運命のメイドさん
「なぁ、だるまメイドカフェって行ったことある?」
講義中、小声で話しかけてきた友達に、「ないな」と返事をする。
「じゃー週末行こーよ」
「ええー?ええで。」
かわいい服着たかわいい女の子に会えんならという、男としての純粋な興味でOKする。話を聞けば、どうやら秋葉原にオススメの場所があるらしい。お前さては通い詰めてるやろ。
当日、駅から出てすぐの馬鹿でかいゲーセンで待ち合わせた。ゲームのデバイスを買いに何度か訪れたことがあったため迷いはしなかったが、やはりここは混沌としている。客引きで立っている可愛いおねーさんには目もくれず、待ち合わせに数分遅れてやってきた友達は人混みの多い通りを迷いもなく進んで行った。
「あー見えた見えた。あれ。見える?」
「ざけんな見えるわ」
男の平均より低い身長をからかうように挑発するそいつを小突きつつ見えたお店は、ひっじょーにファンシーだった。ディズニーのミニーちゃんの家みたいやな。
入ってすぐにエスカレーターがあって、メイドの写真が向かいに飾ってある。
「何階にどの子がいるか決まってんだよ」
「あーね」
「俺の推しは5階なんだけどー今日イベントやっててめっちゃ混んでんだよな」
「分かんねーから何階でもええで」
エレベーターが降りてくるのを待っている間、俺はぼんやりと内装を眺めていた。姉貴と妹に数々の可愛らしいお店に連れ回されてきた俺ですら物怖じするレベルでかわいい。ふと、先程もちらりと見えたメイドの写真が目に留まった。
「…? なぁなぁ」
「なに?」
「えっ?ここって男もおんの?」
「あーそうだよ」
言ってなかったっけと笑うこいつはいつも適当だ。かなり大きく貼り出されている写真は、恐らく化粧はしているものの、どっからどーみても男だ。さすが多様性の社会。どんな需要もばっちこいってか。
よく見てみると女性のメイドに混じって他にもメイド服を着た男の写真が何枚も飾られている。どれもこれも地雷っぽくて、しょーじき俺はあんま好きじゃない。やっぱ俺は可愛い女の子がと思ったその時、1枚、右上の方に貼られた写真が目に入った。
この中では珍しく、ガタイのいい男性。優しそうな眦が、こちらを惑わすように優しく垂れていて…
「おい、エレベーター来たってば」
「えっ、あっちょっとまって」
後ろに並んでいる人がいたため、俺はその写真から目が離せないまま友達に腕を捕まれエレベーターに乗り込ませられた。
「なぁっなあ!なんかあの…でけえ男のメイドさんがいる階ってどこ!?」
「はあ!?お前そっちに興味あんの!?」
「いや分からん…けど、ちょ、会いたい、何階?」
「え〜俺男メイド全然把握してないからな…」
同じエレベーターに乗り合わせた人が次々と降りていく中、俺とそいつだけが取り残されていく。
「でもあそこに張り出されてるってことは人気あるってことだから…イベントやってる5階が怪しいか?」
チン、と音が鳴って俺ら以外の最後の一人が降りていった。そのドア越しの、店の中。
「あっ!いる!ここや!」
「え?うそ、」
降りたのは7階だった。でもいたのだ、たしかにそこに。
「よく見えたね店ん中…メイドさん動いてるし…」
俺は返事ができなかった。まだ心臓がバクバク言っていた。そうだ、見えるわけはない。ドアのすぐ側に立っていたならまだしも、そうではない従業員をエレベーターから見つけ出すのはまず無理だろう。
…でも分かった。彼がここにいると全細胞が叫んだのだ。こんな感覚は初めてだ。ああこれはきっと運命に違いない!
「早く、中はいろ」
「必死すぎだろw マジでタイプだったんじゃんw」
お前ハマっちまうんじゃねーのとケラケラ笑う友達を置いていく勢いで俺はピンク色の扉を開けた。すると、
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
入店した俺たちにすかさずメイドさんから声が掛かった。可愛いおんなのひとだ、でも違う、どこだ?
