湯船に浸かる、そんな日常
「え?クレーバー?」
正面しか開かないケアパケ、確約されたように顔を覗かせたのは最強と謳われるスナイパーその名に相応しいほどの、
「…で…………っっかちゃんやん…」
「やめろ照れる」
それはそれは御立派な、相方のブツであった。
決して、やましい気持ちは無かった、…とは言いきれないが。
しかし、正味困らせてやろう、というのが7割。…ありさかの引き締まった身体が見たい、というのが2割。……ちょっと、ちょっとサイズを確認しようというのが、1割。
そんな軽めの気持ちであったのだ。コイツを風呂に誘ったのは。
仮にも恋人、仮にも同棲、仮にも付き合いたてのカップルなのだ。
惚れた相手のあれそれが気になるのは仕方がないことであるはずだ。…しかし、目測を見誤ったが運の尽きといったところか。いやいや別に俺が上すればいいだけの話やし別に下になるつもりで見ようとした訳やないしそもそもなんで俺が下みたいな雰囲気が出とんねんどう考えても俺が抱く側やろ普通に考えてなんっっでありさかなんかに押し倒されなあかんねんこいつまじくっっさ臭すぎ無駄にチンコでかいしキショいねんほんま
「うん言い過ぎ」
「あれ」
「ほんで長いし。
傷付くでそんな付き合い始めた恋人に目の前で長々と」
「や、ごめん口に出とるの気付きやんだ」
「待って本音ってこと?余計傷付いたんですけど」
乱雑にたたまれたタオルを頭の上からひょいと剥がし、ありさかはぶくぶくと湯船に沈んだ。
「そんな…そんなデカくないもん……」
「んーっとデカいんよね、それは。んー俺の人生史上一番デカいんよ」
「は??」
「え?」
ドスの効いた低い声が浴室に間抜けに反射する。瞳孔を開いたありさかは気怠げに伸ばしていた腕で飛びかかってきた。
「なに!!?、え、なに、こわ…」
「え?俺より前にも付き合ってた奴が居るってこと??」
「は、ぇ、なにドユコト…コワ…アリサカコワイ…」
「ちんこのサイズ比べられるような輩と付き合ってきたことあんのかって、」
「……あー…あるわけあるか!!」
べし、と俺の肩を掴むありさかの顔にチョップをお見舞いする。ありさかは「ぐえ」と言って浴槽に倒れ込んだ。
じゃぶん と大きな波が立つ。身体が揺すれるほどの波が。
「なんやビビらせんなタコ助が」
「俺のセリフな、それ」
さっきとは打って変わって、ありさかはその瞳を緩く綻ばせていた。
「いやでも、…あー……やめとこ」
ありさかが何かを言い淀んだ。気になって聞き返す。
「なに。」
「いンや、ふふwなんでもないw」
「は?きんも…」
ひとりでくつくつと笑い始めたありさかに心からキモイなと思った。そもそもコイツは笑い方が特殊。オーホホホホホホwwwって笑う奴マジでこいつしか居ない(参照:スクリムデュオ戦)。
「お前だってエヒャヒャヒャヒャって笑うやん」
「そやね、俺はそれで行かせてもらってるわ。」
「いやなんか、ビビってるだるま小動物みたいで、ッwふ、んふww」
「ヒトがビビってんのを笑うなよ!」
「いや、ごめンッフッフwww」
「ねーもうこのおぢさんガチでキモいママー!!」
「ひとつしか変わらんやろがいマザコンが。」
テンポのいい会話を繰り返す、繰り返す。
くるくると一番快い速度で脳みそが回っているのを感じる。
「はーぁ…まあええよ。その辺の女の子にこんなデカブツは
可哀想でしゃあないでな、俺が引き受けたる。」
「おっとこまえー。」
「まぁ俺かっこええでな。」
ふんすと鼻を鳴らすと、ありさかがわざとなんでもないように言った。
「まあ俺別に無理にそういうことしたいわけじゃないから、
…ぁのえーと…うん、ええよ」
「何がやねん笑」
俺から目線を外して、気遣うように、でも適切な言葉を見つけられなくて。わざとそっけなく、取るに足らない話題だと言うように。お前ほんま良い奴やな。
分かっているのに分からないフリをする俺は中々悪い奴だけど。
ゔーと唸って言葉を探すありさかのそういう優しいとこが好きだった。きっと身体なんか繋げなくても、ありさかは俺と居てくれるんだろう。
…でもやっぱ、キョーミあるやん?
こいつが俺に縋ってくるところ、見たいやん?
どっちがどっちとかは抜きにしても、根から優しいこいつの余裕ないところ。
「…まぁ俺はシたいけどね」
「…だるまさん?」
「じゃあ、勝負な」
そう言うとはたとありさかの動きが固まった。
そうやんな、勝負事には勝ちたいよな?
腐ろうがカビようが、俺ら、根っからのゲーマーやもん。
「…勝負?」
「俺が先に、お前のコレ入れられるくらいまで後ろイジるんが早いか、お前が罪悪感に負けて『下でいい』言うんが早いか。」
「え、それってだるまがめっちゃ大へ」
「黙れ」
「はひ…」
「絶対ありさかのこと組み敷いたるからな覚悟しとけよ」
「え俺別にどっちでもい」
「うるさい」
「なんなんもう;;」
「それじゃ勝負にならんやろ」
言い出しっぺ、自分の言葉に踊らされる。勝負を仕掛けたからには、仕掛けた側は相手より不利であるべきだし、不戦勝なんてものはあまりにも興に欠ける。この言葉を使ってしまった時点で、俺は俺自身の首をもまた締めたのだ。バカかもしれない。
「分かった、ノるよやるよ」
「当たり前やろ馬鹿が。2週間な」
「2週間!?それってだるまの勝ち目ないんじゃ」
「は?舐めんな俺の適応能力。俺努力家やねん」
「ぇ知ってるけどさ…」
努力の方向が違うんじゃないかと指摘するありさかの声はもう聞こえない。しゃあやるぞ!と勢いよく湯船から立ち上がった俺はぐらり、逆上せて立ち眩んだ所をデカブツに支えられた。
「次そう呼んだらぶっ飛ばすぞ」
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