アルファの受難(FEif/ゼロ)
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一週間後、遠征から戻ってきた僕は、フェリシアから封筒を受け取った。
「お帰りなさいませ、ハヤミ様」
「これは?」
「検査の結果です」
「ああ、ありがとう」
そうか、そうだった。そういえば依頼していた。
受け取ると中が早く見たくなって、足早に自室へ戻り、封筒を開けた。
中にはたった一枚の紙。
「「アルファ」……だよな」
やはり僕の検査結果は「アルファ」だ。そうだ、当然だ。僕が「アルファ」じゃなかったら他の誰が「アルファ」だというのだろう? 正直、マークス兄さんが「アルファ」でないのは意外だけれど。あんなに素晴らしい人なのに。
「……でも、「アルファ」にはとんでもない一つの欠陥がある」
世の中の多くの人は「アルファ」が優秀であり、「アルファ」によって世界が治められていると思っている。でも、本当は違う。
全てを動かしているのは「オメガ」だ。だって「アルファ」は「オメガ」とつがいを作り、「オメガ」のその一挙手一投足に影響されているから。
「そう考えると、マークス兄さんが「アルファ」じゃないのは納得できる」
マークス兄さんが「オメガ」に現を抜かしているところなんて想像できない。だから彼は「ベータ」できっとよかったのだろう。
「僕は……これから、どうしようかな」
でも、遠征中に少し考えたことがある。僕には「運命のつがい」というものは分からない。
だから兄妹たちに尋ねてみようと。
「思い立ったが吉日、だよね」
すぐに誰か捕まえて聞いてみよう。決して要領を得なくても。
そう決めて、僕は部屋を出た。
「どうしたの? いきなり」
まず始めに訪ねたのはカミラ姉さんだ。姉さんなら全て許してくれそうな気がしていた。90%は僕の願望だ。
「僕が今、「オメガ」を避けて生きているのは勿論知っているよね。でも、もし……もし僕が、「運命のつがい」の相手を見つけてしまったら、カミラ姉さんはどう思う?」
嘘のような現実のような、抽象的な話をする。
でもカミラ姉さんは微笑んで間髪入れずに答えてくれた。
「そうね。ハヤミ、あなたの愛する相手が私じゃなかったら、すごく悲しいけれど……それだけであなたのことを嫌うわけはないわ。あなたは私の大事な弟だもの」
「!」
「それに、あなたは本当に暗夜王国のことを想っているのが分かるの。だから、あなたが恐れているようなことは起こらないわ」
「え……?」
カミラ姉さんの優しい言葉は続く。
「例えあなたが運命の相手と出会ったって、あなたが私たちの大切な存在であることは変わらないの。そして、あなたがこの王国の中枢を担っていくことは変わらない。それは忘れないでね」
「カミラ姉さん……ありがとう」
「どういたしまして」
元気が出たようなら嬉しいわ、という優しい声音。
「えー、ハヤミお兄ちゃん、結婚しちゃうの?」
「いや、もしもの話だって……」
エリーゼに尋ねてみれば、彼女はまだ僕の言っている意味がよくは分かっていないようだった。
「でも……うーん。ハヤミお兄ちゃんが誰かに取られちゃうのは悲しいけど、お兄ちゃんが幸せなら、私も嬉しい!」
「エリーゼ、そんな風に言ってくれるの?」
「だって、ハヤミお兄ちゃんのこと大好きだもん!」
ぎゅっと心を掴まれる。
「はあ……でも、エリーゼ。エリーゼにもいつか、そういう人が現れるってことだよね」
「えー、そうなの?」
「うん、きっとね。そうだよ」
「ねえハヤミお兄ちゃん、もし私が好きな人と結婚します! って言ったら、悲しい?」
「!」
エリーゼに問われ、僕ははっとなる。
悲しい? ……そりゃあ、当たり前だ。
でも。
