Stella Peluche
「瑞貴くん、試しにこの部分は少しウィスパーに歌ってみてくれる?」
「分かりました」
翔、安慈に続いて、この日は瑞貴がヴィア ラクテアのスタジオでヴォーカルレコーディングをしていた。レコーディングに立ち会っているのは曲を作ったヨウとトム、そして作詞をしたマオの3人と、高嶺だ。
高嶺は、翔や安慈の時と同様に壁際のソファに掛けて、レコーディングの様子を見ながら今後のスケジュールなどを調整しているようだった。
今は、瑞貴が一通り歌った後、トムが細かい指示を出しながら、部分的に録り直しをしている。
瑞貴のソロ曲はジャズアレンジの洒落た曲だ。
歌詞の半分は英語だったものだから、曲のデータを貰った霞鳥が驚いていたが、瑞貴は然程驚きもせず、淡々と練習をしていた。
「オッケー。今の感じすごく良いから、2フレーズ目は少し食い気味に入ってみてくれる? その方が、ハットのリズムと合うから気持ちいいと思う」
「分かりました。もう一度お願いします」
瑞貴はトムの指示にそう言うとヘッドフォンの位置を直して歌う体勢になる。
エンジニアがレコーディングする箇所の少し前から曲を流すと、瑞貴は身体でリズムを取りながら滑らかな英語で歌い出した。
「すごいな、最近のアイドルはレベル高い」
トムの隣で見ていたヨウがそう呟いた。
トムがそれに頷くと、エンジニアにOKを出して曲を止めた。
「瑞貴くん、オッケー。お疲れ様でした。一回通しで聞いてみようか」
キューボタンを押しながらトムがそう言うと、瑞貴は『ありがとうございました』とマイク越しに言って、ヘッドフォンを外した。
「お疲れ様」
高嶺がブースの扉を開けて瑞貴を出迎える。
「お疲れ様でした。どうでした?」
「ふふふ。すごく素敵な出来だと思うわ」
「ありがとうございます」
高嶺の言葉にニコリと笑うと、Luarの3人もお疲れ様とブースから出てきた瑞貴を労う。
「瑞貴くん、英語の発音めちゃくちゃ綺麗だね! 英詞で渡して良かった!」
「え? あ、ありがとうございます……」
マオがニコニコしながら瑞貴を褒めると、瑞貴は恥ずかしそうに返事をした。
「曲の雰囲気がだいぶ大人っぽいから、英語にした方がキレイだなと思ったから英語で書いたんだけどね、発音がイマイチだったら書き換えようかと……」
「マオちゃん、この段階でそんなこと言うの? 相変わらず無茶を言う……」
マオの爆弾発言に頭を抱えるヨウ。トムは日常茶飯事といった様子で、クスクスと笑っている程度だった。
「確かに、すごく発音が綺麗だった。もしかして留学とかしてた?」
ヨウがそう瑞貴に訊ねると、瑞貴は首を横に振る。
「いえ、留学はしてないです。けど、ずっとネイティブの先生をつけてもらってたので、一応日常会話くらいはできます」
淡々と答えた瑞貴に、一同が驚く。
「すごーい!」
「僕の家が家なので……。いつそう言う場に連れて行かれるか分からないので、身につけておけと……」
「あぁ、そういうことか。君も大変だねぇ」
「えぇ。でも、今回のレコーディングで役立って良かったです」
「え? ヨウくん何が分かったの?」
ヨウの言葉の意味が分からず、マオが口を挟む。
「え? 瑞貴くんの家は超お金持ちの元財閥だよ?
