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時に素直で従順な

うるせえ恋人と同居し始めてすぐくらいのこと。

「…え、お前、…プレイしたことないの?」

「?ないで」

驚きのあまり「本当に?」と聞くとだるまは少し不安そうな顔をした。

「変?なんか都合悪い?」

「いや全然、むしろ俺が初めてってのはめちゃくちゃ興ふ」

「きめえな」

早口で捲し立てると、安心したのか照れ隠しの悪態とともに朗らかな笑顔がふわりと花ひらいた。

「いやー俺成人してちゃんと検査するまでずっとNeutralやと思ってたし…不安定とかないんよなー。たまにだるくて配信休んだりするけど。」

たまにドラストで市販薬買ったりしてたけど、
ほんとにそれくらいで済んでたとだるまは続けた。
いやその定期的にしんどい時期がsubとしての不調の現れなんだろと思ったが、どうやらだるまはdomとかsubとかそういうのが自分に関係ないものだと思って生きてきたらしい。学生時代から自分の性にもがき苦しんでいた俺とは大違いだ。
俺はdomの傾向が強く、プレイを重ねれど満たされない欲望に振り回されていた。俺は俺の人生をかけて、Domとしての快感も興奮も苦しみも責任も、ひと通り味わってきたというのに。
まあだるまが性に苦しまなかったのなら、それは喜ぶべきことだ。初めてが俺なのはシンプルにクソ嬉しいし。
俺は、もうdomもsubも、パートナーもプレイもいらないと思っていた。もう散々だと。
…それなのに、目の前にいるこいつはあまりにも簡単に俺の手に堕ちてきて。

「そ、っか…じゃあ簡単なのから始めようか」

「だぁいじよぶやってありちゃん、無理してリードしてくれんでも。どうせありさか童貞なんやから…」

「あははコロスゾテメェ」

うんいっそそうしてしまおう。俺の初めてもお前ってことにして、過去のことは忘れよう。


「じゃやるかー。まずはセーフワード決めんと。あ待ってセーフワード知ってる?」

「聞いたことくらいは」

セーフワードというのは、Domの指示(command)が
Subにとって行き過ぎてしまうのを避けるため、SubがDomに行使できる"待った"のようなもの。
俺の経験上、プレイにおいて(しかも俺みたいなハードなのばっかやってた奴には尚更)一番大事なものだ。だるまと俺くらい関係が安定してればまあ、正直ガチで嫌なことあったらぶん殴るなり噛み付くなりして抵抗してくるんだろうけど、ワンナイトとかだとそうはいかない。

「俺もセーフワードなんか言わなくていいようにプレイするけど…決めるのがルールだからさ。何がいい?すぐ言えて普段使わない言葉がええんやけど…」

「すぐ言えて普段使わない言葉ぁ…?
 ……ァ、分かった、▉▉! ▉▉ええんちゃう!?」

だるまが嬉々として叫んだのは、俺の下の名前。
うーん確かに普段呼ばないけど、

「えーいいけど、それすぐ出てくる?」

「出てくる出てくる!ありさかの名前やで?俺が忘れるわけないんやから!」

いつの間にかソファの上で俺の方に向き合うように膝立ちしていただるまが高らかな声で宣言した。こいつたまに素直に可愛いな。

「そっか。じゃそれで」

「え?やる?プレイやってみるん? ?」

「うん、相性とかも知りたいしやってみよ」

「えーありさかの言うこと聞くなんて癪やなぁ」

「えそんなこと言っていいの?」

言いながら軽くだるまを睨みつける。すると、

「…ッぁ、え?」

初めて食らうであろうグレア(っていっても超軽くだけど)に、だるまは膝立ちしていた腰をすとんと下ろして女の子座りのような体勢になった。
言われなくてもkneelの姿勢を取るあたり、こいつもしかして素質があるのかもしれない。

「うん、いい子。いい子だね。」

「なに、う、」

頭を撫でてやるとだるまはその金色の両眼をとろりととろかせる。結構従順で、グッとくる。生意気なやつを従える快感、これはdomにしか味わえない。

「だるま、セーフワード言ってみて」

「…、? ▉▉…」

「良いね。もう1回言ってみて」

「▉▉」

「うん、よし。ちゃんと言えて偉いね。」

撫でてやると目を瞑っていっぱいいっぱいになっているようで可愛い。このまま激しく言うことを聞かせて、ドロップしてしまいそうなところを優しくケアして、もうぐちゃぐちゃにしてしまいたい。domの、俺の、嫌なところだ。この感情に歯止めが効かないから、プレイするのは嫌だった。パートナーを大事にできない自分に嫌気が刺すから。互いにそういう嗜好がある、そういう人とホテルで一夜だけという方が何倍も楽だった。それも段々過激になってったからやめたんだけど。お前は俺の最後のチャンスだ。お前を大事にできないようなら俺は死んだ方がいい。お前だけは…