「……そうだね。悲しいよ。でも、エリーゼの選んだ人なら、きっとエリーゼを幸せにしてくれるなら、僕は喜ぼうかな」
「わーい! じゃあ私も、ハヤミお兄ちゃんが好きって言った人なら、応援するよ!」
ああ、そうか。そういうことか。こんなに簡単なことに気づかなかった。
僕はエリーゼを抱きしめた。
「ありがとう、エリーゼ。何があったって、僕はエリーゼのことを護るから」
「じゃあ私がハヤミお兄ちゃんのことを護るから! お兄ちゃんの傷は、私が全部治すからねっ」
エリーゼの小さな手が僕の背に回って、僕たちは少しの間、黙ってただ抱き合った。
レオンの部屋を訪ねると、彼はいつものように熱心に魔導書を読んでいた。
遠征から帰ってきたばかりなのにレオンの熱心さには本当に頭が下がるね、と言うと、何しに来たの? と問われる。
「相談したいことがあってさ」
「へえ、相談? ハヤミ兄さんが、珍しいね」
「うん。もうレオンには、素直に言うよ」
僕はレオンのことを心の底から信頼している。勿論暗夜の兄妹たちのことは皆信頼しているが、レオンのことは格別だった。マークス兄さんよりもだ。
レオンはマークス兄さんやカミラ姉さんとは違う頭のよさを持っていて、毎日議論したって飽きることはなかった。同じ環境で育っている筈なのに僕たちが知っていること・考えていることは全然違っていて、彼と話す度に新しいことを色々知れた。
だから今回のことをレオンに告げても、きっとレオンは大丈夫だ。僕はそんな根拠のない自信を持っていた。
「僕、ゼロに会って、少し話したよ」
「1週間前のあの時より前に?」
「そう。レオンにはもうバレてるだろうと思ったから、あんまり言わないでおこうと思ったんだけど」
レオンは何も言わない。それが全ての答えなのだろう。
「もしさ、僕とゼロがそういう関係になったらどうする? レオン」
「……そういう聞き方するの珍しいよね」
「そう?」
「普段ハヤミ兄さんは「どうする」なんて聞かないでしょ」
そう言われ、僕は思わず首を傾げ考えた。果たしてそうだったか。
でもよくよく考えれば確かにそうかもしれない。howなんて聞き方は狡いからだ。
「でもその問いに敢えて答えるとしたら、ハヤミ兄さんとゼロはそんな関係にはならないと思う」
「え、どういうこと?」
「運命のつがい、って言うんだって? そういうの。でもハヤミ兄さんはそんなことで暗夜王国を投げ出す人じゃない」
レオンがそういう関係、と言っているところの真意が掴みきれないが、愛に全てを捧げる人生を送るようなタイプではなさそうと言いたいのだろうか。
だったら多分合っているだろうし、そう評してもらえるのは安心した。
「……と僕は思ってるけど、実際のところはどうなの?」
「え、いや、そんなんじゃないけど」
「1週間前のあの日、ゼロが僕の所に来た時、多分こいつは何かをしたんだなって思ったけど、絶対に口を割らなかったんだよね。同時期にハヤミ兄さんもなんか変だったし。何かあったんだろうとは思ったけど、もうどっちも大人でしょ?」
「……すいません……」
そうか、でもやはりゼロは何も言わなかったのか。まあ言う筈もないと思うが。
しかし年下に怒られるなんて余程だ。
「ハヤミ兄さん、あんなこと言ったんだから、もう一度ゼロと話すつもりでしょ?」
「うーん、まあ話すというか……レオンと一緒に話を聞こうと勝手に思ってたけど……」
「何があったかまでは聞かないけど、悔いのないようにだけはしときなね」
じゃあ僕は忙しいから、と言ってレオンは部屋から僕を追い出す。そうか、でもじゃあ多分レオンは全て分かっているのだ。
カウンセラーも「全てはあなたが許せるかどうかですね」と言っていたが、結局はそうして僕に全ての決断がゆだねられているのだ。
