股間へ導く。
そこには前と同じように猛ったものがあったが、今日は無理やりにでもしようという気はないらしい。
「……1つ聞くけど」
「はい」
「お前は僕のこと、「運命のつがい」だと思っているわけ?」
「はい、私にとって「運命のつがい」はあなた以外に有り得ません、ハヤミ様」
「随分自信があるんだね」
「あなたの姿を遠くからお見掛けする度に、私の心は張り裂けそうだった。他の誰にも感じたことのない気持ちでした」
それがいつの頃からそうだったのか分からない。レオンの従者として仕え始める前からなのか後からなのか。
「けどハヤミ様、あなたも悪いんですよ」
「僕に責任転嫁する気?」
「あなたはずっと強い意志をお持ちで、オメガなんぞとは絶対に関わらない、と公言されていた。私も流石にそこを破る気にはならなかった。けれど、あの森で……」
ゼロは思い出すように遠くを見る。
「あの森で、あなたは私に隙を見せましたね。あの時のあなたがたまらなく可愛らしく思えて、それで……」
「……何を言ってる?」
「厩舎で出会った時、もう今しかないと思った。あの1回だけでもう、今まで生きてきた全ての意味が埋まると思いました。あなたのことを傷つけることは百も承知で」
ゼロが一歩こちらへ迫ってくる。僕の手首を掴んだまま。
「あなたがこっちを見てくれた、その記憶だけでもう一生生きられると思いました。打ち首になっても構わないとさえ……けど1週間前のあの日、あなたに言われて、少しだけ目が覚めました」
少しかよ、という言葉は飲み込む。
「何も言わずに辞めるのはあまりにフェアじゃない。だからレオン様には全て話そうと」
「……それ、僕の名誉のこと考えてる? あと受け止めるレオンのこと考えてないよね?」
「勿論ハヤミ様のお名前を出すことはありません」
「当たり前だろ」
常識が通じているのか分からなくなって頭を抱える。
「――けどゼロ、お前が言いたいことは、何となく分かった。何でお前があんなことしたのか、辞めようと思ったのか」
「でしたらハヤミ様、私がここから去ることを許していただけますか」
「いや、それは許さない」
「え……」
僕が拒否するとゼロは驚いたように目を見開いた。
自分を虐げたものが同じ空間に居ることを許容するのは信じられないのだろうか。それとも自分がこれからじわじわといたぶられることを恐れている?
「僕もずっと考えたよ、色々なこと。森であったこと、厩舎であったこと、遠征中もカウンセリング中も考えた。その時僕がどうしてオメガを避けるのかも考えたんだ」
僕はひどく恐れていた。今まで僕が作り上げてきた全てが崩れることを。
「その時、気づいたんだ。僕も所詮、身勝手な人間だったと。ゼロ、お前と変わらないんだよ」
「ハヤミ様……」
「僕は僕のエゴでずっと全てを避けていた。全部が壊れるのが怖かった。兄妹や国民たちからの信頼を得るために、お前との関係を捨てたと言っても過言ではない」
話すとどんどん頭がクリアになっていく。
唐突にゼロと出会って話すことになったのに、言葉が次々にあふれ出てくる。
「でも、カミラ姉さんやレオンに尋ねたんだ。僕がアルファである以上、きっといつかオメガに出会うって。その時僕のことをどう思う? 浅ましい、暗夜を棄てた奴だと思うだろうか、って」
「……」
「――あの人たちが、そんな返答するわけないよね。僕が誰を愛したって、誰が僕を愛したって、僕は僕なんだって言ってくれた」
「ハヤミ様、」
ゼロが手を伸ばしてきて僕の頬に触れた。
僕は思わず身を震わせたが、その温かな手がいつの間にか流れていた涙を拭う。
「僕は多分、最初から気づいてた……お前が「運命のつがい」なんだって」
そう言った瞬間、胸の奥から、知ったことのない感情が溢れてきた。
