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title by spiritus
僕がメルと共に井戸の中で目覚めてからというもの、その日々はまさに至福だった。
ずっとメルと一緒に居たいという夢が叶ったのだ。
「メル、今日はどうしようか」
「うん、そうだな」
僕たちは禍に巻き込まれ、この井戸に放り投げられるに至った。目が覚めてみれば、僕たちは他の魂を宿していた。
もしこの世に神がいるのだとしたら、何という粋な計らいなのだろう。
僕たちは死して尚この世に留まり、こうして愛しい人と共に居られるのだから!
「レイシ、今日はあの人の復讐を手伝っておいで」
世の中には憎むべき、断罪されるべき者たちが沢山居る。惜しくも命を奪われてしまった人々は僕たちの許へたどり着き、その憾みを歌う。
僕たちに出来ることは彼女らを助け、正しく彼らを断罪することだ。
そうすることで彼女らは満足し、この地から離れていく。僕たちはそれが嬉しかった。
「分かったよ、メル」
主に力添えするのは僕だ。メルはどうしたらいいか教えてくれるだけ。
そうして僕は今日も井戸から這い出た。さあ楽しい夜の始まりだ。
そんな日々を繰り返す内に、僕たちの許にある魂がたどり着いた。
メルはいつものように話しかけたが、僕は何だか嫌な雰囲気を感じていて、早く追い返してほしいと考えていた。
「お嬢さん、一体どうしたいのか、憾みを歌ってご覧」
僕は少し考える内に気づいた。
この井戸にやってくる人々は、いつも昏い陰りを纏っている。それは彼女たちが既に死した存在だから、というだけではない。
彼女らをその様な状態に追いやった者をひどく憎んでおり、僕たちがそう促すより前に、復讐を企てていたのだ。
しかし今日やってきたその魂は違った。陰りなんか1つもない。
光に満ちていて、とても眩しくて、僕なんかではとても直視できなかった。
「いいえ、憾みはありません」
「憾みがない?」
メルは驚いたように言った。それはそうだ。その原動力がなければここにはやってこないだろう。
「あなたを迎えに来ました、メル」
「えっ?」
「メルを?」
僕らは思わず問い返す。
その瞬間、彼女の光がより一層輝きを増した。
「覚えていませんか? あなたが森を駆け回っていた頃のことを」
「森……?」
「私はあなたのことをずっと考えていた。だから此処に来られたのかもしれません」
その様子に僕は恐ろしくなり、メルの手を握り締める。
「もう帰れ! メルは絶対、誰にも渡さない!」
「レイシ……」
「いいえ、メル。あなたは少しずつ思い出している筈です。かつてのことを」
「勝手なことを言うな!」
僕は彼女の言葉を必死に遮った。
この手を放してしまえば、すぐにでもメルはどこかへ行ってしまいそうな、そんな危うさを感じていたのだ。
「待てよ……思い出した」
「メル……?」
「僕は……そう、確か……」
「待って、メル、それ以上は言わないで!」
「……君は……エリザベト、だね」
「!」
メルがそう言った瞬間、僕の手がついにメルをすり抜けた。
必死にその身体を掴もうとするが、なかなか掴めない。
「思い出してくれましたか、メル」
「ああ、ようやく」
「メル! メル!」
「あなたは本当はこんな所に縛り付けられるべきではなかった。迎えに来られてよかったわ」
「ありがとう、エリザベト」
「メル! 嫌だ、行かないで!」
しかし僕の言葉はもう届いてすらいないようだった。
彼と彼女はこちらに一瞥をくれることもなく、どこかへ行ってしまう。
もう今は僕しかいない井戸は、再び暗闇に鎖される。
「メル……どうして……」
僕には迎えに来てくれる人なんていない。僕を本当に想ってくれる人なんてもういないから。
だから、僕はこのまま彼女らの復讐を手伝うだけだ。
「そうしたら……」
いつかどこかで、もう一度出会えるだろうか?
