Stella Peluche
Luarとの会議から一週間。
提供楽曲もほぼ完成し、あとはヴォーカルレコーディングだけとなった。
翔は、高嶺と共にヴィア ラクテアの自社スタジオに来ており、Luarのトキと共にレコーディングをしていた。
「はい。オッケーです」
レコーディングエンジニアが、コンソールのキューボタンを押しながら、レコーディングブースにいる翔に向かってそう言った。
その言葉に、ガラス越しに翔がニコリと笑って、『ありがとうございます』とマイクに向かって言った。
「翔くん、ごめんね。今のところ、ラストのメロディだけキーを上げて歌える?」
ディレクターテーブルに座るトキが、キューボタンを押しながらそう言った。
「はい。いけます」
マイク越しに翔はそう言うと、小さな声で今さっき歌ったフレーズを確認するように歌った。
「準備はいいですか?」
「はい。大丈夫です」
エンジニアの言葉に、マイクの前に立って歌う態勢になる翔。
先程、ニコリと笑った雰囲気とは全く別人のような緊張感を纏う。
レコーディングするフレーズの少し前から曲がかかると、翔が大きくブレスをして歌い出した。
トキが手掛けた美しいメロディを、指示通りにキーを上げて翔が伸びやかな声で歌い上げる。
その歌声にトキが満足そうに笑みを浮かべると、『OKです』とエンジニアに向かって言った。
エンジニアがレコーディングを止めると、翔に合図を出して音楽も止めた。
「翔くん、今のテイクでいきます。ありがとう、お疲れ様」
「ありがとうございました!」
翔はマイク越しに笑顔でそう言うと、ヘッドフォンを外して、レコーディングブースから出る。
ブースへのドアは二重になっているため、コントロールルーム側の扉は、近くにいた高嶺が開けた。
「翔くん、お疲れ様」
「あ、高嶺さんありがとうございます。お疲れ様でした」
ブースから出てきた翔は、壁際のソファに腰掛けて、ペットボトルの水に口をつけた。
エンジニアとトキは、モニターに向かって今日録ったヴォーカルトラックのデータを整理をしている。
「トキさん、これで全部ですね」
「OK。ありがとう。翔くん、最後に通しで聞いてみようか。もし、自分で気に入らないところがあれば言って。もちろん、歌い直しもしていいよ。うちのスタジオだから時間は気にしなくていいからね」
「はい、ありがとうございます」
翔がニコリとしてそう返事をすると、エンジニアが曲の頭から再生する。
曲のチェックをしながら、エンジニアはコンソールを弄ってミックスも始めていた。
翔のソロ曲は、ピアノやストリングスがメインのバラードだ。曲の前半は翔の伸びのある声が映えるよう、シンプルになっていて、だんだん終わりに向けてバンドサウンドも入って盛り上がってくる。
先程、録ったばかりのラストのキーを上げたメロディは、とてもよく映えていて、翔は自分の声だが鳥肌が立つような感覚を覚えていた。
「……どうだった?」
曲が終わると、トキが翔に向かってそう言った。
「あ、オレは、良いと思います。すごく良い曲だなって……。最後キー上げた方がカッコいいですね」
「うん。俺もそう思って。それじゃあ、俺もヴォーカルに関してはOK。このままミックスを仕上げるね。翔くん、お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
それから、一旦休憩を挟んでから、ミックス作業に入るとのことで、エンジニアはスタジオから一度出て行き、高嶺は、レコーディングが終わったことを霞鳥に伝える為に出て行った。
「いやー、本当にすごい歌唱力だね」
トキが、翔にそう言った。
「ありがとうございます。オレ、勉強とか得意じゃないから、よく、歌声にパラメーター全振りだね って言われるんですけどね」
翔の自虐に、トキがクスクスと笑う。
「それだけ歌えれば勉強なんかできなくても充分だよ」
「あはは……。でも、いつもテストがヒヤヒヤするんですよねぇ。困った時は安慈に教えてもらうんですけど」
翔がニコニコとそう言うと、トキも微笑む。
「翔くんは、それだけ歌えるのにどうして『アイドル』という道を選んだの?」
トキの質問に翔は目を丸くして黙った。
「ソロシンガーでも充分やっていけそうだと、俺は君の声を聞いて思ったけれど、そういうのは考えなかった?」
「あ……えっと……」
トキの言葉に、翔は、言おうかどうしようか、言葉を懸命に選んで口籠もってしまう。
翔の様子に、小さく首を傾げたトキだったが、翔が喋りだすまで静かに待っていた。