僕はレオンの部屋の前で目を閉じる。
彼のことを思い出した時に、そうか僕は、と思った。
「お帰りなさいませ、ハヤミ様」
「これは?」
「検査の結果です」
「ああ、ありがとう」
そうか、そうだった。そういえば依頼していた。
受け取ると中が早く見たくなって、足早に自室へ戻り、封筒を開けた。
中にはたった一枚の紙。
「「アルファ」……だよな」
やはり僕の検査結果は「アルファ」だ。そうだ、当然だ。僕が「アルファ」じゃなかったら他の誰が「アルファ」だというのだろう? 正直、マークス兄さんが「アルファ」でないのは意外だけれど。あんなに素晴らしい人なのに。
「……でも、「アルファ」にはとんでもない一つの欠陥がある」
世の中の多くの人は「アルファ」が優秀であり、「アルファ」によって世界が治められていると思っている。でも、本当は違う。
全てを動かしているのは「オメガ」だ。だって「アルファ」は「オメガ」とつがいを作り、「オメガ」のその一挙手一投足に影響されているから。
「そう考えると、マークス兄さんが「アルファ」じゃないのは納得できる」
マークス兄さんが「オメガ」に現を抜かしているところなんて想像できない。だから彼は「ベータ」できっとよかったのだろう。
「僕は……これから、どうしようかな」
でも、遠征中に少し考えたことがある。僕には「運命のつがい」というものは分からない。
だから兄妹たちに尋ねてみようと。
「思い立ったが吉日、だよね」
すぐに誰か捕まえて聞いてみよう。決して要領を得なくても。
そう決めて、僕は部屋を出た。
「どうしたの? いきなり」
まず始めに訪ねたのはカミラ姉さんだ。姉さんなら全て許してくれそうな気がしていた。90%は僕の願望だ。
「僕が今、「オメガ」を避けて生きているのは勿論知っているよね。でも、もし……もし僕が、「運命のつがい」の相手を見つけてしまったら、カミラ姉さんはどう思う?」
嘘のような現実のような、抽象的な話をする。
でもカミラ姉さんは微笑んで間髪入れずに答えてくれた。
「そうね。ハヤミ、あなたの愛する相手が私じゃなかったら、すごく悲しいけれど……それだけであなたのことを嫌うわけはないわ。あなたは私の大事な弟だもの」
「!」
「それに、あなたは本当に暗夜王国のことを想っているのが分かるの。だから、あなたが恐れているようなことは起こらないわ」
「え……?」
カミラ姉さんの優しい言葉は続く。
「例えあなたが運命の相手と出会ったって、あなたが私たちの大切な存在であることは変わらないの。そして、あなたがこの王国の中枢を担っていくことは変わらない。それは忘れないでね」
「カミラ姉さん……ありがとう」
「どういたしまして」
元気が出たようなら嬉しいわ、という優しい声音。
「えー、ハヤミお兄ちゃん、結婚しちゃうの?」
「いや、もしもの話だって……」
エリーゼに尋ねてみれば、彼女はまだ僕の言っている意味がよくは分かっていないようだった。
「でも……うーん。ハヤミお兄ちゃんが誰かに取られちゃうのは悲しいけど、お兄ちゃんが幸せなら、私も嬉しい!」
「エリーゼ、そんな風に言ってくれるの?」
「だって、ハヤミお兄ちゃんのこと大好きだもん!」
ぎゅっと心を掴まれる。
「はあ……でも、エリーゼ。エリーゼにもいつか、そういう人が現れるってことだよね」
「えー、そうなの?」
「うん、きっとね。そうだよ」
「ねえハヤミお兄ちゃん、もし私が好きな人と結婚します! って言ったら、悲しい?」
「!」
エリーゼに問われ、僕ははっとなる。
悲しい? ……そりゃあ、当たり前だ。
でも。
「……そうだね。悲しいよ。でも、エリーゼの選んだ人なら、きっとエリーゼを幸せにしてくれるなら、僕は喜ぼうかな」