飛鳥井グループの名前くらい知ってるでしょ?社交界だと海外のお客さんとも交流するでしょ? そこでしゃべれないと恥ずかしいから、英語は最低限身につけろって言われたんだよね?」
「そういうことです」
「あぁ、なるほど。そういうことか。でも、えらいよね」
マオの言葉に、一体何が?といった様子で、その場にいた全員が目を丸くする
「全然偉くないですよ? 特に、僕は末っ子だからそうでもしないと、兄達と並べなかったから……」
瑞貴が慌てて否定すると、マオが首を横に振った。
「えー? だって、それだけお金持ちなら通訳雇うのなんて簡単じゃん? 政治家の人なんかよく通訳の人連れて歩いてるじゃん。それなのに、自分でなんとかしようって努力するんだから偉いなぁって。それに、お兄ちゃん達と並べないからって頑張ってたわけでしょ? オレなら末っ子なのを良いことに甘えてどうにかしてもらっちゃうけどな」
「いや、頑張れよ」
マオの言葉に、ヨウが辛辣なツッコミを入れると、トムが苦笑いをする。
「まぁ、英語に限らず、瑞貴くんって天性のセンスもあるだろうけど、歌もパフォーマンスも全部、すっごい沢山の練習の上にできてると思う。すごく努力して、洗練されたんだなっていうのがライブの映像見て感じたんだよねぇ」
そう言って、さらりと瑞貴を褒めるマオ。
突然のことに、瑞貴は顔を赤くして黙ってしまった。こんな風に面と向かって褒められることも、ましてや同じ事務所内や身内ではない人に言われたことが殆ど無かったから、何と返していいのか分からなかった。
「ぁ……その……ありがとう……ございます……」
「どういたしましてー♪顔赤くして可愛いねぇ♪」
「マオ、あんまり揶揄うんじゃないよ」
瑞貴の様子にニコニコしているマオをこれ以上弄らないようにトムが牽制する
「それじゃあ、一曲通しでチェックしようか」
『お願いします』と、ヨウがエンジニアに言うと、曲が始まった。
ハイハットのリズムから、ベースとピアノが入ると華やかなイントロになる。そして、瑞貴のヴォーカルが入ると、一気に艶っぽさが乗った。
楽曲の出来に、Luarの3人は満足そうに笑みを浮かべていた。
「……僕じゃないみたい」
曲を聞いていた瑞貴は、思わずそう呟いてしまった。
「これもちゃんと瑞貴くんだよ。君の可能性はまだまだいくらでも広がるよ」
隣に掛けていたトムがそう言うと、瑞貴は少し目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに笑った。
「分かりました」
翔、安慈に続いて、この日は瑞貴がヴィア ラクテアのスタジオでヴォーカルレコーディングをしていた。レコーディングに立ち会っているのは曲を作ったヨウとトム、そして作詞をしたマオの3人と、高嶺だ。
高嶺は、翔や安慈の時と同様に壁際のソファに掛けて、レコーディングの様子を見ながら今後のスケジュールなどを調整しているようだった。
今は、瑞貴が一通り歌った後、トムが細かい指示を出しながら、部分的に録り直しをしている。
瑞貴のソロ曲はジャズアレンジの洒落た曲だ。
歌詞の半分は英語だったものだから、曲のデータを貰った霞鳥が驚いていたが、瑞貴は然程驚きもせず、淡々と練習をしていた。
「オッケー。今の感じすごく良いから、2フレーズ目は少し食い気味に入ってみてくれる? その方が、ハットのリズムと合うから気持ちいいと思う」
「分かりました。もう一度お願いします」
瑞貴はトムの指示にそう言うとヘッドフォンの位置を直して歌う体勢になる。
エンジニアがレコーディングする箇所の少し前から曲を流すと、瑞貴は身体でリズムを取りながら滑らかな英語で歌い出した。
「すごいな、最近のアイドルはレベル高い」
トムの隣で見ていたヨウがそう呟いた。
トムがそれに頷くと、エンジニアにOKを出して曲を止めた。
「瑞貴くん、オッケー。お疲れ様でした。一回通しで聞いてみようか」
キューボタンを押しながらトムがそう言うと、瑞貴は『ありがとうございました』とマイク越しに言って、ヘッドフォンを外した。