俺がキョロキョロしていると、追いついた友達がメイドさんから「御屋敷のルール」なるものの一覧表を受け取っていた。「一応目通せ」と袖を掴まれたが読んだ文字がちっとも頭に入ってこない。ここじゃないのか?勘違いなのだろうか?
「お帰りなさいませ〜」
少し気の抜けた、低い声。聞こえたと同時に顔を上げると、そこに居たのはまさしく、その人だった。
「アッ!」
思わず声を上げると、そのメイドさんはちょっとびっくりしたように立ち止まった。少し首を傾げたかと思うと _非常に愛らしかった_、あろうことかその人はこちらにスタスタ歩いてきたのだ。今度は縮み上がった俺が友達の袖を掴む番だった。
「こんにちは、ご主人様がご不在の間に雇われました、オムライスの妖精のありさかでーす。もしかして日誌を読んできて下さった感じですか?」
俺はこの時日誌がなんなのか全くわかっていなかったが、メイドさんがメイドカフェの公式hpに掲載しているブログのようなものの隠語らしい。世界観に合わせた呼び方がそれなんだろう。自撮りを上げたり今日あったことを呟いたり、宣伝と自己プロデュースを兼ねているのだそう。初見でもこういうのを見て初めからお目当ての子を探して来る人はいるようだ。
「あーいやなんか下の写真見ておにーさんに惚れちゃったらしくてこいつ笑」
「あっ、!ちょっとお前ッ!」
「え、そうなんすか?めっちゃ嬉しい笑 じゃあ俺メニュー受ける時お伺いしますね〜」
「えっえっ」
「良かったじゃんだる」
「ありさんやばいちょっとこっち来て!!さくらが在庫作りすぎてる!!!」
「はぁー?なあしとんねん…じゃ、楽しんでって下さいね〜」
…
……。
行ってしまった。
「良かったなだるまー」
「………………良くない…」
主に心臓が。
講義中、小声で話しかけてきた友達に、「ないな」と返事をする。
「じゃー週末行こーよ」
「ええー?ええで。」
かわいい服着たかわいい女の子に会えんならという、男としての純粋な興味でOKする。話を聞けば、どうやら秋葉原にオススメの場所があるらしい。お前さては通い詰めてるやろ。
当日、駅から出てすぐの馬鹿でかいゲーセンで待ち合わせた。ゲームのデバイスを買いに何度か訪れたことがあったため迷いはしなかったが、やはりここは混沌としている。客引きで立っている可愛いおねーさんには目もくれず、待ち合わせに数分遅れてやってきた友達は人混みの多い通りを迷いもなく進んで行った。
「あー見えた見えた。あれ。見える?」
「ざけんな見えるわ」
男の平均より低い身長をからかうように挑発するそいつを小突きつつ見えたお店は、ひっじょーにファンシーだった。ディズニーのミニーちゃんの家みたいやな。
入ってすぐにエスカレーターがあって、メイドの写真が向かいに飾ってある。
「何階にどの子がいるか決まってんだよ」
「あーね」
「俺の推しは5階なんだけどー今日イベントやっててめっちゃ混んでんだよな」
「分かんねーから何階でもええで」
エレベーターが降りてくるのを待っている間、俺はぼんやりと内装を眺めていた。姉貴と妹に数々の可愛らしいお店に連れ回されてきた俺ですら物怖じするレベルでかわいい。ふと、先程もちらりと見えたメイドの写真が目に留まった。
「…? なぁなぁ」
「なに?」
「えっ?ここって男もおんの?」
「あーそうだよ」
言ってなかったっけと笑うこいつはいつも適当だ。かなり大きく貼り出されている写真は、恐らく化粧はしているものの、どっからどーみても男だ。さすが多様性の社会。どんな需要もばっちこいってか。
よく見てみると女性のメイドに混じって他にもメイド服を着た男の写真が何枚も飾られている。どれもこれも地雷っぽくて、しょーじき俺はあんま好きじゃない。やっぱ俺は可愛い女の子がと思ったその時、1枚、右上の方に貼られた写真が目に入った。