「僕は、僕でなくなるのが怖かった……認めたくなかったんだ。でもお前と出会って、乱暴にあんなことをされて……漸く目が覚めた」
「違う、ハヤミ様。あれは俺が悪い」
「……漸く、素を出したね?」
「え? あ……」
僕がにやりと笑うとゼロは驚いたように僕から手を離す。
「僕もお前には謝らないから」
「はい」
「お前とは少し距離を置きたいんだ。もう今はこんなに近い所に居るけれど……僕が自分で自分を受け入れるまで」
こんな自分も居るんだということをすぐには受け入れられそうにない。まだ信じたくないと思っている部分もある。
けど知ってしまった今なら、ゼロと一緒なら乗り越えられそうだから。
「だからゼロ、辞めないでいてくれる?」
「……分かりました。それがハヤミ様の命令なら」
「命令じゃないよ。お前が決めて」
僕が厳しい口調で言うと、唇を舐めた後、ゼロは少し笑って答える。
「はい、ハヤミ様。今更ですが、私もあなたと共に居られるなら、これ以上の幸せはありません。どうかこれからも共に居させてください」
「うん、いいよ」
つられて少し笑う。涙はあっという間に乾いてしまったようだった。
「……!」
向こうが近づいてくるにつれ、それがゼロだと分かった。
僕は思わず息を止め、じっとゼロを見つめる。
「……ゼロ」
「ハヤミ様」
僕たちは距離が2mくらい空いているかと思うところで互いに立ち止まり、名を呼ぶ。
そのゼロの表情を見て、ああ彼はレオンに今度こそちゃんとした理由を言いに来たんだ、と察した。
「ゼロ、聞かせて。理由を」
僕はそう言い近くの空き部屋に彼を連れ込む。ああ何だ、さっきレオンと一緒に聞くって言ったのに。
それでもその理由は僕が先に聞きたいと思ったし、原因は正しく森と厩舎での出来事だと思っていたから、僕に聞く権利があると思った。
後ろ手で扉を閉めると、ゼロが溜息を吐く。
「……まさか、もう一度お会いすることになるとは思っていませんでした」
「僕に理由を言えって言ったよね」
「はい」
責める口調で言うと、目を合わせないまま口を開いた。
「ハヤミ様、もうあなたにお会いすることは叶わないと思っていました。私があんなことをしたのですから」
「何? それで謝っているつもり?」
「いえ、謝るつもりはありません。あの時からその気持ちは変わっていません」
聞く人が聞けば、なんて不遜な態度だと怒るだろう。以前の僕だったら確実に張り飛ばしている。
「これ以上私がここでお仕えを続ければ、私はまた同じ過ちを犯すことになる。今だって必死に抑えているんです」
「ッ!」
ゼロは僕の手を取り、自身の股間へ導く。
そこには前と同じように猛ったものがあったが、今日は無理やりにでもしようという気はないらしい。
「……1つ聞くけど」
「はい」
「お前は僕のこと、「運命のつがい」だと思っているわけ?」
「はい、私にとって「運命のつがい」はあなた以外に有り得ません、ハヤミ様」
「随分自信があるんだね」
「あなたの姿を遠くからお見掛けする度に、私の心は張り裂けそうだった。他の誰にも感じたことのない気持ちでした」
それがいつの頃からそうだったのか分からない。レオンの従者として仕え始める前からなのか後からなのか。
「けどハヤミ様、あなたも悪いんですよ」
「僕に責任転嫁する気?」
「あなたはずっと強い意志をお持ちで、オメガなんぞとは絶対に関わらない、と公言されていた。私も流石にそこを破る気にはならなかった。けれど、あの森で……」
ゼロは思い出すように遠くを見る。
「あの森で、あなたは私に隙を見せましたね。あの時のあなたがたまらなく可愛らしく思えて、それで……」
「……何を言ってる?」
「厩舎で出会った時、もう今しかないと思った。あの1回だけでもう、今まで生きてきた全ての意味が埋まると思いました。あなたのことを傷つけることは百も承知で」
