庭球
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「あれ? 澪士は?」
四天宝寺中の卒業式。
白石や謙也などのテニス部の卒業生、金ちゃんらテニス部の在校生が一角に集っている。さすがに今日は練習はない。
先ほどまで、同じく卒業生の澪士も居たのだが、すっかり話し込んでいる内にいつの間にか姿を消していた。
「さあ……?」
「あっ、光もおらんやん!」
「まさか、あいつら……」
また2人でいなくなった、とテニス部の面々は溜息をついた。
所変わり、空き教室。
というのは正確ではなく、先ほどまで澪士が通っていた教室だったのだが、今はもう誰もいない。
鼻をすする音と嗚咽だけが響いている。
「……ぐすっ」
たった1人の影。それは、卒業することを信じたくない卒業生の悲しみ。
誰にも気づかれないようにすすり泣いていた、ところが。
「こんな所におった!」
「……ひかる……」
それを見つけた後輩が1人。
柄にもなく息を切らしており、澪士は思わず顔を上げる。
「勝手にどっか行かんといてください! ……心配するんで」
澪士がテニス部の集まりからいなくなったことに最初に気づいたのは財前だった。
その前から割と浮かない顔をしており何をするか分からない、と考えちゃんと見ているつもりだったのだが、ほんの僅か目を離した隙にもういなくて。
大体予想した所を片っ端から当たっていったのだが、ようやく見つけたのが、この教室。
「だって……」
ぐすぐすと鼻を鳴らす澪士に、財前は溜息をつきながらティッシュを差し出す。
以前だったら多分持っていなかっただろう。それもこれも、全て泣き虫なこの恋人のせいなのだ。
それでもそんな変化さえ愛しいと馬鹿らしくも自身で思えるくらい、財前は澪士を愛していた。
「みんな、卒業しちゃう。もう、毎日のように、蔵とか、謙也とか、その他諸々にも会えなくなっちゃう……」
「何言うとるんですか、高校近いでしょ?」
「でも、でも、」
澪士は元々テニス部ではなく引きこもりの帰宅部だった。それが3年のある日、同じクラスだった白石と謙也に引きずって連れてこられ、テニスはしないものの入り浸るようになった。マネージャー業もたまにやってくれていたのだが。
だから、まだ財前と澪士が出会ってから1年も経っていない。付き合ってからそろそろ半年だ。
「はあ……澪士さん、とりあえず、泣き止んでください」
「ひかる、」
こういう時はむりやりにでも唇を塞いでしまうのが一番良いと、財前は知っている。負のスパイラルはそこで止められる。
案の定2人の唇が離れる頃には、澪士は泣き止んでいた。
「……いつもそういうことする」
「泣きやまん澪士さんが悪いでしょ」
「でも光のそういうとこ、嫌いじゃない」
好きって言えや、と財前は心の中で思う。
「先輩方心配しとったんで、早う戻らんと何言われるか……」
「見ーつけたっ!」
「!?」
突如、教室に響く大声。
驚いて2人が同時に教室の入り口を見ると、そこに立っていたのは金ちゃん。
「金ちゃん!」
「あんな、皆捜してたでえ! ワイが一番に見つけたからたこ焼き買うてもらえるねん!」
「そんならオレやろ。オレが最初に澪士さん見つけたわ」
「ちゃうねん! 2人セットやないとあかんて」
金ちゃんの大声にテニス部が走って集まってくる。
その頃には澪士の涙はすっかり乾き、まだ目は多少赤かったが、笑えるようになっていた。
「澪士、どこ行ったかと思ったわ!」
「心配かけんなっちゅー話や!」
「はは、ごめん、みんな。……ありがとう」
口々に文句を言う部員だが、誰1人として怒っているわけではなく。
――そうだ、俺は何を考えていたんだろう? これで今生の別れというわけではないのに。
馬鹿だな、と澪士はつくづく思った。
「ね、たこ焼き食べに行こうよ、皆で」
「さんせーい! なあなあ白石、ワイが2人を一番に見つけたんやから、たこ焼き買うてくれるやろ!?」
「金ちゃん、オレやなくて澪士に言いや」
「な!?」
白石は、迷惑料、と言いながら澪士を指す。
指された澪士はガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。ここで金ちゃんに捕まれば最後、たこ焼きの奢りは確定だ。それは何としても避けねば。
みんなをよけて走り出す澪士。目指すはグラウンドだ。
「おい待て澪士!」
「鬼ごっこなら負けへんで!」
「……なあ、みんな!」
振り返り、突然澪士は立ち止まる。一瞬、そこは静寂に包まれる。
「卒業してからも……遊ぼうな!」
そう、こう言えばよかったんだ。最初から。卒業はしたいし、したくない。
答えを見つけた澪士に財前はふっと笑う。
「当たり前やないか!」
