【清宙】マジカルスモーキンボーイ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
微睡みの中からゆっくりと自分の意識が浮上する。瞼は重く、頭の中はまだ夢に溺れているようだ。それでも体は覚醒して、宙はゆっくりと体を起こした。布が擦れる音を聞きながら、隣のシーツがひんやりと冷めているのに気付いた。
いると思ったのに。一体どこに行ったんだろうか。その答えはすぐ目の前にあった。そのまま視線を横にずらすと、月明かりに照らされた床にゆらゆらと揺れる影を見つける。窓を見つめれば、ベランダで清司郎がこちらに背を向けたまま外を眺めていた。部屋を冷やさないためか、窓は閉めてあるので、こちらの物音にも気付いていないのだろう。清司郎の周りにまとわりつくベールに、宙はあっ、と小さな声が出る。
(先輩って、やっぱり煙草吸ってるんだ。)
噂には聞いていたが、実際に吸っているところを見るのは初めてだった。教えてくれたのは瑠璃だ。「意外よね〜」なんて言っていた瑠璃の言葉を、宙はいまいち信じることが出来なかった。世間のルールには意外と従う清司郎が、何かとビビりな彼が、煙草なんて体に悪いもの吸うだろうか、と。
けれど、その噂は本当だったらしい。ベランダの柵の上に置かれた硝子の灰皿が、月に照らされてキラキラと光っている。とん、とん、と灰皿に燻った灰を落とす仕草は手慣れていて、扱いに慣れているんだろうなと理解出来る。宙の前で吸う姿を見せなかったのは、宙の体のことを気にしてかもしれない。彼はそういう男だ。
宙はできるだけ物音を立てないようにベッドから身を起こすと、ゆっくりとベランダに近づいた。痛いほど冷えた窓に手をついて、清司郎を見つめる。
きっと、寝ている宙が風邪をひかないようにと気を使って窓を閉めているのだろうが、外はどれだけ冷えているんだろう。薄手のカーディガンを着ているようだが、そんなもので暖など取れないだろうに。そこまでして吸いたいそれは、いったいどんな味がするんだろう。19歳の宙には、手を伸ばしても届かない味なのだろう。
人差し指を曲げて、こんこん、と窓を小突く。あからさまに肩をびくりと震わせ、勢いよく振り返った清司郎の姿が妙におかしくて、思わず口角が上がる。そういうところは変わらない。
「なんだ、びっくりしたじゃないか。」
からからとベランダの窓を開けると、清司郎は分かりやすく胸を撫で下ろした。灰色の塊が、本体から欠ける。もう少し衝撃を与えたら、そのまま落っこちてしまいそうだ。
「先輩、灰、落ちそうですよ。」
「え、あぁ。」
とんとん、と衝撃を与えられた灰が落ちていく。崩れ落ちた灰はぐしゃ、と形を崩して、残りカスの煙を漂わせた。たった数秒、数分火に炙られて灰になる煙草の儚さときたら。金銭感覚に対しては主婦のような考えを持つ宙からしてみれば、その数秒のために失う金額に驚いてしまう。
煙草の先から漂う煙と、清司郎が吐き出した煙が混ざり合い、清司郎を囲い込む。濁った灰色だと思っていた煙は、月の光と混ざり合い、青白い。
「先輩、煙草吸うんですね。」
宙がじっ、と見ていたせいか、どこか居心地が悪そうに視線をさ迷わせていた清司郎に問う。やっぱりどこか隠していたところがあるようで、躊躇いがちに頷くと、「時々ね」とつけ加えていた。
「あまりそばにいない方がいいよ、副流煙は体に悪いから。」
さっきから妙に距離を置かれていると思ったらそういうことか、と宙は納得する。それでも離れようとしない宙を見て清司郎は苦笑すると、吸いかけの煙草を優しく灰皿に置いてしまった。まだ吸い始めることは出来るだろうが、燻った灰は戻ってこないのに。
「勿体無いから吸っててもいいですよ。」
「いや、いいんだ。どうせ暇つぶしのようなものだしね。」
暇つぶしのために、命まで灰に変えてしまうのかと思ったが、それは言わなかった。まだ残っているはずの煙草を手に取ると、灰色の先端を灰皿に押し付けて潰した。
「あぁ、勿体無い。」
「君との時間に比べたら、煙草の価値なんて微々たるものさ。」
