Stella Peluche

「今回うちの事務所は、ライブに出る子もいますが、出店をメインで参加することになりました。
なので、翔くんも瑞貴くんもカフェのお手伝いをお願いしたいんだけど……別で何か二人でやりたいことあるかしら?」

ある日、事務所の会議室に呼ばれた翔と瑞貴は、6月末に開催される霹靂神はたたがみ主催の「ジュノーフェス」の参加概要と、事務所の所属アイドルの参加項目を書いた紙を手渡され、高嶺にそう聞かれたところだ。
もちろん、ライブも開催されるがステラペルーシェとしては夏の大きなイベントまでは、楽曲製作期間及び、安慈の学業と二人の練習優先期間としているのでライブの参加は無し。
事務所としては、フェスイベントには必ずCトイカフェの出張版としてキッチンカーを出しているので、ライブに参加しないアイドルはそちらの店番をするのが恒例になっている。

愛犯いとおかしは自分達でお店出すんですね。さすがですね」
「あ、高嶺さん。このグリーティングってあれですか? 会場まわって色んな人とお話しできるやつですよね?」
概要の一文を指しながら翔がそう言った。
「えぇ。ファンの子はもちろん、他のアイドルもいるだろうし、あんまり無いとは思うけれど、他の事務所の重役とか、レーベルの重役とかも遊びにくる可能性はあるけれどね」
「社長さんとか?」
「無くはないわね。うちの社長くらいフランクな人ならあなた達に会いに来るでしょ」
高嶺の言葉に、Cトイの社長の顔を思い浮かべる二人。たまにしか見かけない人だが、容姿端麗で人懐っこく穏やかに話すその人の様子から、グリーティングは好きそうだなと想像がつく。
「高嶺さん、このグリーティングやってみたいです。いつもステージからしか見えないファンの人と話せるならいい機会だと思うので」
「……僕も賛成。安慈がいない分、僕たちがファンサービスしないとね」
瑞貴が翔の意見に賛成の意思を素直に示したので、翔は思わず瑞貴の顔をまじまじと見てしまった。
「……何?」
「いや、すんなりオレの意見に同意してくれるなんて珍しいなって……」
「もう、僕をなんだと思ってるの?僕たちはアイドルなの。三人揃って完全体だけど、二人でも、ファンの為にできることはやる。それがプロでしょ? ね? 高嶺さん」
ため息を吐きながら瑞貴がそう言って高嶺の顔を見ると、彼女はにっこりと笑った。
「そうね。それじゃあ、グリーティングの内容を詰めていきましょう」


一通りグリーティング内容が決まった所で、高嶺が花の手配の為にオフィスに戻っていった。
会議室に残された二人は1日のタイムスケジュールを決めていた。

「朝イチでスタートしてもいいけど、きっとお花の準備とかもあるよね。フェスオープニングは見ていたいしねぇ」
「そしたら開始から一時間遅らせてスタートすれば?人も集まり出すだろうし……」
「じゃあ、10時スタートね」
翔が白いコピー用紙にメモしていく。
大まかな時間を書いたところに、それぞれがペンを走らせてメモをしていく。
「11時から13時まではカフェの店番で……」
「……ねぇ、翔。なんでグリーティングしようと思ったの?」
紙にメモをしていく翔に瑞貴がそう言った。
翔は突然の質問に少しだけ表情を硬らせて黙ったが、すぐにヘラッと笑う。
「こんなこと言うのも偉そうなんだけどさ……ゆくゆくは、オレ達も大きな会場でライブやりたいじゃん。会場の収容人数も1万人超えて、いずれはTKドームでしょ?」
「まぁ、その予定だけど……」
「そうなるとさ、会場に集まってくれるファンの人たちとオレ達の距離って、どうしたって遠くなるじゃん?」
「そうだね。物理的に仕方ないところじゃない?」
「だから……」
翔が、何かを思い出すようにそっと目を閉じた。
「……まだ、ファンの近くにいられるうちに、こういうことしたいなって。有名になって、たくさんのファンができることは良いことだと思う。けど、手の届かない人になってしまうのもオレはちょっと寂しくて。多分、アイドル追っかけてた姉ちゃん見ていたせいだと思うんだけど、できるだけファンの人に、近くでありがとうって言いたいなって」
そう言って、またヘラッと笑う翔。
翔が姉の話になると、何か誤魔化すように笑うことを瑞貴は知っていた。
翔本人は口には出さないし、きっと口にする言葉も持ち合わせていないのだと思うが、何かしらの覚悟を持って『ここ』にいることは瑞貴もわかっていた。

「……近くにいられるうちに……か。そうかもしれないね」
瑞貴がそう言うと、翔はニコニコと笑っていた。
「ちょっとでも、普段の嫌なこととか大変なこと置いてきて楽しんでもらえたらいいよね。たくさんの『元気』を配って歩けたらいいなって」
「じゃあ、会場に来てくれた人にたくさん配ろうね。Cトイのモチーフフラワーは霞草でしょ。花言葉がこんなにあるんだよ」
改めて、参加概要をテーブルに出す瑞貴。
「感謝、切なる喜び、親切、夢見心地、永遠の愛……どれも良い言葉なんだね」
「それに……霞草が花束に必ず添えられるのは、そういう花言葉とメインの花の花言葉と合わせられることが多いからなんだって。花束は、お祝いで使うことが多いからね」
瑞貴がスマホを片手にそう言うと、翔が目を輝かせた。
「Cトイのモチーフフラワーになったのは偶然かもしれないけど、なんかピッタリだね」
「そうだね。ファンも、関係者も、友達も、家族にも、みんなに配るつもりで頑張らないとね」

二人はそう言ってニィッと笑うと、お互いの拳を突き合わせた。


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