エジコイ
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title by spiritus
※強い君が好きだ(エジコイ/オシリス)の前日談
※マネージャー成り代わり
「んー……しょっと」
その日、俺は事務所の本棚の整理をしていた。
あと1か月くらいで年末を迎える。しかし、当然ながら芸能事務所は年末がとても忙しい。
だからとても年末に大掃除はできないだろうということで、ラープロデューサーに、今のうちに出来る整理はしておけ、と言われたのだった。
「……とはいえ、この量じゃなあ」
M.P.5としての仕事は今週は入っていないから、マネージャーの仕事も事務所から出るようなものは少ない。だから整理するなら今の内がチャンスだ、と思って早速取り掛かったのだが。
本棚から一度本を出し、要らないものと要るものを分別。その後、本棚に戻す。
たったそれだけなのに、意外と本棚が高くて、椅子に乗らないと満足に届かないのだ。椅子に上り下りするだけでかなりの重労働。
(一人だと結構きついけど……まあ、プロデューサーも別に全部1人でやれって言いたかったわけじゃないだろうし)
俺1人で出来る分だけ片付ければいいか、と開き直って作業を続ける。
その時、突然部屋のドアが開く音がしてぱっと振り返った。
「あ! オシリス――」
振り返った視界の端に映ったのは、オシリスの姿。
俺は思わず、勢いよく身体を反転させる。その時。
「――わっ!」
がたり。椅子はあっさりバランスを崩し、俺の足も滑る。
つるりと宙に投げ出されて、本棚に置こうとしていた本も手を離れた。
「レイシ!」
オシリスが俺を呼ぶ。俺も呼び返そうとするが、如何せんそんな余裕はない。
背中が地面に叩きつけられる、そう思った瞬間、ぎゅっと目を閉じた。
ガタッと椅子が倒れる音、バサバサッと本が落ちてくる音がして、痛みを覚悟したのに、何故か何も触れてこない。
「……?」
恐る恐る目を開けてみると、そこにはオシリスが。
「え……オシリス……?」
「大丈夫か、レイシ?」
「えっ……ええっ!?」
仰向けに倒れた俺の目の前にオシリスがいる。どうやら倒れてくる椅子と本から俺を庇ってくれたらしい。
なんてことだ。所属アイドルに庇わせるなんて。
「オ、オシリス! 怪我は!?」
「はは、私は大丈夫だよ。それよりレイシは?」
「いや……でも、オシリスはアイドルなのに!」
「レイシに怪我がないなら私も大丈夫だよ」
オシリスはいつもの穏やかな口調でそう言う。けど、俺に怪我がないからオシリスも大丈夫だなんて、一体どういう理屈なのか。
「お、俺は平気だけど……」
「そうか。それならよかった」
そう返すと漸く身体を起こす。オシリスの背中からバサバサと本が落ちた。
「あの、オシリス、本当に……?」
「ああ、大丈夫だ。……そんなに心配なら、私の代わりに背中を見てくれるかい?」
「え、あ、ああ、うん」
心配だ。アイドルに傷を付けたとなれば、ラープロデューサーに報告するしかない。そしてこっぴどく叱られるだろう。
直近のオシリスの衣装に背中を出すようなものはないが、ダンスに影響を与えるかもしれない。
俺が色々なことを考えている内に、オシリスがすっかり上着を脱ぎ終わっていたので動揺した。
「え? え? オシリス?」
「ん? 君が背中の具合を見てくれると言ったんじゃないか」
「いや、言ったけども……」
そりゃあ言ったが、まさかそんなに全部脱いでしまうとは思わなかった、という言葉は飲み込んでおいた。オシリスは天然の気がある。言っても分かってもらえないだろう。
仕方ないので俺はまじまじとオシリスの背中を見る。こうしてちゃんと見るのは初めてだった。
「うん、大丈夫そうだ――」
一部、赤みがあるところはあったが怪我と言う程ではない。俺はほっとする。
言いながら、つ、と指で背中を撫でた。オシリスの肩が跳ねた。
「ん? 何、ごめん、くすぐったい?」
「……いや……」
尋ねると、オシリスはこっちから顔を背けてしまった。一体何だと言うのか。赤みのある部分には触れていないし。
「ごめん、でも、大丈夫そうだ。よかった。ありがとう」
「いや、こちらこそ」
言葉少なに答えると、手早く服を着ていく。こんな光景をプロデューサーや他のメンバーに見られたら、一体何事かと言われるだろう。
オシリスが服を着終わるまでどうか誰も入ってきませんように、と願った。
「あ、そういえば……オシリス、俺に何か用だった?」
「ん? ああ、そうだった」
沈黙を紛らわすように尋ねる。
「先程休憩が終わって、通し練習をしようかということになったんだ。だから、レイシも居てくれた方がいいと思って」
「あ、なるほど」
ちょっと安心した。何か緊急の用かと思ったら。
「レイシこそ、一体何をしていたんだ?」
「ああ、うん。ラープロデューサーに、事務所の片づけをしておけって言われていて。だから、とりあえず楽そうな本棚から始めたんだけど、恥ずかしいところを見せちゃったな」
よくよく思い出してみれば恥ずかしい。成人男性が本棚の片づけをしている時に足を滑らせるなんて。
「じゃあ、練習が終わったら皆でやろう」
「え、いいってそんな!」
「いや、皆でやった方が早いだろう」
それに、レイシが再び足を滑らせても、また助けられるからな、と。
穏やかに笑うオシリスに、俺の胸は高鳴る。
「……もう、ないように気を付けます」
「ああ、それが一番だね」
それじゃあ一緒に来てくれるか、と手を差し出され。
