エジコイ
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title by spiritus
ホルスがアイドルを志す前からずっと友達の腐れ縁で、都会に住みたいのに金がない俺たちは、ワンルームに一緒に住んでいた。
やがてホルスは売れてテレビでも時折見かけるようになって、俺はといえばしがない会社員だったけれど、ある時尋ねた。
「なあ」
「ん? どうしたレイシ」
「お前、俺とこのまま住んでていいの?」
俺たちはただの友達、じゃなくなっていた。いつの間にか。
最初は惰性だったし、単純に気の合う友達だった。でも気が合いすぎて、いつの間にか身体を重ねて、あー最期まで一緒に居たいな、と思っていた。お互いに。
でもアイドルって夢を売る仕事だ。恋愛禁止の女性アイドルグループとかよくあるし。勿論ホルスは男で俺も男で、世間から見ればまだまだ同性同士の恋愛って珍しいから、それでも。
「あー、でも多分、バレてないと思う」
「マジ?」
「だって、男同士で付き合うなんて、普通思わないだろ」
ああうん、そうなんだけど。そうなんだけどね。先にそう思ったのは俺だし。
けど、何か、何だか。
「……ちょっと出かけてくるわ」
「おー」
俺は携帯と財布と鍵を掴み、ふらりとワンルームを出る。息苦しいのが少し解放された。
1人になりたい、と思いながら歩いていると、行きついた先は駅前のネカフェ。備え付けの、前に誰が使ったか分からないヘッドフォンをして、動画サイトで音楽を流す。
(……そうなんだけどね)
うん、重々承知だ。俺が今ホルスと一緒に住んでいて尚且つ付き合えてるっていう奇跡も、男同士で普通付き合わないよね、っていう事実も。
自分が傷つかないように先回りして答え出してたのに、結局突き付けられて落ち込むって何なんだ。ずっと昔から、ホルスと一緒に住む前から分かり切っていたことだろうが。
ヘッドフォンから流れ出すデスメタルが俺の頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱す。でもそうでもしなきゃ痕跡を流しきれそうにない。
(俺はこうして永久に、ホルスの、隠れ蓑になってくわけ?)
売れない芸人が仲間と一緒に住んでいるみたいな、そういう風に世間では見えているんだろう。実際、俺たちは一緒に出掛けることは殆どない。
付き合ってる意味あんの? とまでは思わないけど、なんかもっと普通に生きて普通に恋愛したかったな、とか。一緒に旅行に行って美味しいもの食べて、たまには星見たりとか、夜中に突然海に出かけたりとかしたい。
(……かえろ)
これで何度目だ。この問いに返ってきたのは。
目を背けたい現実を突きつけられる度に、その度に俺はあの狭苦しいワンルームを抜け出して、どこか逃げ場所を求めてる。
このままじゃ何も変わらないのに。身内の贔屓目かもしれないけど、ホルスらはこれからも順調に売れていくだろう。そうしたらいずれ俺なんか構っていられなくなるだろうし、もっと可愛いモデルや女優に会うことも増えるだろう。
そうなった時、俺はどうするか。でもその時にならなきゃ分からないか。
ぐだぐだ考えながらヘッドフォンを外して料金を精算して、ネカフェを出ると、見覚えのある人が少し遠くに見えて驚いた。
「レイシ、やっぱりここに居たか」
「ホルス! ……何で」
「何年の付き合いだと思ってんだ」
往来の激しい通りでホルスは当然目を引く。人だかりができ始める前に、と俺たちは帰路につく。
テレビ以外で注目されるのが嫌いなホルスは駅前に出てくることなんて通勤以外にほぼないのだが、何で今日は。
「レイシが考えてることくらい分かる」
ぶっきらぼうな言葉。
「帰ったら話そうと思ってたんだけどさ、レイシ」
「なに?」
「……俺、いずれアイドルはやめるから」
「え?」
急な告白に戸惑う。え、それ今言う必要ある?