ぐじゅ、と紙が潰れるような音がして、ふわっ、と煙が舞う。その煙は踊るように揺れ、宙と清司郎の間にたゆたう。それがどこか二人の間を遮る壁のように見えて、宙はぐっ、と距離を近づけると清司郎の腕を掴み、そっと唇を重ねた。
ふにっ、と寝起きで乾いた唇が擦れ合う。いつもだったら舌を入れてくるはずなのに、今回はその熱に触れるだけ。副流煙のことでも考えているのだろうか。宙のためとはいえ、煙草にキスを奪われたようで憎たらしく感じた。
特に何も仕掛けてこない清司郎に呆れて、宙は早々に口を離した。確かに煙草臭いや、そんなことを思う。先輩の顔を見れば、いつもの困ったような優しい笑顔。そういう時だけ"大人"を見せてくるのだ、清司郎という男は。
「体も冷えるし、もう入ろうか。」
宙の背中を優しく撫でて、部屋に入るよう促す。宙よりも長い時間外にいた清司郎の方が冷えているだろうに、そっと着ていたカーディガンを宙の肩にかけた。「要らないです」という言葉は無視するらしい。
からからとベランダの窓を閉めてベッドに潜り込む。夜風がないだけでこんなにも温かい。隣に寝転んだ先輩の手を握った。窓のように冷えていて、生きているのか不安になる。命を燃やしたあとの体のようだ。
「おれも……20歳になったら煙草吸おうかな。」
ふと、そう呟いてみた。
別にそんな気はない。体に悪いことは小さい頃から散々教育されているし、1箱の値段が高いことも知っている。高い金を払って自分の命を削るなんて宙には考えられなかった。でも、何となく言ってみたかった。
清司郎の顔を見る。驚いたように目を見開いたあと、「ダメだよ」と少し強気な声で言われた。
「君には、できるだけ長く生きていて欲しいからね。」
さらっと言うけれど、それはこちらのセリフだ、と宙は思う。煙草の香りを纏ったその体で何を言うか。
清司郎の胸元に顔を埋める。あぁ、煙たくて嫌だ。明日起きたらまずはシャワーを浴びてもらおう。服もシーツも布団も洗濯しよう。命を燃やした煙を、洗い流してもらわなければ。
そのまま動かない宙を見て寝てしまったと思ったのか、清司郎も「おやすみ」と呟いて瞼を閉じてしまった。煙に取り憑かれた宙は、眠気を待つ。
水底みたいな、青白い月光に溺れた部屋の中で、燃える命の温もりを探しながら。
いると思ったのに。一体どこに行ったんだろうか。その答えはすぐ目の前にあった。そのまま視線を横にずらすと、月明かりに照らされた床にゆらゆらと揺れる影を見つける。窓を見つめれば、ベランダで清司郎がこちらに背を向けたまま外を眺めていた。部屋を冷やさないためか、窓は閉めてあるので、こちらの物音にも気付いていないのだろう。清司郎の周りにまとわりつくベールに、宙はあっ、と小さな声が出る。
(先輩って、やっぱり煙草吸ってるんだ。)
噂には聞いていたが、実際に吸っているところを見るのは初めてだった。教えてくれたのは瑠璃だ。「意外よね〜」なんて言っていた瑠璃の言葉を、宙はいまいち信じることが出来なかった。世間のルールには意外と従う清司郎が、何かとビビりな彼が、煙草なんて体に悪いもの吸うだろうか、と。
けれど、その噂は本当だったらしい。ベランダの柵の上に置かれた硝子の灰皿が、月に照らされてキラキラと光っている。とん、とん、と灰皿に燻った灰を落とす仕草は手慣れていて、扱いに慣れているんだろうなと理解出来る。宙の前で吸う姿を見せなかったのは、宙の体のことを気にしてかもしれない。彼はそういう男だ。
宙はできるだけ物音を立てないようにベッドから身を起こすと、ゆっくりとベランダに近づいた。痛いほど冷えた窓に手をついて、清司郎を見つめる。
きっと、寝ている宙が風邪をひかないようにと気を使って窓を閉めているのだろうが、外はどれだけ冷えているんだろう。薄手のカーディガンを着ているようだが、そんなもので暖など取れないだろうに。そこまでして吸いたいそれは、いったいどんな味がするんだろう。19歳の宙には、手を伸ばしても届かない味なのだろう。
人差し指を曲げて、こんこん、と窓を小突く。あからさまに肩をびくりと震わせ、勢いよく振り返った清司郎の姿が妙におかしくて、思わず口角が上がる。そういうところは変わらない。
