この喧騒を抜け出してしまえ (リクエスト作品)
「いや俺らマジめっちゃウケてたよな!?」
「田中センセ見た?腹抱えて笑ってたぞw」
今日は文化祭。スカートを履いて踊るという定番モノにしちゃ安定でおもろい発表を終えた俺たちは、興奮冷めやらぬまま舞台袖に引き揚げてきた。
「ありさん入れ替えの時もキレッキレだったねwやっぱセンターやるべきだったよ」
「いやいや俺は無理よ、シスじゃなきゃ…w」
派手髪にピンクのスカートというおかしな出で立ちをしたシスが俺の背中を叩いて言った。スポーツ万能でサッカーU-16の代表選手にも選ばれているしすは今回のダンスもすぐ覚えて、満場一致でセンターのポジションについた。シスをのぞいて、だけど。しすは何故か俺をしつこくセンターに推してきた。きっと面白がってるだけだったんだろうけど。
「いやあでも面白かったなぁw 次ばにたちの発表あるんだっけ?」
「あーなんかバンドやるとかやらんとか言ってたなぁ」
綺麗に飾り付けられたうちわを持って写真を撮る女子の後ろを、写真に映らないよう気を遣いながら素早く通り抜ける。発表を待つ列の最後尾に戻る途中で、他クラスの知り合いに何度かスカートをイジられたので蹴飛ばしてやった。
「ありさんクラスで1番でかいから誰よりミニスカになってんのウケるよねぇw」
「笑い事じゃないよ…Lで膝上18cmとか有り得んって女子に爆笑されたんだよ?」
「いやいや俺らはおもろいよw ありさんと…あとまあ、あの人は笑えないだろうけど…」
しすがちらりと目配せをした方を見ると、発表用に照明を落とされた薄暗い体育館の奥の方から、こちらに向かって爆走してくる白い頭が見えた。
「ありさかあああああああ!!!!」
「来たよ来たよ」
しすが面白がって俺の肩を掴む。普段ならうるさいと一蹴しているところだが、生憎常にザワついている今この場所ではだるまの声量は些細な問題に過ぎなかった。
「おい!お前なんで正面におらん!?!!?てかなんでミニスカ履いとんの!?!?エロい!そんでありさかに触んじゃねえしすこお!!」
「WWWWWWWWWWWW」
怒涛のマシンガントークに爆笑するしす。なんで正面がしすこやねん!?と吠え続けるだるま。…なるほど、俺をセンターに推薦したシスはこれを見越していたのか。
「なあありさかむっちゃかわいいんやけどぉ!?明るいとこで写真とろーや!おいしすありさか借りるけどええよな!?」
「いいよいいよw」
「あ、俺の意思は尊重されないんだ」
もはや慣れているのでいいが、言わないとこれが普通になってしまう気がするのでツッコミはしておく。
「なぁしすこあそこの子かわいくね?」
「あ?どのこ??」
興奮気味の友達の声に慌てて振り向いたしすこを置いて、だるまはまだ喋り続けている。
「もーおれほんっまにびっくりしたんやで!?ありさかなんの発表するんか教えてくれんし…出てきたおもたらミニスカやし!なんで俺にいちばんに見せてくれやんだ!?」
「いや普通に恥ずかしいし…」
「なにそれかわいい!」
キャッと口に手を当てるお前の方が可愛いよとは思うだけにしておく。ふとだるまの肩から紐がぶら下がっているのが見えて、お手製のキラキラ飾り付けたメガホンでも持っているのかと思い尋ねた。
「あ、これ?これは、」
紐を辿って出てきたのは、 双眼鏡だった。 しかも結構ガチの。
「…あー…あ、可愛い子踊ってた時見る用ね?」
「ありさかしか覗いとらん!」
どうかそうであれと思って先に示した用途はめいっぱいの笑顔で否定されてしまった。
「真顔なくせにフリは完璧なありさかの姿が後ろからでもよーく見えて最高やったで!」
「言わないでよ…」
俺だってノリノリでしすみたいに笑顔振りまいて踊れたらいっそ楽だったのに…緊張と恥ずかしさでにこりともできなかった。いや途中で面白くなって一瞬吹き出したけど。
「途中で吹き出したあとニヤニヤしとったのも見えたで!」
「言うなて」
「かわいかった!」
満面の笑みでそういうだるまが可愛くて、人混みに紛れてそっと髪にキスを落とした。
「…え、…なにそれ、誘ってんの?」
ガクンと落ちた声のトーンにサッと嫌な汗がよぎる。
「…ぁーいや、そーゆーわけじゃ…」
最悪だ、さっきまでムラムラなんてしてなかったのに、お前の声のせいでちょっとその気になってしまった。
「ばにたちの発表の時間までもーちょいあるよな?」
「…ある、けど」
ヤバい、目を合わせられない。完全に男の顔をしているはずのだるまをここで見てしまうのは、まずい。
「ひひ、俺さっき鍵掛け忘れてる3号館の空き教室見つけてん。行こ?」
そう言って、すり、と手の甲を撫ぜてくる。ああほんと、悪い男だ。
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