2017.11.12
僕がメルと共に井戸の中で目覚めてからというもの、その日々はまさに至福だった。
ずっとメルと一緒に居たいという夢が叶ったのだ。
「メル、今日はどうしようか」
「うん、そうだな」
僕たちは禍に巻き込まれ、この井戸に放り投げられるに至った。目が覚めてみれば、僕たちは他の魂を宿していた。
もしこの世に神がいるのだとしたら、何という粋な計らいなのだろう。
僕たちは死して尚この世に留まり、こうして愛しい人と共に居られるのだから!
「レイシ、今日はあの人の復讐を手伝っておいで」
世の中には憎むべき、断罪されるべき者たちが沢山居る。惜しくも命を奪われてしまった人々は僕たちの許へたどり着き、その憾みを歌う。
僕たちに出来ることは彼女らを助け、正しく彼らを断罪することだ。
そうすることで彼女らは満足し、この地から離れていく。僕たちはそれが嬉しかった。
「分かったよ、メル」
主に力添えするのは僕だ。メルはどうしたらいいか教えてくれるだけ。
そうして僕は今日も井戸から這い出た。さあ楽しい夜の始まりだ。
そんな日々を繰り返す内に、僕たちの許にある魂がたどり着いた。
メルはいつものように話しかけたが、僕は何だか嫌な雰囲気を感じていて、早く追い返してほしいと考えていた。
「お嬢さん、一体どうしたいのか、憾みを歌ってご覧」
僕は少し考える内に気づいた。
この井戸にやってくる人々は、いつも昏い陰りを纏っている。それは彼女たちが既に死した存在だから、というだけではない。
彼女らをその様な状態に追いやった者をひどく憎んでおり、僕たちがそう促すより前に、復讐を企てていたのだ。
しかし今日やってきたその魂は違った。陰りなんか1つもない。
光に満ちていて、とても眩しくて、僕なんかではとても直視できなかった。
「いいえ、憾みはありません」
「憾みがない?」
メルは驚いたように言った。それはそうだ。その原動力がなければここにはやってこないだろう。
「あなたを迎えに来ました、メル」
「えっ?」
「メルを?」
僕らは思わず問い返す。
その瞬間、彼女の光がより一層輝きを増した。
「覚えていませんか? あなたが森を駆け回っていた頃のことを」
「森……?」
「私はあなたのことをずっと考えていた。だから此処に来られたのかもしれません」
その様子に僕は恐ろしくなり、メルの手を握り締める。
「もう帰れ! メルは絶対、誰にも渡さない!」
「レイシ……」
「いいえ、メル。あなたは少しずつ思い出している筈です。かつてのことを」
「勝手なことを言うな!」
僕は彼女の言葉を必死に遮った。
この手を放してしまえば、すぐにでもメルはどこかへ行ってしまいそうな、そんな危うさを感じていたのだ。
「待てよ……思い出した」
「メル……?」
「僕は……そう、確か……」
「待って、メル、それ以上は言わないで!」
「……君は……エリザベト、だね」
「!」
メルがそう言った瞬間、僕の手がついにメルをすり抜けた。
必死にその身体を掴もうとするが、なかなか掴めない。
「思い出してくれましたか、メル」
「ああ、ようやく」
「メル! メル!」
「あなたは本当はこんな所に縛り付けられるべきではなかった。迎えに来られてよかったわ」
「ありがとう、エリザベト」
「メル! 嫌だ、行かないで!」
しかし僕の言葉はもう届いてすらいないようだった。
彼と彼女はこちらに一瞥をくれることもなく、どこかへ行ってしまう。
もう今は僕しかいない井戸は、再び暗闇に鎖される。
「メル……どうして……」
僕には迎えに来てくれる人なんていない。僕を本当に想ってくれる人なんてもういないから。
だから、僕はこのまま彼女らの復讐を手伝うだけだ。
「そうしたら……」
いつかどこかで、もう一度出会えるだろうか?
2017.11.12