Stella Peluche

「れ・い・か・さーん♪」
事務所のオフィスで、妙な小躍りをしながら高嶺に近づいていく女が一人。彼女に対して、高嶺は小さく溜息をついた。
霞鳥かすみどりさん、なんですか?妙にご機嫌ですけど」
「もー、一年も前からカサネさんで良いって言ってるのにぃ」
「プロデューサーをそんな風に馴れ馴れしく呼べませんよ。で、どうしましたか?次の仕事ですか?」
「ふふふー。ステラペちゃん達のソロ曲、是非にって楽曲提供してくれる方が決まったのよー。それで、ステラペちゃん達に会いたいんだって。もちろん、ステラペちゃんの資料は、全部あっちには予め見てもらってるけれど、近日中に会議組めるかしら?」
ニコニコしながらそう高嶺に言う霞鳥。
高嶺は、大きなスケジュール帳を開いて予定を確認する。ここ最近はアルバムのレコーディングとレッスンばかりなので、そこまでタイトなスケジュールは組んでいない。
あとは、三人それぞれの学校の予定を再確認すればいいだろう。
「三人に学校の予定を再確認してからになりますけど、三日後の夕方なら空いてます」
「オッケー。じゃあ、三人に聞いておいてくれる?分かり次第、私の方から先方に連絡するわ」
霞鳥から返ってくる言葉に全て音符マークがついているのではないか?というくらい、彼女の機嫌が良いことに高嶺は不審に思っていた。
大抵、忙しくてピリピリしていることが多い彼女が、これだけ機嫌が良いとなんだか気持ち悪い。
「なんでそんなに機嫌がいいんです?彼氏でもできました?」
「え?彼氏なんか要らないわよ。だって、うちの可愛いステラペちゃんに、楽曲提供してくれるのが私の推しなんだもの!」
そう言って、霞鳥が高嶺のデスクに置いたのは書類の入ったクリアファイル。
そこには、メールの遣り取りと思われるプリントが挟まっていて、そこに書かれていた名前が……

「……『ヴィア ラクテア 甲斐田 時哉』え!待ってください!本当に⁉︎」
「えぇ。Luarルアルよ。しかもリーダー直々にね」



三日後……。
ステラペルーシェの三人と、高嶺、霞鳥は、Luarの事務所『 Via lacteaヴィア ラクテア』のビルに来ていた。
Luarは、国を代表するくらい人気のヴィジュアル系ロックバンド。ブレイクした当初は社会現象にもなったくらいのトップアーティストだ。そして、数年前、彼らが独立をして作った事務所がヴィア ラクテアだ。
当然、そんな人達に会うのだから、ステラペルーシェの三人は緊張していた。

「ねぇ、Luarだよ?本物に会うんだよ?」
「そんなの分かってるけどさ……まともに喋れるか……」
「あ、安慈がそんなんじゃダメだからね!」
「瑞貴、震えてるよ?」
「翔は黙ってて!」
「ほら、静かにして」
三人が口々に言うのを高嶺が制する。
会議室に通された4人は、霞鳥とLuarメンバーが来るのを待っているのだが、なかなか来ない。
やけに長く感じるのは緊張のせいなのだろうか。
そう思っていたら、廊下の方から、はしゃいでいるような霞鳥の声が聞こえてきた。

「はい、お待たせー!会議するわよ!」
会議室の扉が開き、霞鳥がそう言って部屋に入ってきた。
人の事務所なのに、何故か張り切ってその場を仕切る霞鳥。たしかに、彼女がプロデューサーだからこの場で一番偉いと言えば偉いのだが……。
彼女の後に、Luarメンバーも入ってきたので、高嶺は三人に立つように促すと、そのまま挨拶をさせた。

「初めまして、ステラペルーシェです。本日は、よろしくお願いします」
安慈がそう挨拶をすると、翔と瑞貴も続いて『よろしくお願いします』とお辞儀をしていた。
「学校終わりで疲れているところ悪いね。みんな、来てくれてありがとう。LuarのTOKIトキです。君たちには、いい曲を提供したいと思っているから、是非意見を聞かせてくれるかな?」
Luarのリーダーであり、ギタリスト。そしてメインコンポーザーのトキがそう挨拶をすると、全員席につくよう促していた。

「君が、リードヴォーカルの翔くん。で、リーダーの安慈くん……。で、可愛い担当の瑞貴くん」
それぞれの顔を見ながらトキがそう言って確認していた。
「すみません。それ、公式の情報ですか?」
高嶺が思わず口を挟む。
何も間違ってはいないが、この隣でニヤニヤしているプロデューサーが変な書き込みした資料を渡していないかの確認だ。
可愛い担当と言われた瑞貴は、こういった場で言われるとオチみたいじゃないか、と複雑な気持ちでいた。
「ふふっ、一応Luarメンバーの見解だよ。資料や、夏フェスのライブも見せてもらったからね。こちらも、誰がどの子に曲を書こうかある程度決めてはいるのだけれど」
高嶺がホッと胸を撫で下ろすと、トキは、忘れていたね とLuarのメンバーを紹介する。
一番入り口側に座るトキの隣は、ギタリストのREIレイ。その隣はドラマーのTOMトム、そしてベーシストのYOHヨウ。一番奥がヴォーカリストのMAOマオだ。
Luarは全員が作詞作曲をするため、それぞれが三人にどういった曲を書いたのか、デモ音源の確認と、今後のスケジュールを決めるのが今日の会議だ。


「さて、曲なんだけど……まず、翔くんには俺から一曲。君の歌唱力を活かしたいからバラードでいこうと思う」
トキの言葉に、翔は小さく『わぁ』と声を漏らしていた。
「それから、安慈くんには……」
「俺が」
トキの言葉を遮ってレイが口を挟む。
「安慈くん、よろしくね。カッコいいの用意してるから」
「ありがとうございます」
ニコリと柔らかく笑うレイに、安慈も笑顔でそう返した。
「そして、瑞貴くんにはトムとヨウで曲を……」
「作詞はオレね!!」
トキが喋るのを遮ったのはマオ。突然喋りだすマオにトキが苦笑いをする。
「はい、マオちゃん落ち着いて。今回、瑞貴くんの曲はマオがどうしても詞を書きたいというのでお願いしたよ」
「あのね、君たちのイベントとかライブ見せてもらったんだけど、怪盗の格好してたのあったでしょ?」
マオが嬉々として話すのを聞いて、瑞貴は以前出演したイベントのことを思い出す。
「あぁ、あれですね。あれは僕も気に入ってる衣装なんです」
「あれ、すっごい似合ってたから、あのイメージで書いてるんだ。楽しみにしてて」
「曲も瑞貴くんの声に合わせてアレンジをいくつか用意しているんだけど、君の意見も聞かせてね」
「わぁ、ありがとうございます」

各々が自己紹介を済ませると、トキが場を仕切り直す。
「それじゃあ、君達には現段階でのデモを聞いてもらうのと……霞鳥さんと、高嶺さんとはレコーディングのスケジュールを詰めたいと思っているのですが、いかがですか?」
「えぇ。お願いします」


そうして、会議が始まった。
彼らのアルバムの完成まで、あと少し……。
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