「わーい! じゃあ私も、ハヤミお兄ちゃんが好きって言った人なら、応援するよ!」
ああ、そうか。そういうことか。こんなに簡単なことに気づかなかった。
僕はエリーゼを抱きしめた。
「ありがとう、エリーゼ。何があったって、僕はエリーゼのことを護るから」
「じゃあ私がハヤミお兄ちゃんのことを護るから! お兄ちゃんの傷は、私が全部治すからねっ」
エリーゼの小さな手が僕の背に回って、僕たちは少しの間、黙ってただ抱き合った。
レオンの部屋を訪ねると、彼はいつものように熱心に魔導書を読んでいた。
遠征から帰ってきたばかりなのにレオンの熱心さには本当に頭が下がるね、と言うと、何しに来たの? と問われる。
「相談したいことがあってさ」
「へえ、相談? ハヤミ兄さんが、珍しいね」
「うん。もうレオンには、素直に言うよ」
僕はレオンのことを心の底から信頼している。勿論暗夜の兄妹たちのことは皆信頼しているが、レオンのことは格別だった。マークス兄さんよりもだ。
レオンはマークス兄さんやカミラ姉さんとは違う頭のよさを持っていて、毎日議論したって飽きることはなかった。同じ環境で育っている筈なのに僕たちが知っていること・考えていることは全然違っていて、彼と話す度に新しいことを色々知れた。
だから今回のことをレオンに告げても、きっとレオンは大丈夫だ。僕はそんな根拠のない自信を持っていた。
「僕、ゼロに会って、少し話したよ」
「1週間前のあの時より前に?」
「そう。レオンにはもうバレてるだろうと思ったから、あんまり言わないでおこうと思ったんだけど」
レオンは何も言わない。それが全ての答えなのだろう。
「もしさ、僕とゼロがそういう関係になったらどうする? レオン」
「……そういう聞き方するの珍しいよね」
「そう?」
「普段ハヤミ兄さんは「どうする」なんて聞かないでしょ」
そう言われ、僕は思わず首を傾げ考えた。果たしてそうだったか。
でもよくよく考えれば確かにそうかもしれない。howなんて聞き方は狡いからだ。
「でもその問いに敢えて答えるとしたら、ハヤミ兄さんとゼロはそんな関係にはならないと思う」
「え、どういうこと?」
「運命のつがい、って言うんだって? そういうの。でもハヤミ兄さんはそんなことで暗夜王国を投げ出す人じゃない」
レオンがそういう関係、と言っているところの真意が掴みきれないが、愛に全てを捧げる人生を送るようなタイプではなさそうと言いたいのだろうか。
だったら多分合っているだろうし、そう評してもらえるのは安心した。
「……と僕は思ってるけど、実際のところはどうなの?」
「え、いや、そんなんじゃないけど」
「1週間前のあの日、ゼロが僕の所に来た時、多分こいつは何かをしたんだなって思ったけど、絶対に口を割らなかったんだよね。同時期にハヤミ兄さんもなんか変だったし。何かあったんだろうとは思ったけど、もうどっちも大人でしょ?」
「……すいません……」
そうか、でもやはりゼロは何も言わなかったのか。まあ言う筈もないと思うが。
しかし年下に怒られるなんて余程だ。
「ハヤミ兄さん、あんなこと言ったんだから、もう一度ゼロと話すつもりでしょ?」
「うーん、まあ話すというか……レオンと一緒に話を聞こうと勝手に思ってたけど……」
「何があったかまでは聞かないけど、悔いのないようにだけはしときなね」
じゃあ僕は忙しいから、と言ってレオンは部屋から僕を追い出す。そうか、でもじゃあ多分レオンは全て分かっているのだ。
カウンセラーも「全てはあなたが許せるかどうかですね」と言っていたが、結局はそうして僕に全ての決断がゆだねられているのだ。
僕はレオンの部屋の前で目を閉じる。
彼のことを思い出した時に、そうか僕は、と思った。