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きっと熱に浮かされている



さて、何を作ろうか。
野菜や肉など満遍なく、それでいて使いやすい食材だちを選んだつもりではあったがレシピを調べるのは今からだ。段取りが悪いのは百も承知しているが、そこまで頭が回らなかったので仕方ない。適当にレシピを検索しているときんぴらごぼうやひじきの煮物、和風ハンバーグに高野豆腐の肉詰め…なるほどねぇ。ちょっとレベル高いな。
まあひとまずは簡単なものでいいかと思い直してスマホを放り、俺はまな板に手を伸ばした。にんじん大根豚バラ肉なんかを適当なサイズに切って、油を引いた鍋に放り込む。あとから忘れてたこんにゃくも追加した。そこに水とだしの素入れて煮立つまで放置。そこからゆっくり味噌をといて、最後に青ネギをちらせば最強の豚汁の出来上がり。ひとくち、うん、美味しい。
なんだかノってきたのでその勢いでポテサラ、鶏ももの甘辛煮、肉じゃがなんかをクックパッドの見様見真似で作っていく。どれも我ながらいい出来だった。サトウのごはんも買っておいたし、これでしばらく食には困らないだろう。
ふとスマホを確認すると18時すぎ。昼前に呼ばれたのだから随分長いことお邪魔してしまった。そろそろお暇しようとだるまの部屋を覗く。

「だるぅ」

「へっ、あ、なに」

「あごめん起こした?」

「うう、ん全然、寝れやんだし」

なんだか大袈裟な身振り手振りで会話を続けるだるまはもう十分元気そうだが、顔がやはり熱っぽい。まだ万全ではないだろうに、気丈に振る舞うのはこいつの性格故だと理解している。

「じゃあ俺そろそろ帰るよ。」

「えっ」

「食べるもん置いといたし、しばらくはそれで」

「ちょ、まってまって」

「?なに」

「と、泊まってけやっ」

「え?」

聞き返すと、何故かだるまの方が口に手を当てわたわたと忙しくなくしている。言ったことを後悔するほど嫌なら無理に気遣ってくれなくてもいいんだけど…
俺が怪訝そうな顔をしているのに気付いたのか、だるまは口を覆っていた手をぱっと離した。

「えと、部屋も掃除してもらって!飯も作ってくれて、そのぉ…お、礼も!したいから、!帰ってもらうのももーしわけないし…」

「お礼なんて今度でいいよ。俺いたら休まらんくない?」

「いや!?全然!!えーっと人おってくれた方がそのぉ…安心!やし!」

へらへらと笑うだるまが無理をしていないと言えば嘘になるのだろうが、義理堅いコイツからはこのまま俺を帰らせる訳にはいかないという意志を感じたのでお言葉に甘えることにした。

「えーと寝る場所…あぁ、寝室でええか。俺使ってないし綺麗だし」

「分かったぁ
 ねえ風呂借りていい?」

話しかけるとだるまが派手に咳き込んだ。やはりまだまだ万全では無いらしい。

「え!?風呂!?」

「ぁ、いや?嫌なら無理には」

「え゙いや使って使ってあんなの減るもんちゃうしな」

やけにテンションの高いだるまにお許しを頂いたのでシャワーだけ頂くことにした。なんでアイツが人と会わないのかわかった気がする。多分コミュ障なんだな。言動へんだし。

「良い奴なんだけどなぁ」

顔だって整っているのに、俺といてあのアガりようなら人前に出るのは抵抗があるのかもしれない。惜しい奴だ。






「あぁ」

ありさかの背中が脱衣所に消えていって、それでようやく息を吐いた。生まれたばかりの恋心はあいつの全ての言動におっかなびっくりしてしまって疲れる。絶対キョドってんのバレてたし変な奴やと思われた…萎えるなぁとため息をついて布団を被り直す。やっぱり暑くて蹴飛ばした布団は、軽い音を立ててベッドから滑り落ちた。


「お風呂ありがとう~」

「んぁ、はい…ぅ゙ん゙ッ」

いつの間にか風呂から上がっていたありさかがほかほかした顔を覗かせた。もうそれが、ほんとに、変な声出るほど(てか出たんだけど)やっっばくて。ひとより少し長い髪は水を含んで重く垂れ下がって、うなじに張り付いた毛先の、そのエロさたるや。先程着ていた服はどうしたのか、中に着ていたらしいタンクトップだけを身にまとって、ふっくら筋肉のついた二の腕が惜しげも無く晒されてなんか顔もほんのり赤いし…その、事の後っぽさを彷彿とさせて、…俺最低すぎん?
優しいありさかは俺が噎せたように誤魔化した声が心配なのか、その場で眉を下げつつ首を傾げた。かわいい

「喉痛いん?」

「……ソォカモォ」

「袋にのど飴入ってるから、舐めた方がいいよ」

「ソウスルネェ」

震えたカッスカスの声で返事していると、何を思ったかありさかがこっちに近付いてきた。ヒイッそのタンクトップ胸元開きすぎちゃうっ胸筋がッなんなら乳首見えそうやでなありちゃんほんとアカンでオオ゙鎖骨゙

すっと伸びてきた手は真っ直ぐに俺の額に当てられた。

「ん゙」

「冷えピタ意味ないなったなぁ。取り替えよ」

「…ジブンデヤルゥ…」

「あは、そうよなガキじゃないもんな」

そう言って手を離してくれると、そう思ったのに
一度離れた手は角度を変えて再度俺の火照った身体をなぞる。

「」

「おでこ触っても分からんなぁ。あ、首とかやっぱ熱いな。ほっぺも」

「」

「この辺全部貼った方がええんちゃう?
 のど飴舐めたら無理しないで寝るんよ~」

じゃあねえ、おやすみと言ってありさかは出ていった。俺はそれに返事することもできなかった。
…嵐、嵐のようだった。俺の情緒はさながら荒れ狂う波に揉まれる一艘の木造船であった。
今になってじわじわと溢れ出す恥ずかしさと、らしからぬときめきとが交差して、ああ本当に熱い。冷えピタの冷ややかさすら届かないこの体の奥がどうにも熱くて耐えられそうにない。握りしめた手から滲む汗も、声にならない叫び声も、もう誤魔化しようがないほどに。

「…好きやぁ……」
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