【キヨヒロ】Ideal image
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「あーあ、これじゃ示しがつかないなぁ……」
ピピピッ、と無機質で甲高い音が部屋に響く。脇に挟んでいた体温計は38度を示している。発熱だ。隣で不安そうに宙の名前を呼ぶガンマモンの頭を優しく撫で、大丈夫だと伝える。けれど、いつものような元気は見られない宙の姿に、ガンマモンは更に身を縮こませた。
部屋に備え付けの冷蔵庫からゼリーをいくつか取り出す。子供用のスプーンも添えてガンマモンに差し出し、とりあえず朝ご飯はこれで済ませて欲しいと伝えた。宙はウィンダーゼリーを口に含み、喉に流し込む。
朝起きてからも頭痛は酷く、体も何だか火照っているような気がした。まさかと思い体温を測ってみればやはり熱。最近は忙しくて体の負担も大きかったからかもしれない。デジモンのことに、新しい環境での生活。確かに、ずっと気を張りつめていた。
(だからといって、昨日の今日はなぁ……。 先輩に合わせる顔がない……。)
あれだけ大口叩いといてこれだ。とりあえず学校には休みの連絡を入れた。病院には1人で行けると伝えて、市販の解熱剤を飲めばとりあえずベッドに横になる。不安そうなガンマモンがずっと抱き着いてくるから、「いつものように遊んでおいで」と伝えてあげた。ガンマモンはしばらく悩んでいたようだが、とりあえず部屋の中にある玩具で遊ぶことに落ち着いたようだ。気を使ってかあまり大きな声を出さないでいてくれるから、案外すぐに寝付けそうだ。
昨日の言葉を思い出す。あれからずっと考えていたけど、このモヤモヤの答えは出てこない。それに、今だって自分は至って冷静で、1人でこなせていると思う。やっぱり、1人でも大丈夫だ。
(そもそも、実家にいた時だってこうだったしな。)
熱が出た時、家にいた父は心配して病院に連れて行ってくれることはもちろんあったが、料理も家事も出来ない彼が看病なんてものできる訳もなく、熱でフラフラする中自分でご飯を作っていたのを思い出す。あまり良くないけど、大人用の市販の薬を飲めば治ることも分かって、そのうち1人で対処するようになった。自室から出てこない父は、こちらから伝えなければ熱が出たことも学校を休むことも知ることは無い。何時に家にいようが、別に何か言われるわけじゃない。そのうち病院に行くのも面倒で、1人でこの熱をやり過ごすことも増えた。誰が悪いわけじゃない。自分で出来ると思ったからしてるだけ。
(だって……おれの知ってる大人は……みんな1人で……)
「ほら、だから言っただろう?」
突然の聞き慣れた声に、宙ははっとして顔を横に傾ける。見下ろすようにして立っていたその人は、手にプレートを持っていて、懐かしい香りが漂わせている。
「せんぱい……」
「おはよう、とりあえずちゃんと横になっているようで安心したよ。」
机に備え付けられた椅子を引っ張り出し、清司郎は腰を下ろす。不思議そうに見つめる宙に構わず、清司郎は運んできたお粥を冷ますようにレンゲでかき混ぜる。
「それ……先輩が……作ったんですか……?」
「ん? 安心したまえ、食堂の方に頼んで作ってもらったものだよ。少なくとも味は大丈夫さ。」
別に味の心配をした訳ではないのだが、本人には通じなかったらしい。食べれるか聞かれ、少しだけならと答えつつゆったり体を起こす。薬は飲んだものの、ゼリーしか摂取してないお腹はすぐに空腹を訴える。それがいけなかったのか、あまり解熱剤は仕事をしてくれない。
自分で食べられると何度か伝えたのに、清司郎は頑なに自分が食べさせてやると譲ってくれなかった。何故そこまで引き下がるのか宙には読み取れなかったが、とりあえず従ってやることにする。口に運ばれたお粥は程よい味付けで、幼い頃に母が作ってくれた卵粥を思い出した。
余程お腹が空いていたらしい。清司郎が運んできてくれたお粥はすぐに空になり、空腹も満たされた。気分も少しだけ和らいだ気がする。