勿論、と答え、手を掴んで立ち上がった。
2017.12.30
※強い君が好きだ(エジコイ/オシリス)の前日談
※マネージャー成り代わり
「んー……しょっと」
その日、俺は事務所の本棚の整理をしていた。
あと1か月くらいで年末を迎える。しかし、当然ながら芸能事務所は年末がとても忙しい。
だからとても年末に大掃除はできないだろうということで、ラープロデューサーに、今のうちに出来る整理はしておけ、と言われたのだった。
「……とはいえ、この量じゃなあ」
M.P.5としての仕事は今週は入っていないから、マネージャーの仕事も事務所から出るようなものは少ない。だから整理するなら今の内がチャンスだ、と思って早速取り掛かったのだが。
本棚から一度本を出し、要らないものと要るものを分別。その後、本棚に戻す。
たったそれだけなのに、意外と本棚が高くて、椅子に乗らないと満足に届かないのだ。椅子に上り下りするだけでかなりの重労働。
(一人だと結構きついけど……まあ、プロデューサーも別に全部1人でやれって言いたかったわけじゃないだろうし)
俺1人で出来る分だけ片付ければいいか、と開き直って作業を続ける。
その時、突然部屋のドアが開く音がしてぱっと振り返った。
「あ! オシリス――」
振り返った視界の端に映ったのは、オシリスの姿。
俺は思わず、勢いよく身体を反転させる。その時。
「――わっ!」
がたり。椅子はあっさりバランスを崩し、俺の足も滑る。
つるりと宙に投げ出されて、本棚に置こうとしていた本も手を離れた。
「レイシ!」
オシリスが俺を呼ぶ。俺も呼び返そうとするが、如何せんそんな余裕はない。
背中が地面に叩きつけられる、そう思った瞬間、ぎゅっと目を閉じた。
ガタッと椅子が倒れる音、バサバサッと本が落ちてくる音がして、痛みを覚悟したのに、何故か何も触れてこない。
「……?」
恐る恐る目を開けてみると、そこにはオシリスが。
「え……オシリス……?」
「大丈夫か、レイシ?」
「えっ……ええっ!?」
仰向けに倒れた俺の目の前にオシリスがいる。どうやら倒れてくる椅子と本から俺を庇ってくれたらしい。
なんてことだ。所属アイドルに庇わせるなんて。
「オ、オシリス! 怪我は!?」
「はは、私は大丈夫だよ。それよりレイシは?」
「いや……でも、オシリスはアイドルなのに!」
「レイシに怪我がないなら私も大丈夫だよ」
オシリスはいつもの穏やかな口調でそう言う。けど、俺に怪我がないからオシリスも大丈夫だなんて、一体どういう理屈なのか。
「お、俺は平気だけど……」
「そうか。それならよかった」
そう返すと漸く身体を起こす。オシリスの背中からバサバサと本が落ちた。
「あの、オシリス、本当に……?」
「ああ、大丈夫だ。……そんなに心配なら、私の代わりに背中を見てくれるかい?」
「え、あ、ああ、うん」
心配だ。アイドルに傷を付けたとなれば、ラープロデューサーに報告するしかない。そしてこっぴどく叱られるだろう。
直近のオシリスの衣装に背中を出すようなものはないが、ダンスに影響を与えるかもしれない。
俺が色々なことを考えている内に、オシリスがすっかり上着を脱ぎ終わっていたので動揺した。
「え? え? オシリス?」
「ん? 君が背中の具合を見てくれると言ったんじゃないか」
「いや、言ったけども……」
そりゃあ言ったが、まさかそんなに全部脱いでしまうとは思わなかった、という言葉は飲み込んでおいた。オシリスは天然の気がある。言っても分かってもらえないだろう。
仕方ないので俺はまじまじとオシリスの背中を見る。こうしてちゃんと見るのは初めてだった。
「うん、大丈夫そうだ――」
一部、赤みがあるところはあったが怪我と言う程ではない。俺はほっとする。
言いながら、つ、と指で背中を撫でた。オシリスの肩が跳ねた。
「ん? 何、ごめん、くすぐったい?」
「……いや……」
尋ねると、オシリスはこっちから顔を背けてしまった。一体何だと言うのか。赤みのある部分には触れていないし。
「ごめん、でも、大丈夫そうだ。よかった。ありがとう」
「いや、こちらこそ」
言葉少なに答えると、手早く服を着ていく。こんな光景をプロデューサーや他のメンバーに見られたら、一体何事かと言われるだろう。
オシリスが服を着終わるまでどうか誰も入ってきませんように、と願った。
「あ、そういえば……オシリス、俺に何か用だった?」
「ん? ああ、そうだった」
沈黙を紛らわすように尋ねる。
「先程休憩が終わって、通し練習をしようかということになったんだ。だから、レイシも居てくれた方がいいと思って」
「あ、なるほど」
ちょっと安心した。何か緊急の用かと思ったら。
「レイシこそ、一体何をしていたんだ?」
「ああ、うん。ラープロデューサーに、事務所の片づけをしておけって言われていて。だから、とりあえず楽そうな本棚から始めたんだけど、恥ずかしいところを見せちゃったな」
よくよく思い出してみれば恥ずかしい。成人男性が本棚の片づけをしている時に足を滑らせるなんて。
「じゃあ、練習が終わったら皆でやろう」
「え、いいってそんな!」
「いや、皆でやった方が早いだろう」
それに、レイシが再び足を滑らせても、また助けられるからな、と。
穏やかに笑うオシリスに、俺の胸は高鳴る。
「……もう、ないように気を付けます」
「ああ、それが一番だね」
それじゃあ一緒に来てくれるか、と手を差し出され。
勿論、と答え、手を掴んで立ち上がった。
2017.12.30