title by spiritus

「ねえホープ！ 遊んでよ！」

　そう言いながら食事中のホープに体当たりする少年。
　ホープはうっと呻いてバランスを崩すが、それを見ているカイルは只苦笑するだけだ。

「おい今俺が食事してるのが分かんないのか？」
「知らないよ！ 遊んでほしいんだもん！」
「お前なー……」

　どういう躾をされたんだよ、と言いかけるが、彼の生い立ちを思い出してホープは口をつぐんだ。彼の両親は彼を残して死に、彼は天涯孤独の身で、ホープとカイルに頼ってきたのだ。
　少年が物々しいクリムゾンの人々に狙われているせいで、ホープも応戦せねばならない事態になるのが目下の悩みの種なのだが。

「……明日な」
「ええ！？」

　そう適当に答え、食事を再開しようとしたホープに、少年は大声を上げる。

「大体、レイシお前メシは？」
「食べ終わった」
「はあ？ 早すぎだろ」
「ホープが遅いだけだって！」
「お前、あんまり大人を馬鹿にすんなよ？」

　そうは言うものの、ホープの見た目は一見頼りなさそうだとカイルは感じている。
　実践になれば非常に腕が立ち、１人でも５人くらいの敵は撃退してしまうのに。
　賭け事には滅法弱く、普段も無精髭なんか生やし、非常に弱気な生き方をしているのだ。

「……じゃあさ、ホープ」

　それだから、こうして少年にも、「ホープ」と呼び捨てにされてしまうわけなのだが。

「明日、晴れたら遊んで！」
「……カイル、こいつを何とかしてくれ」
「いいだろホープ？ この街は安全そうだし、たまに遊んでやっても」
「カイルもレイシの味方かよ！」
「じゃあ決まりね、ホープ！ 僕はお風呂に入ってから寝る！ おやすみ！」

　少年は大きな声を上げ、先に宿へ向かって帰っていく。
　それを、脱力して深く椅子の背もたれにもたれたまま見送った２人だったが、すぐにカイルが前のめりになってホープに言った。

「おい待てよホープ！ レイシを１人で帰らせちまった！」
「……いや大丈夫だろ？ 流石に。宿はすぐそこだし」
「そんなわけあるか！ レイシがどれだけ狙われてるか――」

　カイルが反論した瞬間、外から聞こえる慌ただしい足音。
　２人は顔を見合わせ、はあ、仕方ねえ、と立ち上がった。



2017.08.30
（ねえホープ！ 起きて！ 晴れたよ！）
（うるせえ……寝かせろ……）
（何で？ 昨日約束したじゃん！）
（誰のせいで昨晩戦う羽目になったと思ってるんだよ！）