Road
「速い、速すぎますってば!」
「うっせ、黙ってしがみついてろ、振り落とされてぇのか」
所々草の生えた殺風景な赤茶の世界で黒いバイクが走り抜ける。
平坦な道が地平線を貫く。
何処から何処まで続いているのか、傍らの廃線があてもない旅路を繋いでいた。
「ひぃい、何処なんですかここは?!西部ですか?」
「西部?何のこったか知らねぇがま、そんなもんだ」
必死にしがみついた銀髪のひょろ長い青年が喚き散らすのもなんのその、
バイクを操る野生じみた癖毛の男は、
そのがっしりした腕に力を込め、更に加速して前を見据える。
砂埃を巻き上げる騒々しい一行は赤茶けた道と蒼穹の境界線を目指していた。
延々と、唯そこに在るものだけを頼りに。
ヘルメットの隙間から伸びた銀色の糸束が尾を引いて遠ざかって行った。
「ちょっと、なんか速くなってません?ねぇ聞いてんですか!」
「速くなったんだよ」
「なにやってんですかぁ!やめてぇえええ」
悲鳴が攫われて風の外に飛んでいった。
にやりと笑った運転手は乱暴な手つきで、
これでもかと我の腰にしがみつく繊手に触れる。
「しっかりつかまっとけ」
「は、はい」
青年は白い手で黒い皮製のスーツを手繰り寄せ、広い背中に額を押しつけるように体重を前方に傾ける。
柔らかいカーブを描いた銀糸が後方に引っ張られているように靡いた。
「一体…何処まで行くんでしょうね」
「気の済むまでだな」
適当な返事に溜息を吐いて、それから少し諦めたように笑った。
何処まででも、付いていってもいいかもしれない。線が見えなくなるところまで、それ以上でも。
「なんだ、急におとなしくなりやがって」
「いいんです。レオンさんの気の済むまでどうぞ」
「なに、気持ちわりぃな…」
知らない場所を旅するのは逃亡しているような気分になる。
独りなら楽しくない任務も彼が居れば逃避行のような気がして、ほんの少し夢を見てしまいそうになる。
このまま永遠にバイクを走らせれば、誰も知らない土地へ行っていまえば、全ての世界から切り離切り離されるのではないかと。
個々の存在だけの世界。
最早それは世界と呼べぬものかもしれないが、取り巻かれていた立体空間から脱出し、憧れの地へ到達できるだろう。
傍らの廃線にストップの標識が現れ、終点を告げる。
しかし舞い上がった砂埃を後に、彼らの旅路は続く。
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