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title by spiritus
「ねえ、マウリ? マウリは神様に差し出されてしまうってほんと? ……」
ある冬の寒い日、村の幼い少年がある噂を聞きつけ、マウリの許へ訪ねてきた。
巡る神がやってきて、その神がいるから土地が潤う。だから失礼にならぬよう生贄として女を差し出さねばならない。
しかしこの村には女は居なかったから、男達の相手をしていたマウリが選ばれた。
少年は信じられなかった。信じたくなかった。
だから真夜中にも関わらず、走ってやってきた。
「レイシ……」
少年の悲痛な面持ちを見ているのはマウリも辛かった。
だから彼の頭の上にそっと手を載せ、出来るだけ穏やかな声音で言う。
「そうだね、俺が行くことになっている」
「嫌だよ! どうしてマウリが!」
「俺もレイシと離れるのは辛いけど、この村が今後も続いていくためには、仕方ないんだよ」
マウリはレイシを抱きしめた。しかしマウリには1つだけ懸念点があった。
それは、この村から自分が離れれば、男達の性欲は一体どこへ向かうのだろうということ。
「……レイシ」
「マウリ?」
「俺はもう、君のことを守ってあげられない……」
それは大体予想が付いていた。他にも幾人か同じくらいの年代の男は居るけれど、その中で見目麗しいのはマウリとレイシくらいだった。
きっといつか、この少年は自分のことを恨むだろう。なぜ自分を置いてこの村を去ってしまったのかと。
「大丈夫。マウリが帰ってくるまで、頑張るから」
「レイシ……」
「だから、必ず帰ってきて」
できない約束はしたくなかった。けど、そうでも言わなければ、きっとこの少年は帰ってくれないだろう。
「うん、また必ず会おう、レイシ」
2人は指切りをし、親愛の証として互いの頬に軽くキスをして別れた。
マウリが神様の許へ行ってから数か月が経った。彼にとってそこは存外暮らしやすい場所だった。
そんな中、長かった冬も明けようという頃。
森へ薪を拾いに出掛けたマウリは、そこで村の幾人かと出会った。
「あ……」
「よう、マウリ。久しぶりだな」
その中にはマウリをかつて手酷く扱った者も居て、思わず身体が強張る。
しかし予想に反して彼らは近づいてはこなかった。
「ねえ、レイシは? 元気?」
彼が竜と暮らし始めてから、村には一度も下りていなかった。
だから気になっていた。あの少年のことが。
「ああ、元気にしている」
「口を開けばマウリのことばかりだな。また会うって約束したって言ってたけど」
「そう……」
とりあえずは、ほっとした。彼はもしかすると、虐げられてはいないのかもしれない。そんな浅はかな希望を抱いた。
「神様はこの村をすごく見守ってくれているから、そろそろ冬も明けると思うんだ。皆によろしく言っておいて」
「ああ」
それだけの言葉をかわし、2者はそれぞれの場所へ帰っていった。
更に時が流れ、ひょんなことから村に女たちが戻ってきた。
マウリは急くように山を下りた。神様に止められても振り向かず、一目散に走った。
どうしてもレイシに会わなければいけない。そう思っていた。
かつての住居を訪ねる。
「レイシ」
「……マウリ?」
戸を叩いて声を掛けると、名を呼ばれた。
しかしその戸を開こうとすると、強く拒まれる。
「嫌だ、やめて、マウリ」
「レイシ? 一体どうして?」
「ごめん、もう、マウリには会えない」
「会えない……?」
こんな木の扉をたった1枚だけ隔てているだけなのに。随分遠く感じる。
「どうして?」
「マウリが……神様の許へ行った後、すごく、楽しく暮らしていると聞いたんだ……その幸せを邪魔したくない。だから、会えない」
「邪魔したくないって、どういうこと? 俺はレイシに会いに来たのに」
答えが要領を得ず、マウリはついに戸を開けた。
そこに居たのはボロボロの着物を纏ったレイシ。
以前会った時より大人びているけれど、この雰囲気は何だろうか。
「マウリ……」
「レイシ、ようやく会えた」
「……もう、会いたくなかったのに」
「会いたくなかった?」
その言葉にマウリは深く傷ついた。神様の許へ行く前、必ず会おうと約束したのに。
「どうして? レイシ。何があったのかを聞かせて」
「マウリが……マウリが神様の所へ行ってから、もう色んな人が、ここに来たんだ。マウリもきっとこういうことをしてたんだろうなって知ってたから、最初の内は耐えれた。でも……」