暫くすると、意を決したように翔が口を開く。
「あの……表には言ってないことなんですけど……。オレ、4年前に姉を病気で亡くしてるんです。その、姉がものすごいアイドルが好きで、色んなアイドルのライブに行ったり、グッズ買ったりしてて……そうやって好きなもの追っかけてる姉がすごくキラキラしてたんですよね」
少しずつ、言葉を選ぶようにそう言った翔の表情は、姉の姿を思い出しているのか穏やかだった。
「すまない……。変なことを聞いたね」
「あぁ、いいんです!表立って言うことじゃないですから……。姉が入院してる間も、お気に入りのCDやDVDやら持ってきてってよく頼まれてて。それを見てた姉は、病気でもやっぱりキラキラしてたんですよ。アイドルってすごいなってその時に思って。あとは、姉が『翔もアイドルになったら?』って言ってくれたんですよ。その時は適当に返事したんですけど……亡くなってから、アイドルになろうって決めて、今の学校に行ったんです」
「そうか……」
「だから、ソロでやるとかそもそも全然頭になくて。アイドルになるって決めてから、安慈と瑞貴にも出会えたし、こうやって3人で活動できてるので楽しいですよ。トキさんの曲でまた歌える曲の幅も増えたと思いますし。毎日、良い経験させて頂いてます」
翔はそう言ってニコリと笑う。
「それなら良かった。是非ともまた一緒に仕事したいね」
「はい!オレもまたご一緒したいです」
二人がそう話していると、高嶺とエンジニアがスタジオに戻ってきた。
「霞鳥がミックスをチェックしたいとのことで、今こちらに向かってます。二、三十分で着くと思います」
高嶺がトキにそう言うと、トキは『了解です』と返事をする。
「翔くん、今日はこれで終わりだから家まで送るわね」
「ありがとうございます」
『帰るわよ』と高嶺に言われて翔は慌てて荷物をまとめる。
「それでは、お先に失礼します」
「はーい。高嶺さん、翔くん、お疲れ様。また会えるといいね」
トキはニッコリと笑って翔にひらひらと手を振った。
「はい!お疲れ様でした!」
翔もそう言ってトキに手を振って、高嶺と共にスタジオを出た。
「……あの子たち、きっとまだ伸びるし、まだまだ伸ばせるなぁ……」
二人が出て行った後、トキは誰に言うでもなくそう呟いていた。
提供楽曲もほぼ完成し、あとはヴォーカルレコーディングだけとなった。
翔は、高嶺と共にヴィア ラクテアの自社スタジオに来ており、Luarのトキと共にレコーディングをしていた。
「はい。オッケーです」
レコーディングエンジニアが、コンソールのキューボタンを押しながら、レコーディングブースにいる翔に向かってそう言った。
その言葉に、ガラス越しに翔がニコリと笑って、『ありがとうございます』とマイクに向かって言った。
「翔くん、ごめんね。今のところ、ラストのメロディだけキーを上げて歌える?」
ディレクターテーブルに座るトキが、キューボタンを押しながらそう言った。
「はい。いけます」
マイク越しに翔はそう言うと、小さな声で今さっき歌ったフレーズを確認するように歌った。
「準備はいいですか?」
「はい。大丈夫です」
エンジニアの言葉に、マイクの前に立って歌う態勢になる翔。
先程、ニコリと笑った雰囲気とは全く別人のような緊張感を纏う。
レコーディングするフレーズの少し前から曲がかかると、翔が大きくブレスをして歌い出した。
トキが手掛けた美しいメロディを、指示通りにキーを上げて翔が伸びやかな声で歌い上げる。
その歌声にトキが満足そうに笑みを浮かべると、『OKです』とエンジニアに向かって言った。
エンジニアがレコーディングを止めると、翔に合図を出して音楽も止めた。
「翔くん、今のテイクでいきます。ありがとう、お疲れ様」
「ありがとうございました!」
翔はマイク越しに笑顔でそう言うと、ヘッドフォンを外して、レコーディングブースから出る。
ブースへのドアは二重になっているため、コントロールルーム側の扉は、近くにいた高嶺が開けた。
「翔くん、お疲れ様」
「あ、高嶺さんありがとうございます。お疲れ様でした」
ブースから出てきた翔は、壁際のソファに腰掛けて、ペットボトルの水に口をつけた。
エンジニアとトキは、モニターに向かって今日録ったヴォーカルトラックのデータを整理をしている。
「トキさん、これで全部ですね」
「OK。ありがとう。翔くん、最後に通しで聞いてみようか。もし、自分で気に入らないところがあれば言って。もちろん、歌い直しもしていいよ。うちのスタジオだから時間は気にしなくていいからね」