ゼロが一歩こちらへ迫ってくる。僕の手首を掴んだまま。
「あなたがこっちを見てくれた、その記憶だけでもう一生生きられると思いました。打ち首になっても構わないとさえ……けど1週間前のあの日、あなたに言われて、少しだけ目が覚めました」
少しかよ、という言葉は飲み込む。
「何も言わずに辞めるのはあまりにフェアじゃない。だからレオン様には全て話そうと」
「……それ、僕の名誉のこと考えてる? あと受け止めるレオンのこと考えてないよね?」
「勿論ハヤミ様のお名前を出すことはありません」
「当たり前だろ」
常識が通じているのか分からなくなって頭を抱える。
「――けどゼロ、お前が言いたいことは、何となく分かった。何でお前があんなことしたのか、辞めようと思ったのか」
「でしたらハヤミ様、私がここから去ることを許していただけますか」
「いや、それは許さない」
「え……」
僕が拒否するとゼロは驚いたように目を見開いた。
自分を虐げたものが同じ空間に居ることを許容するのは信じられないのだろうか。それとも自分がこれからじわじわといたぶられることを恐れている?
「僕もずっと考えたよ、色々なこと。森であったこと、厩舎であったこと、遠征中もカウンセリング中も考えた。その時僕がどうしてオメガを避けるのかも考えたんだ」
僕はひどく恐れていた。今まで僕が作り上げてきた全てが崩れることを。
「その時、気づいたんだ。僕も所詮、身勝手な人間だったと。ゼロ、お前と変わらないんだよ」
「ハヤミ様……」
「僕は僕のエゴでずっと全てを避けていた。全部が壊れるのが怖かった。兄妹や国民たちからの信頼を得るために、お前との関係を捨てたと言っても過言ではない」
話すとどんどん頭がクリアになっていく。
唐突にゼロと出会って話すことになったのに、言葉が次々にあふれ出てくる。
「でも、カミラ姉さんやレオンに尋ねたんだ。僕がアルファである以上、きっといつかオメガに出会うって。その時僕のことをどう思う? 浅ましい、暗夜を棄てた奴だと思うだろうか、って」
「……」
「――あの人たちが、そんな返答するわけないよね。僕が誰を愛したって、誰が僕を愛したって、僕は僕なんだって言ってくれた」
「ハヤミ様、」
ゼロが手を伸ばしてきて僕の頬に触れた。
僕は思わず身を震わせたが、その温かな手がいつの間にか流れていた涙を拭う。
「僕は多分、最初から気づいてた……お前が「運命のつがい」なんだって」
そう言った瞬間、胸の奥から、知ったことのない感情が溢れてきた。
「僕は、僕でなくなるのが怖かった……認めたくなかったんだ。でもお前と出会って、乱暴にあんなことをされて……漸く目が覚めた」
「違う、ハヤミ様。あれは俺が悪い」
「……漸く、素を出したね?」
「え? あ……」
僕がにやりと笑うとゼロは驚いたように僕から手を離す。
「僕もお前には謝らないから」
「はい」
「お前とは少し距離を置きたいんだ。もう今はこんなに近い所に居るけれど……僕が自分で自分を受け入れるまで」
こんな自分も居るんだということをすぐには受け入れられそうにない。まだ信じたくないと思っている部分もある。
けど知ってしまった今なら、ゼロと一緒なら乗り越えられそうだから。
「だからゼロ、辞めないでいてくれる?」
「……分かりました。それがハヤミ様の命令なら」
「命令じゃないよ。お前が決めて」
僕が厳しい口調で言うと、唇を舐めた後、ゼロは少し笑って答える。
「はい、ハヤミ様。今更ですが、私もあなたと共に居られるなら、これ以上の幸せはありません。どうかこれからも共に居させてください」
「うん、いいよ」
つられて少し笑う。涙はあっという間に乾いてしまったようだった。