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Bruder

唇の端にこべりついた血を拭いながら、
乱暴にドアを開けて入室した弟は無言で定位置につく。

確かにここは僕の部屋なんだけど、
いつの間にかあの二人掛けのソファはアベルの定位置になっていた。

膝を抱えて俯いて、完全に自分の殻に閉じこもってしまえば、
もう後はそこからアベルを動かすことは不可能だ。
気の済むまでソファの一部になってもらう他ない。

そんな時は決まって愛しい弟の横へそっと移動する。
眩しい銀色の頭を優しく撫でれば、小さく肩を震わせた。

アベルは人前で泣くような子ではないけれど、僕の前では人一倍泣き虫なのだ。
珍しく顔を上げたアベルは案の定、
繊細な睫毛だけでなく、ほんのり紅く色付いた頬までをも涙で濡らしていた。

「あいつらなんて、大嫌いだ」

少年特有の高く、透き通った声が真っ白な部屋に響く。

カインは微笑を弟と同じ顔に浮かべ、頭を優しく撫でてやる。
アベルの蒼い宝石のような瞳からまた一つ、雫がこぼれた。

ふいに抱きしめられたアベルは信頼できるたった一人の人間の肩へ顔を埋め、泣きむせた。


他の人間など嫌いなままでいい。
僕だけを必要とすればいい。

僕だけが君の世界になる。


弟を静かに抱きしめて、美しい顔に浮かべた笑みは、
悪戯を思いついた天使のように無邪気でありながら、悪魔よりも残酷なようにも見えた。
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