レイシがぽろりと涙を零す。その時、マウリは漸く、やはりレイシはその運命からは逃れられていなかったのだと知った。当然といえば当然だ、自分をあんなにも求めてくる男たちばかりだったのだから。
「もう、上手く立てないんだ。傷に黴菌でも入ったのか分からないけど」
「立てない……?」
「女の人たちが戻ってきたから、もう男の人の相手はしなくて済む。でも、それ以外の生き方が分からないんだ」
「!」
思えば、レイシはまだ年端もいかない子供だ。マウリがそれを強いられたのは割と最近のことで、もうそういう行為のことは十分理解している年だったし、身体もそれなりに成長してからだった。畑仕事も既に経験していたし、自分がこの村で果たす役目のことはちゃんと理解していた。
しかしレイシは違う。彼にとって成長期はまだこれからの筈で、またちゃんとそうした作業に従事する前にこんなことを強要された。当然その行為の後は、受け入れる側にとっては農作業や狩りなんて難しいから、レイシはちゃんとそうしたことをやらせてもらえなかったのだろう。
だから、男の人に身体を預ける以外の生き方は知らないのだ。
「レイシ……」
「マウリに会ったら、きっとマウリは、前の生活のことを思い出すと思ったんだ。今はきっとすごく楽しく暮らしているんだろうと思ったから、本当は会いたくなかった」
「レイシ、レイシ、ごめん」
「謝らないで。マウリの受けた痛みが今更になって分かったから、少し遅すぎたんだ」
2人は抱き合った。マウリはレイシを神様の許へ連れて帰りたいと思ったが、それでは神様が嫌がるだろうか?
「ねえ、マウリ」
「何、レイシ」
「本当はずっと、マウリのこと好きだった」
「えっ……」
「でももう、人の愛し方が分からないんだ」
マウリは何も言えなかった。
本当は自分もレイシのことが気になっていた、それって愛っていう感情だったのか確かめる前にこの村から去ってしまったのは無責任だろうか、なんて言えなかった。
「マウリ、マウリが幸せなら、もう何だって構わない」
「レイシ、そんなこと言わないで」
「だからたまに、扉越しに、色んな話を聞かせて。ね?」
そう気丈に振る舞うレイシは、自分もいつか演じたような、マウリはそう思った。
2017.11.12
「ねえ、マウリ? マウリは神様に差し出されてしまうってほんと? ……」
ある冬の寒い日、村の幼い少年がある噂を聞きつけ、マウリの許へ訪ねてきた。
巡る神がやってきて、その神がいるから土地が潤う。だから失礼にならぬよう生贄として女を差し出さねばならない。
しかしこの村には女は居なかったから、男達の相手をしていたマウリが選ばれた。
少年は信じられなかった。信じたくなかった。
だから真夜中にも関わらず、走ってやってきた。
「レイシ……」
少年の悲痛な面持ちを見ているのはマウリも辛かった。
だから彼の頭の上にそっと手を載せ、出来るだけ穏やかな声音で言う。
「そうだね、俺が行くことになっている」
「嫌だよ! どうしてマウリが!」
「俺もレイシと離れるのは辛いけど、この村が今後も続いていくためには、仕方ないんだよ」
マウリはレイシを抱きしめた。しかしマウリには1つだけ懸念点があった。
それは、この村から自分が離れれば、男達の性欲は一体どこへ向かうのだろうということ。
「……レイシ」
「マウリ?」
「俺はもう、君のことを守ってあげられない……」
それは大体予想が付いていた。他にも幾人か同じくらいの年代の男は居るけれど、その中で見目麗しいのはマウリとレイシくらいだった。
きっといつか、この少年は自分のことを恨むだろう。なぜ自分を置いてこの村を去ってしまったのかと。
「大丈夫。マウリが帰ってくるまで、頑張るから」
「レイシ……」
「だから、必ず帰ってきて」
できない約束はしたくなかった。けど、そうでも言わなければ、きっとこの少年は帰ってくれないだろう。
「うん、また必ず会おう、レイシ」
2人は指切りをし、親愛の証として互いの頬に軽くキスをして別れた。
マウリが神様の許へ行ってから数か月が経った。彼にとってそこは存外暮らしやすい場所だった。
そんな中、長かった冬も明けようという頃。
森へ薪を拾いに出掛けたマウリは、そこで村の幾人かと出会った。
「あ……」
「よう、マウリ。久しぶりだな」
その中にはマウリをかつて手酷く扱った者も居て、思わず身体が強張る。
