きっと熱に浮かされている
部屋で作業をしていると、廊下をドタバタと走る音が聞こえて、嫌だなぁと思った。
「ありっ、!ゲホッごほっ、ありさか熱!出たぁ、!」
真っ赤な顔、走ったせいで熱のある身体に汗が光って、息は病人のそれらしく荒かった。
「あのな、病人は走らないし寝とくもんなんだよ」
「でも嬉しくて…またあれ作ってやあ!」
風邪のせいで涙の溜まった目を嬉しそうに細めて笑う。普段ひょうきんなこいつの、こういう弱った姿に惚れてしまったのだろう。
「別に作んのはいいけど…寝てなよ」
「いひ、やったあ。げほっ。…一緒住み始めてから熱出んのくっそ久しぶりやない?楽しみや〜」
「お前の体調崩さんように見とく目的もあったんやからそれで正解なんよ」
俺の話を聞いているのかいないのか、うきうきした様子で部屋の扉の前をくるくると回るだるまは確かに熱に浮かされているんだと思う。
席を立って近付くとだるまはまるでしんどくなんてなさそうにへらへら笑っている。
「元気そうやな」
「まあな、だァい好きなありちゃんがこれからお世話してくれるわけやしぃ?体は辛いけど心は元気にもなるわな」
「じゃあ体も良くなるようにおまじないな」
「え?」
額に張り付いていた長い前髪を掻き上げたところに唇を落とす。
「え、」
「……さーて俺はおかゆを作ろうかn」
「え!?!!?待って!?!!?ありちゃんがデレるなんてクソ珍しいやんなに!?!!?体だけじゃなくて下も元気になってまうけど!!?!!?」
「うるっさいなぁ!寝とけよ病人!」
恥ずかしくなって逃げようとする俺を逃がしてくれる訳もなく、風邪人とは思えないほどの声量に背中を掴まれる。
「アカン待ってほんまに可愛い熱上がってきた!!!もっかいして!」
「ちょっと何言ってるかわからん」
あまりのだるまの興奮具合に流石に自分のした事を少し後悔した。後先考えずお前に触れたいと思ってしまう辺り、俺もきっとお前の熱に浮かされている。
今はそれが限りなく心地いいから、このままふたり浮かされるのも、きっと悪くないだろう。
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