Stella Peluche

ハロウィンナイトフェスティバル。
各事務所のアイドル達が集まる大きなイベントだ。
Office Cutoy所属のステラペルーシェも今回はステージでのパフォーマンスも予定している。


「すごいねー! ほんと、お祭りみたい!」
ハロフェス会場には、様々な出店が並び、祭りさながらの様子だった。翔が出店に目移りしながら嬉しそうに声を上げる。
「ワクワクしちゃうね。こんな様子なら先にチビ達も連れてきても良かったかな?」
安慈がそう言った。チビ達とは、彼の弟や妹たちのことである。
「色んな事務所のアイドルが集まっているんでしょ?他のアイドルのパフォーマンスを見るいい機会じゃない。僕はこういった出店より本番のステージの方が楽しみだけど」
ため息を交えながら瑞貴がそう言った。何事にもストイックな彼らしい言葉ではある。


三人が楽しそうに会場を歩いていると、

「みーーずき ちゃーーーん!!」

どこからか、瑞貴を呼んでいると思われる声がする。
三人は、誰だ?と思いながら辺りを見回すと、片手にお好み焼きのヘラを持った、赤髪のサングラスをかけた青年がこちらに向かってぶんぶんと手を振っていた。

「瑞貴の友達?」
翔は、瑞貴に向かってそう聞いたが、瑞貴が思いっきり首を横に振った。
「あんな奴、知らない!!!」
瑞貴はそう言って、声の主から視線を外す。
いつも不遜な態度の瑞貴には珍しく慌てている様子だった。
「あれぇ? つれないなぁ……。みーーずきちゃーーーん! そこのー!飛鳥井 瑞貴ちゃーーーん!!」
赤髪の青年は先ほどよりも大きな声で瑞貴をフルネームで呼んだ。
すると、瑞貴が顔を真っ赤にして、青年のいる出店に向かって歩いていく。
朱雀すざく! やめて!そんな大きな声で呼んだら騒ぎになるでしょ!!そんなことも分からないの⁉︎」
「怒った顔も可愛いやーん♡瑞貴ちゃんがこっち振り向いてくれへんから、オレ寂しかったで」
「もう! 僕の話聞いてるの⁉︎」

翔と安慈が瑞貴の後を追って出店の前に行き、安慈が瑞貴の肩に手を置いて、怒る彼を宥めた。
「まぁまぁ、瑞貴落ち着いて。そんなに怒らないの。どうしたの?」
「瑞貴の知り合いなの?」
安慈と翔が口々にそう言うと、瑞貴が溜息をついて口を開こうとしたが……

「あれ? オレのこと知らんの? あー、傷ついたわぁ」
「えっ、あっ、傷ついた? ごっごめんなさい」
朱雀の言葉に、翔が戸惑い思わず頭を下げた。
「あっはっは!自分、素直やなぁ。オレは、ティアゼの種田 朱雀たねだ すざくや!スザッキーって呼んでなぁ」

ティアゼ と聞いて、翔と安慈が前に事務所で見せられたティアゼのコンサート映像を思い浮かべる。
映像で見たのに、圧巻のステージだったなと思い出す。
言われてみれば、あのステージにいた赤髪の青年と同じ……だが、何故こんな胡散臭い風貌で出店にいるのだろう?
二人が疑問を口にする間もなく、朱雀は喋りつづける。

「でな!瑞貴ちゃんとは、同じクラスやで!なのに、瑞貴ちゃんったらいけずなんや……」
ぐすぐすと泣き真似をする朱雀に瑞貴が再び溜息をつく。
「そうやって朱雀は大騒ぎするから嫌なの。少しは 士葵しき先輩を見習ったらどうなの」
「それは嫌や。スザッキーじゃなくなってまう」
2人のやり取りに翔は思わず吹き出してしまったが、先程の疑問を彼にぶつけた。
「ハロフェスはティアゼのステージは無いんですか? なんで出店やってるんです?」
「逆や。出店やってるからステージが無いんよ。スザッキーのヤバい粉屋!グランドオープン!」
朱雀は大仰に手を広げてそう叫ぶ。

「ヤバい粉屋って名前、よく許可下りたね……」
「それも不思議だけど、その名前のせいかな?あんまり他のお客さんいないの…」
「ね、アンジー。ヤバい粉って何?何がヤバいの?」

三人が少々退きながらそう言った。
翔だけは、ヤバい粉の意味が分かっていない。
「ヤバい粉屋は、ヤバ美味いお好み焼き屋やで!せっかくだからみんな食べていき!!」
三人に有無を言わせず、朱雀は手際良くお好み焼きを作り始める。
様子を見ている限りは、変なものは出てこなさそうである。
そうして出来上がったお好み焼きは、オレンジ色の生地のとても美味しいものだったので、三人は喜んで食べていた。
そして、安慈が「料理上手だね、Cトイカフェでバイトしない?」と朱雀に声を掛けていたが、瑞貴が全力で止めていた。

こうして、ステージまでの僅かな時間、三人は存分にハロフェスを楽しんだとさ。
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