この中では珍しく、ガタイのいい男性。優しそうな眦が、こちらを惑わすように優しく垂れていて…
「おい、エレベーター来たってば」
「えっ、あっちょっとまって」
後ろに並んでいる人がいたため、俺はその写真から目が離せないまま友達に腕を捕まれエレベーターに乗り込ませられた。
「なぁっなあ!なんかあの…でけえ男のメイドさんがいる階ってどこ!?」
「はあ!?お前そっちに興味あんの!?」
「いや分からん…けど、ちょ、会いたい、何階?」
「え〜俺男メイド全然把握してないからな…」
同じエレベーターに乗り合わせた人が次々と降りていく中、俺とそいつだけが取り残されていく。
「でもあそこに張り出されてるってことは人気あるってことだから…イベントやってる5階が怪しいか?」
チン、と音が鳴って俺ら以外の最後の一人が降りていった。そのドア越しの、店の中。
「あっ!いる!ここや!」
「え?うそ、」
降りたのは7階だった。でもいたのだ、たしかにそこに。
「よく見えたね店ん中…メイドさん動いてるし…」
俺は返事ができなかった。まだ心臓がバクバク言っていた。そうだ、見えるわけはない。ドアのすぐ側に立っていたならまだしも、そうではない従業員をエレベーターから見つけ出すのはまず無理だろう。
…でも分かった。彼がここにいると全細胞が叫んだのだ。こんな感覚は初めてだ。ああこれはきっと運命に違いない!
「早く、中はいろ」
「必死すぎだろw マジでタイプだったんじゃんw」
お前ハマっちまうんじゃねーのとケラケラ笑う友達を置いていく勢いで俺はピンク色の扉を開けた。すると、
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
入店した俺たちにすかさずメイドさんから声が掛かった。可愛いおんなのひとだ、でも違う、どこだ?
俺がキョロキョロしていると、追いついた友達がメイドさんから「御屋敷のルール」なるものの一覧表を受け取っていた。「一応目通せ」と袖を掴まれたが読んだ文字がちっとも頭に入ってこない。ここじゃないのか?勘違いなのだろうか?
「お帰りなさいませ〜」
少し気の抜けた、低い声。聞こえたと同時に顔を上げると、そこに居たのはまさしく、その人だった。
「アッ!」
思わず声を上げると、そのメイドさんはちょっとびっくりしたように立ち止まった。少し首を傾げたかと思うと _非常に愛らしかった_、あろうことかその人はこちらにスタスタ歩いてきたのだ。今度は縮み上がった俺が友達の袖を掴む番だった。
「こんにちは、ご主人様がご不在の間に雇われました、オムライスの妖精のありさかでーす。もしかして日誌を読んできて下さった感じですか?」
俺はこの時日誌がなんなのか全くわかっていなかったが、メイドさんがメイドカフェの公式hpに掲載しているブログのようなものの隠語らしい。世界観に合わせた呼び方がそれなんだろう。自撮りを上げたり今日あったことを呟いたり、宣伝と自己プロデュースを兼ねているのだそう。初見でもこういうのを見て初めからお目当ての子を探して来る人はいるようだ。
「あーいやなんか下の写真見ておにーさんに惚れちゃったらしくてこいつ笑」
「あっ、!ちょっとお前ッ!」
「え、そうなんすか?めっちゃ嬉しい笑 じゃあ俺メニュー受ける時お伺いしますね〜」
「えっえっ」
「良かったじゃんだる」
「ありさんやばいちょっとこっち来て!!さくらが在庫作りすぎてる!!!」
「はぁー?なあしとんねん…じゃ、楽しんでって下さいね〜」
…
……。
行ってしまった。
「良かったなだるまー」
「………………良くない…」
主に心臓が。
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