「…? ありさか…?なんか言うた?」

「ん?なんも言うてないよ。」

「そか、」

プレイの影響でいまいち舌が回ってないだるまの髪に口付ける。つくづくかわいい奴。

「コマンド知らないでしょ?日本語で良いよね」

「はっ笑 ありさかの英語なんて笑っちゃうでな」

「てめぇこのやろう…まあいいや。じゃあコマンドの前にだるって呼ぶからね。分かった?」

「うん、分かった」

「良し、goodb…ぁいや、いい子いい子。」

昔の癖が飛び出しそうになったけど、幸いだるまはなんとも思ってないみたいだった。経験ないならそりゃそうか。

「じゃあ、だる、おいで」

「ん、」

両手を広げて分かりやすく示せば、だるまは素直に俺の腕に収まった。ガチで従順でかわいい。
揺れる毛先が、俺が撫でるのを待ってるみたいに柔く震えている。

「いい子だね~ちゃんとできて偉いね。
 コマンド聞けていい子。よしよし、」

皮肉なことに、回数ばかり重ねたプレイの中で俺のSub褒め技術はなかなか磨かれてしまった。初めてのやつを可愛がるなんていつぶりか分かんないけど。

「なんこれぇ、なんかきもちーなあ」

「するのとは別な気持ちよさでしょ?」

「あー思ったより悪ないわ…」

プレイの気持ちよさすら知らない、降りたての新雪のような真っ白なキャンバスのような、そんなひと。
湧き上がるのは好奇心の皮を被った醜い独占欲。
走り回って足跡を付けたい、思うままに筆を走らせたい。そんなひとりよがりな衝動。壊れるまで愛してやりたいという攻撃的な好意は、人間のバグだ。

d「ありさか?」

いつまでも黙りこくっている俺を不審に思ったのか、
だるまがぽつりと呟いた。

a「…ぁ、ごめん、…続きしよっか。」

d「ひひ、あったかいしきもちいーしでええなぁコレ」

a「そりゃあ良かった。ねえだる、俺のこと見て」

ばちり。まるいきんいろのめが俺を見る。

a「いい子」

d「ぇへ、そやろぉ?」

a「うん、偉いね。じゃあ次、だる、キスして」

口角がつり上がっているのがわかる。俺の顔は、きっとだるまの目にひどく楽しげに映っているに違いない。俺を見るその目がまあるく開かれていく。好きな人を困らせたいというどうしようもなくガキ臭い衝動を抑えきれない自身に苦笑しつつ、そのつくりもののような目を覗き返してやった。

d「ぇ、」

a「聞こえなかった?キスして、って言ったんやけどなぁ。嫌ならほら、セーフワード言いなよ」

セーフワードを勧めながら、だるまの腰をしっかり掴んで、こちらから離す気なんてさらさらない。ほんとに拒否られたら別だけど。普通に泣くけど。

d「いや言わんけど…面と向かってとか、なん…」

a「それならほら、ちゅーしてよ。どうしたの?初めてじゃないでしょ?ほら、コマンドだよ?」

俺はだるまの男気を知っているのだ。こいつは最終的にキスする。ちょっと恥ずかしがってるとこも見れて、キスまでしてもらえるなんてさいこー。

d「…マジ性格終わってんなお前」

a「なんのこと?ほらやれんの?やれないの?」

d「はぁぁぁぁ???マジ良すぎてイっても知らんでな」

a「いい子。目ェ瞑ってたげる。だるまのタイミングでして?」

d「昇天させたるわ」

かぷり、唇が触れて、急ぐように深く口内を確かめ合う。薄目で覗いただるまは耳が赤くて、かわいい。
そんな恋人を前に待ったなんてできる訳もなく、そのままだるまをソファに押し倒した。

d「んぅ゙ッ!!?うわあッ、ちょ…っ!!」

a「んは、かわいーなだるまぁ♡ちゃんとちゅーできてエラいからごほーびあげよなぁ、♡」

d「ふ…っざけんな、まだイかせてな、ぁっ♡」

俺の身体とソファに閉じられた狭い狭い空間で、喚き散らかすだるまを押さえつけることの容易さ!支配欲が満たされる感覚に全身が打ち震えた。どうとでもできるのだ、この男を、俺が。ああたまらない、体裁などかなぐり捨ててしまいたい。

d「あっ、あ♡ありさか、ぁ♡」

a「なに?」

d「このまま、シよーやぁ♡」

ブチっと音がして、脳の血管がひとつ弾け飛んだ。理性というやつだった。
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