「お疲れ様」
高嶺がブースの扉を開けて瑞貴を出迎える。
「お疲れ様でした。どうでした?」
「ふふふ。すごく素敵な出来だと思うわ」
「ありがとうございます」
高嶺の言葉にニコリと笑うと、Luarの3人もお疲れ様とブースから出てきた瑞貴を労う。
「瑞貴くん、英語の発音めちゃくちゃ綺麗だね! 英詞で渡して良かった!」
「え? あ、ありがとうございます……」
マオがニコニコしながら瑞貴を褒めると、瑞貴は恥ずかしそうに返事をした。
「曲の雰囲気がだいぶ大人っぽいから、英語にした方がキレイだなと思ったから英語で書いたんだけどね、発音がイマイチだったら書き換えようかと……」
「マオちゃん、この段階でそんなこと言うの? 相変わらず無茶を言う……」
マオの爆弾発言に頭を抱えるヨウ。トムは日常茶飯事といった様子で、クスクスと笑っている程度だった。
「確かに、すごく発音が綺麗だった。もしかして留学とかしてた?」
ヨウがそう瑞貴に訊ねると、瑞貴は首を横に振る。
「いえ、留学はしてないです。けど、ずっとネイティブの先生をつけてもらってたので、一応日常会話くらいはできます」
淡々と答えた瑞貴に、一同が驚く。
「すごーい!」
「僕の家が家なので……。いつそう言う場に連れて行かれるか分からないので、身につけておけと……」
「あぁ、そういうことか。君も大変だねぇ」
「えぇ。でも、今回のレコーディングで役立って良かったです」
「え? ヨウくん何が分かったの?」
ヨウの言葉の意味が分からず、マオが口を挟む。
「え? 瑞貴くんの家は超お金持ちの元財閥だよ?
飛鳥井グループの名前くらい知ってるでしょ?社交界だと海外のお客さんとも交流するでしょ? そこでしゃべれないと恥ずかしいから、英語は最低限身につけろって言われたんだよね?」
「そういうことです」
「あぁ、なるほど。そういうことか。でも、えらいよね」
マオの言葉に、一体何が?といった様子で、その場にいた全員が目を丸くする
「全然偉くないですよ? 特に、僕は末っ子だからそうでもしないと、兄達と並べなかったから……」
瑞貴が慌てて否定すると、マオが首を横に振った。
「えー? だって、それだけお金持ちなら通訳雇うのなんて簡単じゃん? 政治家の人なんかよく通訳の人連れて歩いてるじゃん。それなのに、自分でなんとかしようって努力するんだから偉いなぁって。それに、お兄ちゃん達と並べないからって頑張ってたわけでしょ? オレなら末っ子なのを良いことに甘えてどうにかしてもらっちゃうけどな」
「いや、頑張れよ」
マオの言葉に、ヨウが辛辣なツッコミを入れると、トムが苦笑いをする。
「まぁ、英語に限らず、瑞貴くんって天性のセンスもあるだろうけど、歌もパフォーマンスも全部、すっごい沢山の練習の上にできてると思う。すごく努力して、洗練されたんだなっていうのがライブの映像見て感じたんだよねぇ」
そう言って、さらりと瑞貴を褒めるマオ。
突然のことに、瑞貴は顔を赤くして黙ってしまった。こんな風に面と向かって褒められることも、ましてや同じ事務所内や身内ではない人に言われたことが殆ど無かったから、何と返していいのか分からなかった。
「ぁ……その……ありがとう……ございます……」
「どういたしましてー♪顔赤くして可愛いねぇ♪」
「マオ、あんまり揶揄うんじゃないよ」
瑞貴の様子にニコニコしているマオをこれ以上弄らないようにトムが牽制する
「それじゃあ、一曲通しでチェックしようか」
『お願いします』と、ヨウがエンジニアに言うと、曲が始まった。
ハイハットのリズムから、ベースとピアノが入ると華やかなイントロになる。そして、瑞貴のヴォーカルが入ると、一気に艶っぽさが乗った。
楽曲の出来に、Luarの3人は満足そうに笑みを浮かべていた。
「……僕じゃないみたい」
曲を聞いていた瑞貴は、思わずそう呟いてしまった。
「これもちゃんと瑞貴くんだよ。君の可能性はまだまだいくらでも広がるよ」
隣に掛けていたトムがそう言うと、瑞貴は少し目を丸くしたが、すぐに嬉しそうに笑った。