「はい、ありがとうございます」
翔がニコリとしてそう返事をすると、エンジニアが曲の頭から再生する。
曲のチェックをしながら、エンジニアはコンソールを弄ってミックスも始めていた。
翔のソロ曲は、ピアノやストリングスがメインのバラードだ。曲の前半は翔の伸びのある声が映えるよう、シンプルになっていて、だんだん終わりに向けてバンドサウンドも入って盛り上がってくる。
先程、録ったばかりのラストのキーを上げたメロディは、とてもよく映えていて、翔は自分の声だが鳥肌が立つような感覚を覚えていた。
「……どうだった?」
曲が終わると、トキが翔に向かってそう言った。
「あ、オレは、良いと思います。すごく良い曲だなって……。最後キー上げた方がカッコいいですね」
「うん。俺もそう思って。それじゃあ、俺もヴォーカルに関してはOK。このままミックスを仕上げるね。翔くん、お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
それから、一旦休憩を挟んでから、ミックス作業に入るとのことで、エンジニアはスタジオから一度出て行き、高嶺は、レコーディングが終わったことを霞鳥に伝える為に出て行った。
「いやー、本当にすごい歌唱力だね」
トキが、翔にそう言った。
「ありがとうございます。オレ、勉強とか得意じゃないから、よく、歌声にパラメーター全振りだね って言われるんですけどね」
翔の自虐に、トキがクスクスと笑う。
「それだけ歌えれば勉強なんかできなくても充分だよ」
「あはは……。でも、いつもテストがヒヤヒヤするんですよねぇ。困った時は安慈に教えてもらうんですけど」
翔がニコニコとそう言うと、トキも微笑む。
「翔くんは、それだけ歌えるのにどうして『アイドル』という道を選んだの?」
トキの質問に翔は目を丸くして黙った。
「ソロシンガーでも充分やっていけそうだと、俺は君の声を聞いて思ったけれど、そういうのは考えなかった?」
「あ……えっと……」
トキの言葉に、翔は、言おうかどうしようか、言葉を懸命に選んで口籠もってしまう。
翔の様子に、小さく首を傾げたトキだったが、翔が喋りだすまで静かに待っていた。
暫くすると、意を決したように翔が口を開く。
「あの……表には言ってないことなんですけど……。オレ、4年前に姉を病気で亡くしてるんです。その、姉がものすごいアイドルが好きで、色んなアイドルのライブに行ったり、グッズ買ったりしてて……そうやって好きなもの追っかけてる姉がすごくキラキラしてたんですよね」
少しずつ、言葉を選ぶようにそう言った翔の表情は、姉の姿を思い出しているのか穏やかだった。
「すまない……。変なことを聞いたね」
「あぁ、いいんです!表立って言うことじゃないですから……。姉が入院してる間も、お気に入りのCDやDVDやら持ってきてってよく頼まれてて。それを見てた姉は、病気でもやっぱりキラキラしてたんですよ。アイドルってすごいなってその時に思って。あとは、姉が『翔もアイドルになったら?』って言ってくれたんですよ。その時は適当に返事したんですけど……亡くなってから、アイドルになろうって決めて、今の学校に行ったんです」
「そうか……」
「だから、ソロでやるとかそもそも全然頭になくて。アイドルになるって決めてから、安慈と瑞貴にも出会えたし、こうやって3人で活動できてるので楽しいですよ。トキさんの曲でまた歌える曲の幅も増えたと思いますし。毎日、良い経験させて頂いてます」
翔はそう言ってニコリと笑う。
「それなら良かった。是非ともまた一緒に仕事したいね」
「はい!オレもまたご一緒したいです」
二人がそう話していると、高嶺とエンジニアがスタジオに戻ってきた。
「霞鳥がミックスをチェックしたいとのことで、今こちらに向かってます。二、三十分で着くと思います」
高嶺がトキにそう言うと、トキは『了解です』と返事をする。
「翔くん、今日はこれで終わりだから家まで送るわね」
「ありがとうございます」
『帰るわよ』と高嶺に言われて翔は慌てて荷物をまとめる。
「それでは、お先に失礼します」
「はーい。高嶺さん、翔くん、お疲れ様。また会えるといいね」
トキはニッコリと笑って翔にひらひらと手を振った。
「はい!お疲れ様でした!」
翔もそう言ってトキに手を振って、高嶺と共にスタジオを出た。
「……あの子たち、きっとまだ伸びるし、まだまだ伸ばせるなぁ……」
二人が出て行った後、トキは誰に言うでもなくそう呟いていた。