Baby’s breath
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私がこの世界に来てどれくらい経っただろうか。
転生の時の事はあまり覚えていないし
きっと良い記憶ではないだろうからそれはそれで不満はない。
きっと理由もない偶然の様なものだったのだろう。
だけど、自分は何の為にこの世界に来たのか
ついふと考え込んでしまうことがある。
「何か 考え事か?」
今日はなんとなく天気が良くて 鍛錬のついでだからと近くの丘へベニマルと訪れていた。
今はきりがついたのか、木陰でそよ風を感じながら
何もない時間を過ごしていたところである。
少し 心配そうな表情で私の顔を覗き込むベニマルに
何でもないよと微笑んで返した。
「また、ここに来た理由とかそういうの考えてんだろ。」
「そんなにわかり易かったかなぁ。」
ピタリと当てられた事に内心驚いた。
別にいつも考えている訳ではないし、たまたま眼前に広がる風景を見て物思いに耽ってみただけだったのに。
そんなものがなくたって大丈夫なくらいには些細な悩みだと自覚もしている。
けれど、近くにしっかりと先を見据えて、
生き甲斐を持って生きている同じ境遇を持った人がいると
たまに自分は何故でここに来たのか考えてしまう。
いや、人じゃなくてスライムだけど。
「……そんなに理由が欲しいなら俺がやろうか。」
「え。」
スライムの彼を思い描いていたら思いがけない言葉が降ってきて思わず顔を上げた。
目が合ったと思ったらベニマルは目を逸らして
何か言い淀んで少し考え込んだ後に
目線をこちらから広がる大地へと向けて呟いた。
「あの時は言ってやれなかったけど 今なら言える。」
あの時、とは最初にこの話をした時の事だろう。
本当に何気ない話の中でポロッと冗談混じりに吐いた私の言葉をずっと覚えていてくれたのだろうか。
真剣な表情を浮かべるベニマルの横顔を見つめて次の言葉を待った。
「理由が無いと不安になるなら俺を理由にしろ。
お前は俺に会って、俺と生きる為に来たんだ。
それだけでいいじゃないか。
なんて こんな理由じゃ……だめか?」
問い掛けと同時に困ったような笑顔をこちらに向けたベニマルにぎゅっと心が締め付けられた。
奥手な彼が必死に紡いでくれた言葉はストンと胸に落ち、今までぽっかり空いていた隙間を埋めてくれるかのようで。
溢れそうになる涙を誤魔化すように顔を埋めて一言返事をするので精一杯になった。
「駄目じゃない……。」
そう言ってどれくらいの時間が経ったか。
きっと震える声と鼻をすする音で泣いているのなんてバレバレなのは分かっているけど
変なプライドが邪魔をして顔を上げられない。
「名前。ほら。」
ふと、名前を呼ばれて顔を上げると手を広げたベニマルと目があった。
自分で無意識に些細な悩みだと思い込もうとしていた事に
彼だけは気付いていたのかもしれない。
何が奥手だ。
何となく悔しくて泣きべそのまま睨みつけたけど効果はないようで
「ったく。」っと頭を掻いたと思ったら、次の瞬間気付くとベニマルの腕の中に囚われていた。
「頼むから、ここに来た理由がないなんて言わないでくれ。」
弱々しく聞こえたその言葉にどれだけの想いが込められていただろうか。
少し強くなる腕の力が心地よくて彼の背中に手を回した。
「うん。ごめんね。ありがとう。」
Baby’s breath
この人と出会う為にここに来たのならば
転生も悪くない
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