返ってきた言葉に心底安堵する。
澪士は自分を受け容れてくれた仲間たちに感謝すると共に、ようやく卒業を受け容れた。
四天宝寺中の卒業式。
白石や謙也などのテニス部の卒業生、金ちゃんらテニス部の在校生が一角に集っている。さすがに今日は練習はない。
先ほどまで、同じく卒業生の澪士も居たのだが、すっかり話し込んでいる内にいつの間にか姿を消していた。
「さあ……?」
「あっ、光もおらんやん!」
「まさか、あいつら……」
また2人でいなくなった、とテニス部の面々は溜息をついた。
所変わり、空き教室。
というのは正確ではなく、先ほどまで澪士が通っていた教室だったのだが、今はもう誰もいない。
鼻をすする音と嗚咽だけが響いている。
「……ぐすっ」
たった1人の影。それは、卒業することを信じたくない卒業生の悲しみ。
誰にも気づかれないようにすすり泣いていた、ところが。
「こんな所におった!」
「……ひかる……」
それを見つけた後輩が1人。
柄にもなく息を切らしており、澪士は思わず顔を上げる。
「勝手にどっか行かんといてください! ……心配するんで」
澪士がテニス部の集まりからいなくなったことに最初に気づいたのは財前だった。
その前から割と浮かない顔をしており何をするか分からない、と考えちゃんと見ているつもりだったのだが、ほんの僅か目を離した隙にもういなくて。
大体予想した所を片っ端から当たっていったのだが、ようやく見つけたのが、この教室。
「だって……」
ぐすぐすと鼻を鳴らす澪士に、財前は溜息をつきながらティッシュを差し出す。
以前だったら多分持っていなかっただろう。それもこれも、全て泣き虫なこの恋人のせいなのだ。
それでもそんな変化さえ愛しいと馬鹿らしくも自身で思えるくらい、財前は澪士を愛していた。
「みんな、卒業しちゃう。もう、毎日のように、蔵とか、謙也とか、その他諸々にも会えなくなっちゃう……」
「何言うとるんですか、高校近いでしょ?」
「でも、でも、」
澪士は元々テニス部ではなく引きこもりの帰宅部だった。それが3年のある日、同じクラスだった白石と謙也に引きずって連れてこられ、テニスはしないものの入り浸るようになった。マネージャー業もたまにやってくれていたのだが。
だから、まだ財前と澪士が出会ってから1年も経っていない。付き合ってからそろそろ半年だ。
「はあ……澪士さん、とりあえず、泣き止んでください」
「ひかる、」
こういう時はむりやりにでも唇を塞いでしまうのが一番良いと、財前は知っている。負のスパイラルはそこで止められる。
案の定2人の唇が離れる頃には、澪士は泣き止んでいた。
「……いつもそういうことする」
「泣きやまん澪士さんが悪いでしょ」
「でも光のそういうとこ、嫌いじゃない」
好きって言えや、と財前は心の中で思う。
「先輩方心配しとったんで、早う戻らんと何言われるか……」
「見ーつけたっ!」
「!?」
突如、教室に響く大声。
驚いて2人が同時に教室の入り口を見ると、そこに立っていたのは金ちゃん。
「金ちゃん!」
「あんな、皆捜してたでえ! ワイが一番に見つけたからたこ焼き買うてもらえるねん!」
「そんならオレやろ。オレが最初に澪士さん見つけたわ」
「ちゃうねん! 2人セットやないとあかんて」
金ちゃんの大声にテニス部が走って集まってくる。
その頃には澪士の涙はすっかり乾き、まだ目は多少赤かったが、笑えるようになっていた。
「澪士、どこ行ったかと思ったわ!」
「心配かけんなっちゅー話や!」
「はは、ごめん、みんな。……ありがとう」
口々に文句を言う部員だが、誰1人として怒っているわけではなく。
――そうだ、俺は何を考えていたんだろう? これで今生の別れというわけではないのに。
馬鹿だな、と澪士はつくづく思った。
「ね、たこ焼き食べに行こうよ、皆で」
「さんせーい! なあなあ白石、ワイが2人を一番に見つけたんやから、たこ焼き買うてくれるやろ!?」
「金ちゃん、オレやなくて澪士に言いや」
「な!?」
白石は、迷惑料、と言いながら澪士を指す。
指された澪士はガタリと椅子を鳴らして立ち上がった。ここで金ちゃんに捕まれば最後、たこ焼きの奢りは確定だ。それは何としても避けねば。
みんなをよけて走り出す澪士。目指すはグラウンドだ。
「おい待て澪士!」
「鬼ごっこなら負けへんで!」
「……なあ、みんな!」
振り返り、突然澪士は立ち止まる。一瞬、そこは静寂に包まれる。
「卒業してからも……遊ぼうな!」
そう、こう言えばよかったんだ。最初から。卒業はしたいし、したくない。
答えを見つけた澪士に財前はふっと笑う。
「当たり前やないか!」
返ってきた言葉に心底安堵する。
澪士は自分を受け容れてくれた仲間たちに感謝すると共に、ようやく卒業を受け容れた。