庭球
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※互いに大学生
謙也が事故に遭ったと聞いて、俺の思考は停止しかけたが、何とか早退して告げられた病院へ向かった。
「謙也!」
俺は丁度大学で講義を受けていた時で、何度も鳴り続ける電話が気になって集中できなくなってしまった。
こっそり教室を出て電話を取ってみれば、○×病院ですと名乗る者。
不審に思ったが忍足謙也の名前を聞いた瞬間、血の気が引いた。
彼が事故に遭い、とりあえず無事ではあったが誰に連絡してほしいか尋ねると、真っ先に俺の名前が挙がったのだという。
「おー澪士、早いな」
「うっせ馬鹿! どんだけ心配させてんだ!」
居ても立っても居られず、不審がる教授には親戚が事故に遭いましたと嘘のような本当のようなことを告げておき、タクシーを拾って病院へ直行した。
受付で尋ねればあっさり謙也の病室を教えてもらえたのだが当の本人は元気そうにひらひらと手を振っている。
「なあ何なの? 事故ってどういうこと? 無事なの? 大丈夫?」
「見ての通りピンピンしてんで」
「それは何となくわかるけど」
「あんな、あんまり言うとアホだって思われるから言いたないねん」
「もうアホだって思ってるから安心して言ってくれ」
この忍足謙也とは生まれた時からの長い付き合いだ。元々実家が近くで、幼馴染としてよく遊んでいた。
中学校までは一緒で高校は別になったのだが、別れて初めて互いの想いを知り、付き合うことに。
大学は東京に出てきて2人でルームシェアをしている。いわゆる同棲ってやつだが、付き合っているとは言いにくく、親にはただの幼馴染として通してある。
「……子供がな」
「子供?」
「車道に飛び出してん」
「!」
謙也の言葉に、俺は嫌な汗をかく。
「そんでな、俺は思わず車道に飛び出したっちゅー話や」
「馬鹿! アホ!」
「……だから澪士には言いたないって」
「じゃあ何で俺に連絡したんだよ! 俺のあの話知ってるくせに!」
「……しっとるわ」
俺は昔々小さい頃に、謙也が助けたというその子供のように、車道に飛び出した。あの時は確か、ボールを追いかけていたのだ。
その時迎えに来てくれた父は車道に飛び出す俺を見て、車が来たのを見て、俺を庇ってくれた。父はそのまま亡くなった。
小さい頃とはいえ、俺はその時のことはよく覚えている。今でもたまに夢に見るくらいだ。
俺のせいだ、って。
「でもしゃあないやん。他に連絡できる奴おらんし、どうせ澪士には言わなきゃならんし」
「そうだけど! ……だけど!」
ああ、俺は何を言っているんだろう。これはただの八つ当たりだ。
言葉を飲み込み、少し気を落ち着けた。
「――本当に、無事でよかった、謙也」
電話で謙也の名前を聞いた時、俺の心臓は止まるかと思ったのだ。
「でももう、本当に、こんな危ないことすんなよ! ……もう、俺を置いて行かないで」
俺は思わず、ベッドの上で身体を起こしている謙也を抱きしめた。
力が入ってしまったのに痛いとも言わず、謙也は俺の髪を撫でてくれた。
「……ごめんな、澪士」
「うん」
「もうこんなことせえへんから」
「うん」
「死ぬまで一緒におるからな」
「うん」
「澪士、大学卒業したら、結婚しよう」
「うん。……え?」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を見せたくなくて、謙也を抱きしめたまま俯いていたのだが。
聞き流してはいけない言葉を聞いた気がして、俺は思わず顔を上げる。
「えーと……謙也?」
「澪士、ひどい顔してんで」
「謙也のせいだし」
「で、さっきの答えはそれでええんやな?」
「え、あ、あの」
謙也からティッシュを受け取り、鼻をかみながら考えた。
しかし混乱した頭では上手く考えられない。
「本気? さっきの」
「当たり前っちゅー話や。俺が今までそんな嘘ついたことあるか?」
「ない」
ないけど、でも。
そんな風に逡巡していると、あからさまに悲しそうな顔をする謙也。
「なんや、こんなに長く付き合うてるっちゅーのに、プロポーズは受けてくれへんのか……好きなんは俺だけやったんか?」
「ああいやそういうわけじゃないんだけどさ、もっとこう、」
……じゃなくて!
