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お前には、俺だけ

その存在の一切を隠して生きてきた男のパーソナルスペースが狭い、というのは意外だった。もっと1人を好んで、ベタベタされるのを嫌がるようなタイプかと思っていた。いや、今まで1人だったからこそ、触れ合うのが好きなのかもしれない。だるまは引っ付くのが好きだった。今も作業をしている俺の膝に小さく丸まってスマホを見ている。

「だるま、ちょっと暑い」

「ん」

短く返事をしたかと思うと、膝と机の間からするりと抜け出して俺のベッドにぼふんと音を立てて横たわった。今みたく不平を述べれば特に抵抗なく退くし、「触れてないと不安🥺(ぴえん)」というよりはただ単に「くっついてるのが好きなだけ」の奴のようだ。ただくっつくと言っても学生のようなノリではない。恋人らしく、今みたいに膝に乗ったり肩に頭を預けたり、可愛らしく密着してくる。甘い言葉を囁くわけでもなく、ただ寄り添うように近くにある存在を煩わしく思ったことは無かった。

「やっぱ寒い、来て」

「わがままたこすけが」

こちらから求めれば悪態をつきつつもにやりと笑って楽しそうに近付いてくる。再び俺の膝にすっぽり収まった痩身に愛おしさが込み上げた。
ぎゅーっと抱き締めると、驚いたのかだるまはスマホを取り落とした。

「あっ…だる、スマホ落ちちゃったよ」

腕をうんと伸ばして拾い上げても、あまり反応がなかった。

「なにぃ、照れてんのぉ?」

顔をのぞき込むと赤い顔がこちらを向いた。音を立てて鼻先にキスされる。

「こっち見んな、だからモテやんねんっ」

「へいへい」

照れているのをキスで誤魔化す大胆さもどうかとは思うが。俺のシャツにぐりぐり頭を押し付けていたかと思うと、ふと静かになった。…心做しか息遣いが大きく聞こえる。

「…嗅いでる?」

「ッ嗅いで、!ないっ!!」

「ごめん、怒んないで」

恥ずかしさ余って首締めるとは何事か。非力とはいえ苦しいので素直に謝った。それでもまだ離してくれないので軽く抵抗してみた。手は簡単に外れた。

「あっ、ちょ、」

「ん〜」

お返しとばかりにプラチナブロンドに顔を埋めてみる。だるまが好んで使っているシャンプーの匂いがした。嗅いですぐ殴られるかと思っていたので、おや、と思い顔を覗いてみる。真っ赤になって震えていた。

「嫌じゃないの?」

「…いや、…っていうか…なんかその………ちょっと、………」

「あらぁ〜」

「まだ何も言うてへんやろ!!!!」

また首を絞められる。全く沸点が分からない。

「ごめんねってばあ」

「お前ほんまに、うるさいねんっ!」

「死んじゃうぅ…」

弱った声をあげると少しずつ力を緩めてくれた。根は優しいのだ。恥ずかしがりなだけで。

「意地悪してごめんね」

甘えるでも媚びるでもなくそう伝えても斜め下の方を向いてうんともすんとも返さない。誠意を見せようと髪にキスを落としていると、5個目くらいで顔を手のひらで抑えられた。

「いひゃい」

バシッと音がするくらいには勢いが良かったのだ。こいつといると痛めつけられることの方が多い。

「ごめーんね」

謝っても、あんまり取り合ってもらえない。目を合わせないように俯いている。それでも膝から降りないんだねと言えば今度こそ窒息死させられるだろう。

「だーるちゃん」

顔を傾けて覗き込むとチラッとこちらを見た。そこから目を外さないのは男らしい。

「ありさかってモテんやろなぁ」

「酷い…」

「俺逃したら二度と恋人できやんと思うで。良かったなぁ、俺のこと捕まえれて」

「まじラッキー」

適当に笑うとだるまも楽しそう。

「このまま一緒に婚期逃してくれる?」

「それはありさかの頑張り次第ちゃう?俺、飽き性やからすぐどっか行っちゃうかも」

「そんな寂しいこと言わないで、ずっと俺といて」

縋るように言うと満足気な表情をしてくれる。分かりやすくて愛おしい、俺のすきなひと。
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