「誰かに聞かれたらどうすんだよ」
「いや、別に。何事にも終わりはあるし」
「急にどうしたんだよ」
「俺にとってはアイドルよりレイシの方が大事だから」
「!」
俺は思わず立ち止まってホルスを見た。
「でも、アイドルの方でやりたい事もあるから、もうちょい待っててくれないか」
「ホルス……それ、って」
「今度、またちゃんと言わせてくれ」
それだけ言うとホルスは早歩きで先に歩いていってしまう。
顔を見なくても分かる。ホルスがああいう態度の時は、単に照れてるだけなのだ。
俺は急いで追いかけた。
「わかった。今度聞かせて」
「……ああ」
もしかすると俺はこれをずっと待っていたのかもしれない。ホルスに甘えて、いつか分かってくれるだろうって。
なんて女々しかったんだろう、って今は気恥ずかしく思うけど、まあ結果オーライか。
ホルスがアイドルを志す前からずっと友達の腐れ縁で、都会に住みたいのに金がない俺たちは、ワンルームに一緒に住んでいた。
やがてホルスは売れてテレビでも時折見かけるようになって、俺はといえばしがない会社員だったけれど、ある時尋ねた。
「なあ」
「ん? どうしたレイシ」
「お前、俺とこのまま住んでていいの?」
俺たちはただの友達、じゃなくなっていた。いつの間にか。
最初は惰性だったし、単純に気の合う友達だった。でも気が合いすぎて、いつの間にか身体を重ねて、あー最期まで一緒に居たいな、と思っていた。お互いに。
でもアイドルって夢を売る仕事だ。恋愛禁止の女性アイドルグループとかよくあるし。勿論ホルスは男で俺も男で、世間から見ればまだまだ同性同士の恋愛って珍しいから、それでも。
「あー、でも多分、バレてないと思う」
「マジ?」
「だって、男同士で付き合うなんて、普通思わないだろ」
ああうん、そうなんだけど。そうなんだけどね。先にそう思ったのは俺だし。
けど、何か、何だか。
「……ちょっと出かけてくるわ」
「おー」
俺は携帯と財布と鍵を掴み、ふらりとワンルームを出る。息苦しいのが少し解放された。
1人になりたい、と思いながら歩いていると、行きついた先は駅前のネカフェ。備え付けの、前に誰が使ったか分からないヘッドフォンをして、動画サイトで音楽を流す。
(……そうなんだけどね)
うん、重々承知だ。俺が今ホルスと一緒に住んでいて尚且つ付き合えてるっていう奇跡も、男同士で普通付き合わないよね、っていう事実も。
自分が傷つかないように先回りして答え出してたのに、結局突き付けられて落ち込むって何なんだ。ずっと昔から、ホルスと一緒に住む前から分かり切っていたことだろうが。
ヘッドフォンから流れ出すデスメタルが俺の頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱す。でもそうでもしなきゃ痕跡を流しきれそうにない。
(俺はこうして永久に、ホルスの、隠れ蓑になってくわけ?)
売れない芸人が仲間と一緒に住んでいるみたいな、そういう風に世間では見えているんだろう。実際、俺たちは一緒に出掛けることは殆どない。
付き合ってる意味あんの? とまでは思わないけど、なんかもっと普通に生きて普通に恋愛したかったな、とか。一緒に旅行に行って美味しいもの食べて、たまには星見たりとか、夜中に突然海に出かけたりとかしたい。
(……かえろ)
これで何度目だ。この問いに返ってきたのは。
目を背けたい現実を突きつけられる度に、その度に俺はあの狭苦しいワンルームを抜け出して、どこか逃げ場所を求めてる。
このままじゃ何も変わらないのに。身内の贔屓目かもしれないけど、ホルスらはこれからも順調に売れていくだろう。そうしたらいずれ俺なんか構っていられなくなるだろうし、もっと可愛いモデルや女優に会うことも増えるだろう。
そうなった時、俺はどうするか。でもその時にならなきゃ分からないか。
ぐだぐだ考えながらヘッドフォンを外して料金を精算して、ネカフェを出ると、見覚えのある人が少し遠くに見えて驚いた。
「レイシ、やっぱりここに居たか」
「ホルス! ……何で」
「何年の付き合いだと思ってんだ」
往来の激しい通りでホルスは当然目を引く。人だかりができ始める前に、と俺たちは帰路につく。
テレビ以外で注目されるのが嫌いなホルスは駅前に出てくることなんて通勤以外にほぼないのだが、何で今日は。
「レイシが考えてることくらい分かる」
ぶっきらぼうな言葉。
「帰ったら話そうと思ってたんだけどさ、レイシ」
「なに?」
「……俺、いずれアイドルはやめるから」
「え?」
急な告白に戸惑う。え、それ今言う必要ある?
「誰かに聞かれたらどうすんだよ」
「いや、別に。何事にも終わりはあるし」
「急にどうしたんだよ」
「俺にとってはアイドルよりレイシの方が大事だから」
「!」
俺は思わず立ち止まってホルスを見た。
「でも、アイドルの方でやりたい事もあるから、もうちょい待っててくれないか」
「ホルス……それ、って」
「今度、またちゃんと言わせてくれ」
それだけ言うとホルスは早歩きで先に歩いていってしまう。
顔を見なくても分かる。ホルスがああいう態度の時は、単に照れてるだけなのだ。
俺は急いで追いかけた。
「わかった。今度聞かせて」
「……ああ」
もしかすると俺はこれをずっと待っていたのかもしれない。ホルスに甘えて、いつか分かってくれるだろうって。
なんて女々しかったんだろう、って今は気恥ずかしく思うけど、まあ結果オーライか。