「助かりました。すみません……その……連絡入れてもらえればおれが取りに行ったし、何ならレンチンのお粥はここに……」
「はいはい、病人なんだから遠慮する必要はないよ。それに僕は寮長だからね。この寮の生徒が体調を崩してしまったというのならサポートをするのは当然だ。」
ふんっ、と胸を張って口角を上げる清司郎の姿に、あぁいつものだ、と妙に安心する。普段なら絶対ウザいと思ったと思う。いや、ちょっとウザいかもしれない。面倒くさいとは思う。
それでも責任感はある人だ。最終的には自分が巻き込まれた問題を収めることができる人なのだ。まあ、本人は覚えていないことが多いようだが。
「ありがとう……ございます……。でも、やっぱり迷惑かけるのは……」
「また、お得意の『1人で』かな?」
その意地が悪そうな物言いに、宙はむっ、と眉を寄せる。この人はどうもその話を引っ張り出してきたいようだ。今思えば、お粥の件を粘ったのもこの部屋に腰を下ろすためかもしれない。そう思うとやっぱり部屋から出てもらえばよかったと思った。そんなこと思う自分は薄情者だろうか。
「せんぱいは……おれに……何を望んでるんですか……?」
「僕は君に頼って欲しいのさ。僕だけじゃない、月夜野君だって頼りになる。どうも君のその1人で全て解決しようとする態度が危なかっしくて気に食わない。」
昨日よりも少しきつい口調だ。その表情も少し重たげで、宙は清司郎を見つめることしか出来ない。
「君は……こう……何かに急かされているような……何をそう焦っているんだい?」
次は困ったように眉を下げる。本当にころころと表情が変わる人だと思う。感情が豊かで、外に出すのも上手い。そんな彼の姿に、そうなりたいわけじゃないけれど、どこか羨ましく感じる自分がいる。
「……おれは……ただ……はやくおとなに……おとなになりたいんです……」
ゆっくりと瞼を閉じる。瞼の裏側に焼き付いた父と母の姿に、酷く懐かしく思う。とても近い存在なのに、とても遠くにいるあの人たち。
「父に頼らず……母に迷惑をかけず……生きていたいんです……おれの家は……それぞれがしたいことを勝手にする家だから……おれも……1人で勝手に生きられるように……そうなりたいんです……」
幼い頃からそれが当たり前であり、その姿が『大人』だと学んだから。それを目指すのは間違いなのだろうか。確かに13年という短い人生の中で見つめて親の姿なんて世界中の『大人』のほんの一例に過ぎないのかもしれない。けれど、13年しか生きてない1人の少年には、その姿が『大人』の姿なのだ。
「まだ……13のおれが……大人になろうとするのは……烏滸がましいでしょうか……まだ……子どもでいるべきなんでしょうか……」
わからない。ずっと大人になるのが正しいと思っていたのに、いきなり閉鎖的なこの世界に入り込んでそれを否定してくる人がここにいる。じゃあ自分はどんな大人になればいいのか。それとも、子どもであるべきなのか。でも、少なくとも世間一般の『子ども』のままじゃ、今までの生活の中では生きていけなかった。
「おれ、は……なにに、なりたいんでしょうッ……」
多分、今のモヤモヤの最終地点はこれなんだと思う。清司郎の言葉を受け入れられなかったのは、自分の持つ理想像が崩れる気がしたからだ。
「僕は……君の生い立ちを知らないから、こうだ、という答えは与えられないかもしれないけれど、少なくとも誰かに頼る術は必要だと思うよ。」
くしゃ、と髪が撫でられる。こうやって撫でられるのはいつぶりだろう。
「全部一人でやろうとするその気持ちは大切かもしれないけれど、それでは、いつか君が壊れてしまう。」
その優し撫で方に、両親を思い出す。あの人たちは今、どうしているのだろう。
「僕は、君にはそんな大人になって欲しくない。」
そんなの、ただの先輩の願望じゃないか。そう思うのに、宙はじわりと熱を持つ目尻の感触を味わいながら、こくりとひとつ頷いた。