しかし予想に反して彼らは近づいてはこなかった。
「ねえ、レイシは? 元気?」
彼が竜と暮らし始めてから、村には一度も下りていなかった。
だから気になっていた。あの少年のことが。
「ああ、元気にしている」
「口を開けばマウリのことばかりだな。また会うって約束したって言ってたけど」
「そう……」
とりあえずは、ほっとした。彼はもしかすると、虐げられてはいないのかもしれない。そんな浅はかな希望を抱いた。
「神様はこの村をすごく見守ってくれているから、そろそろ冬も明けると思うんだ。皆によろしく言っておいて」
「ああ」
それだけの言葉をかわし、2者はそれぞれの場所へ帰っていった。
更に時が流れ、ひょんなことから村に女たちが戻ってきた。
マウリは急くように山を下りた。神様に止められても振り向かず、一目散に走った。
どうしてもレイシに会わなければいけない。そう思っていた。
かつての住居を訪ねる。
「レイシ」
「……マウリ?」
戸を叩いて声を掛けると、名を呼ばれた。
しかしその戸を開こうとすると、強く拒まれる。
「嫌だ、やめて、マウリ」
「レイシ? 一体どうして?」
「ごめん、もう、マウリには会えない」
「会えない……?」
こんな木の扉をたった1枚だけ隔てているだけなのに。随分遠く感じる。
「どうして?」
「マウリが……神様の許へ行った後、すごく、楽しく暮らしていると聞いたんだ……その幸せを邪魔したくない。だから、会えない」
「邪魔したくないって、どういうこと? 俺はレイシに会いに来たのに」
答えが要領を得ず、マウリはついに戸を開けた。
そこに居たのはボロボロの着物を纏ったレイシ。
以前会った時より大人びているけれど、この雰囲気は何だろうか。
「マウリ……」
「レイシ、ようやく会えた」
「……もう、会いたくなかったのに」
「会いたくなかった?」
その言葉にマウリは深く傷ついた。神様の許へ行く前、必ず会おうと約束したのに。
「どうして? レイシ。何があったのかを聞かせて」
「マウリが……マウリが神様の所へ行ってから、もう色んな人が、ここに来たんだ。マウリもきっとこういうことをしてたんだろうなって知ってたから、最初の内は耐えれた。でも……」
レイシがぽろりと涙を零す。その時、マウリは漸く、やはりレイシはその運命からは逃れられていなかったのだと知った。当然といえば当然だ、自分をあんなにも求めてくる男たちばかりだったのだから。
「もう、上手く立てないんだ。傷に黴菌でも入ったのか分からないけど」
「立てない……?」
「女の人たちが戻ってきたから、もう男の人の相手はしなくて済む。でも、それ以外の生き方が分からないんだ」
「!」
思えば、レイシはまだ年端もいかない子供だ。マウリがそれを強いられたのは割と最近のことで、もうそういう行為のことは十分理解している年だったし、身体もそれなりに成長してからだった。畑仕事も既に経験していたし、自分がこの村で果たす役目のことはちゃんと理解していた。
しかしレイシは違う。彼にとって成長期はまだこれからの筈で、またちゃんとそうした作業に従事する前にこんなことを強要された。当然その行為の後は、受け入れる側にとっては農作業や狩りなんて難しいから、レイシはちゃんとそうしたことをやらせてもらえなかったのだろう。
だから、男の人に身体を預ける以外の生き方は知らないのだ。
「レイシ……」
「マウリに会ったら、きっとマウリは、前の生活のことを思い出すと思ったんだ。今はきっとすごく楽しく暮らしているんだろうと思ったから、本当は会いたくなかった」
「レイシ、レイシ、ごめん」
「謝らないで。マウリの受けた痛みが今更になって分かったから、少し遅すぎたんだ」
2人は抱き合った。マウリはレイシを神様の許へ連れて帰りたいと思ったが、それでは神様が嫌がるだろうか?
「ねえ、マウリ」
「何、レイシ」
「本当はずっと、マウリのこと好きだった」
「えっ……」
「でももう、人の愛し方が分からないんだ」
マウリは何も言えなかった。
本当は自分もレイシのことが気になっていた、それって愛っていう感情だったのか確かめる前にこの村から去ってしまったのは無責任だろうか、なんて言えなかった。
「マウリ、マウリが幸せなら、もう何だって構わない」
「レイシ、そんなこと言わないで」
「だからたまに、扉越しに、色んな話を聞かせて。ね?」
そう気丈に振る舞うレイシは、自分もいつか演じたような、マウリはそう思った。
2017.11.12