「何それ思わず流されそうになったよ!?」
「はあ残念。そのまま流されればええやん」
「まず男同士だから俺ら! 親になんて言えばいいの!?」
「そこはノープロブレムや。もう俺の親も、澪士の親も知ってんで」
「は!?」
「大切な息子さんお預かりしますって。いずれ結婚も考えてますって」
「いや待て、勝手に何言って、」
「だから後は、澪士の気持ち次第や。な?」
待て、もう親も知っているって、それは本当なのだろうか。
でもよく考えれば、俺が上京してからというもの親から来るメールは今までと何だか違って、やたら謙也の名前が出てきたり、東京に来ることを躊躇ったりしているように思えた。
俺は勝手に、まあ謙也と住んでいるわけだし、大学生になったからだろうなと思っていたのだが……。
「……あのさ、謙也」
「ん?」
「言いたいことは色々あるんだけど、とりあえず」
せめてプロポーズは、病院以外の場所でしてほしいかな。
2016.09.09
※大部屋。
謙也が事故に遭ったと聞いて、俺の思考は停止しかけたが、何とか早退して告げられた病院へ向かった。
「謙也!」
俺は丁度大学で講義を受けていた時で、何度も鳴り続ける電話が気になって集中できなくなってしまった。
こっそり教室を出て電話を取ってみれば、○×病院ですと名乗る者。
不審に思ったが忍足謙也の名前を聞いた瞬間、血の気が引いた。
彼が事故に遭い、とりあえず無事ではあったが誰に連絡してほしいか尋ねると、真っ先に俺の名前が挙がったのだという。
「おー澪士、早いな」
「うっせ馬鹿! どんだけ心配させてんだ!」
居ても立っても居られず、不審がる教授には親戚が事故に遭いましたと嘘のような本当のようなことを告げておき、タクシーを拾って病院へ直行した。
受付で尋ねればあっさり謙也の病室を教えてもらえたのだが当の本人は元気そうにひらひらと手を振っている。
「なあ何なの? 事故ってどういうこと? 無事なの? 大丈夫?」
「見ての通りピンピンしてんで」
「それは何となくわかるけど」
「あんな、あんまり言うとアホだって思われるから言いたないねん」
「もうアホだって思ってるから安心して言ってくれ」
この忍足謙也とは生まれた時からの長い付き合いだ。元々実家が近くで、幼馴染としてよく遊んでいた。
中学校までは一緒で高校は別になったのだが、別れて初めて互いの想いを知り、付き合うことに。
大学は東京に出てきて2人でルームシェアをしている。いわゆる同棲ってやつだが、付き合っているとは言いにくく、親にはただの幼馴染として通してある。
「……子供がな」
「子供?」
「車道に飛び出してん」
「!」
謙也の言葉に、俺は嫌な汗をかく。
「そんでな、俺は思わず車道に飛び出したっちゅー話や」
「馬鹿! アホ!」
「……だから澪士には言いたないって」
「じゃあ何で俺に連絡したんだよ! 俺のあの話知ってるくせに!」
「……しっとるわ」
俺は昔々小さい頃に、謙也が助けたというその子供のように、車道に飛び出した。あの時は確か、ボールを追いかけていたのだ。
その時迎えに来てくれた父は車道に飛び出す俺を見て、車が来たのを見て、俺を庇ってくれた。父はそのまま亡くなった。
小さい頃とはいえ、俺はその時のことはよく覚えている。今でもたまに夢に見るくらいだ。
俺のせいだ、って。
「でもしゃあないやん。他に連絡できる奴おらんし、どうせ澪士には言わなきゃならんし」
「そうだけど! ……だけど!」
ああ、俺は何を言っているんだろう。これはただの八つ当たりだ。
言葉を飲み込み、少し気を落ち着けた。
「――本当に、無事でよかった、謙也」
電話で謙也の名前を聞いた時、俺の心臓は止まるかと思ったのだ。
「でももう、本当に、こんな危ないことすんなよ! ……もう、俺を置いて行かないで」
俺は思わず、ベッドの上で身体を起こしている謙也を抱きしめた。
力が入ってしまったのに痛いとも言わず、謙也は俺の髪を撫でてくれた。
「……ごめんな、澪士」
「うん」
「もうこんなことせえへんから」
「うん」
「死ぬまで一緒におるからな」
「うん」
「澪士、大学卒業したら、結婚しよう」
「うん。……え?」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を見せたくなくて、謙也を抱きしめたまま俯いていたのだが。
聞き流してはいけない言葉を聞いた気がして、俺は思わず顔を上げる。
「えーと……謙也?」
「澪士、ひどい顔してんで」
「謙也のせいだし」
「で、さっきの答えはそれでええんやな?」
「え、あ、あの」
謙也からティッシュを受け取り、鼻をかみながら考えた。
しかし混乱した頭では上手く考えられない。
「本気? さっきの」
「当たり前っちゅー話や。俺が今までそんな嘘ついたことあるか?」
「ない」
ないけど、でも。
そんな風に逡巡していると、あからさまに悲しそうな顔をする謙也。
「なんや、こんなに長く付き合うてるっちゅーのに、プロポーズは受けてくれへんのか……好きなんは俺だけやったんか?」
「ああいやそういうわけじゃないんだけどさ、もっとこう、」
……じゃなくて!
「何それ思わず流されそうになったよ!?」
「はあ残念。そのまま流されればええやん」
「まず男同士だから俺ら! 親になんて言えばいいの!?」
「そこはノープロブレムや。もう俺の親も、澪士の親も知ってんで」
「は!?」
「大切な息子さんお預かりしますって。いずれ結婚も考えてますって」
「いや待て、勝手に何言って、」
「だから後は、澪士の気持ち次第や。な?」
待て、もう親も知っているって、それは本当なのだろうか。
でもよく考えれば、俺が上京してからというもの親から来るメールは今までと何だか違って、やたら謙也の名前が出てきたり、東京に来ることを躊躇ったりしているように思えた。
俺は勝手に、まあ謙也と住んでいるわけだし、大学生になったからだろうなと思っていたのだが……。
「……あのさ、謙也」
「ん?」
「言いたいことは色々あるんだけど、とりあえず」
せめてプロポーズは、病院以外の場所でしてほしいかな。
2016.09.09
※大部屋。