「なんだ、びっくりしたじゃないか。」
からからとベランダの窓を開けると、清司郎は分かりやすく胸を撫で下ろした。灰色の塊が、本体から欠ける。もう少し衝撃を与えたら、そのまま落っこちてしまいそうだ。
「先輩、灰、落ちそうですよ。」
「え、あぁ。」
とんとん、と衝撃を与えられた灰が落ちていく。崩れ落ちた灰はぐしゃ、と形を崩して、残りカスの煙を漂わせた。たった数秒、数分火に炙られて灰になる煙草の儚さときたら。金銭感覚に対しては主婦のような考えを持つ宙からしてみれば、その数秒のために失う金額に驚いてしまう。
煙草の先から漂う煙と、清司郎が吐き出した煙が混ざり合い、清司郎を囲い込む。濁った灰色だと思っていた煙は、月の光と混ざり合い、青白い。
「先輩、煙草吸うんですね。」
宙がじっ、と見ていたせいか、どこか居心地が悪そうに視線をさ迷わせていた清司郎に問う。やっぱりどこか隠していたところがあるようで、躊躇いがちに頷くと、「時々ね」とつけ加えていた。
「あまりそばにいない方がいいよ、副流煙は体に悪いから。」
さっきから妙に距離を置かれていると思ったらそういうことか、と宙は納得する。それでも離れようとしない宙を見て清司郎は苦笑すると、吸いかけの煙草を優しく灰皿に置いてしまった。まだ吸い始めることは出来るだろうが、燻った灰は戻ってこないのに。
「勿体無いから吸っててもいいですよ。」
「いや、いいんだ。どうせ暇つぶしのようなものだしね。」
暇つぶしのために、命まで灰に変えてしまうのかと思ったが、それは言わなかった。まだ残っているはずの煙草を手に取ると、灰色の先端を灰皿に押し付けて潰した。
「あぁ、勿体無い。」
「君との時間に比べたら、煙草の価値なんて微々たるものさ。」
ぐじゅ、と紙が潰れるような音がして、ふわっ、と煙が舞う。その煙は踊るように揺れ、宙と清司郎の間にたゆたう。それがどこか二人の間を遮る壁のように見えて、宙はぐっ、と距離を近づけると清司郎の腕を掴み、そっと唇を重ねた。
ふにっ、と寝起きで乾いた唇が擦れ合う。いつもだったら舌を入れてくるはずなのに、今回はその熱に触れるだけ。副流煙のことでも考えているのだろうか。宙のためとはいえ、煙草にキスを奪われたようで憎たらしく感じた。
特に何も仕掛けてこない清司郎に呆れて、宙は早々に口を離した。確かに煙草臭いや、そんなことを思う。先輩の顔を見れば、いつもの困ったような優しい笑顔。そういう時だけ"大人"を見せてくるのだ、清司郎という男は。
「体も冷えるし、もう入ろうか。」
宙の背中を優しく撫でて、部屋に入るよう促す。宙よりも長い時間外にいた清司郎の方が冷えているだろうに、そっと着ていたカーディガンを宙の肩にかけた。「要らないです」という言葉は無視するらしい。
からからとベランダの窓を閉めてベッドに潜り込む。夜風がないだけでこんなにも温かい。隣に寝転んだ先輩の手を握った。窓のように冷えていて、生きているのか不安になる。命を燃やしたあとの体のようだ。
「おれも……20歳になったら煙草吸おうかな。」
ふと、そう呟いてみた。
別にそんな気はない。体に悪いことは小さい頃から散々教育されているし、1箱の値段が高いことも知っている。高い金を払って自分の命を削るなんて宙には考えられなかった。でも、何となく言ってみたかった。
清司郎の顔を見る。驚いたように目を見開いたあと、「ダメだよ」と少し強気な声で言われた。
「君には、できるだけ長く生きていて欲しいからね。」
さらっと言うけれど、それはこちらのセリフだ、と宙は思う。煙草の香りを纏ったその体で何を言うか。
清司郎の胸元に顔を埋める。あぁ、煙たくて嫌だ。明日起きたらまずはシャワーを浴びてもらおう。服もシーツも布団も洗濯しよう。命を燃やした煙を、洗い流してもらわなければ。
そのまま動かない宙を見て寝てしまったと思ったのか、清司郎も「おやすみ」と呟いて瞼を閉じてしまった。煙に取り憑かれた宙は、眠気を待つ。
水底みたいな、青白い月光に溺れた部屋の中で、燃える命の温もりを探しながら。
1/1ページ