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【:ヤマ太】デタラメシトリン【年齢操作】



「たいち!」

「お、やまと! 久しぶりだな!」

高校の卒業式を終えて、太一は自宅へと帰る途中だった。マンションの入口で暇そうに座り込んでいるやまとの姿を見つけて、太一は声をかけた。それに反応したやまとは勢いよく顔を上げると、太一の側へと駆けてくる。

「卒業おめでとう。」

「おう、ありがとう!」

やまとからの祝福の言葉に、太一は嬉しそうに笑う。

「わざわざマンションの前で待っててくれたのか? 春になったとはいえまだ3月になったばかりだし寒かったろ?」

「いや、今来たところだから、そんな長い時間待っていたわけじゃない。」

眉を下げて心配そうに覗き込んでくる太一に、やまとはほんのり頬を赤くしながら目を逸らす。その頬の赤みを冷えたのだと勘違いした太一はポケットに入れて温めていた両手を取り出してむにゅ、とその頬を優しく包んだ。

「! たいち」

「頬、赤いから、冷えたのかなって。おれの手、ポケットに入れてたから温かいだろ?」

にこにこと笑う太一とは反対に、やまとの顔はどんどんと顰め面に変わっていく。それが思わず緩んでしまう口元を我慢するためだと気づかない太一は慌てて手を離した。

「わ、ごめん。そんな怒らないで。嫌だった?」

離れていく手と体温が名残惜しかったが、縋ることもできずにただ首を横に振った。

「そっか、よかった。でも寒いだろ? おれん家寄って帰るか?」

「いや大丈夫だ。この後用事があるからすぐ帰る。……太一に渡したいものがあって。」

「渡したいもの?」

やまとの目線に合わせて太一がしゃがむと、やまとは自身のポケットから小さな包みを取り出し、しゅるしゅるとリボンを外した。

「太一、左手出してくれないか。」

「左手? はい。」

素直に差し出された左手をとり、包みから取り出したものを薬指に通す。そっと手を離され、解放された左手を、太一は不思議そうに空に掲げた。

「……指輪?」

「あぁ、そうだ。」

春の優しい陽の光に照らされて、その指輪に飾られた宝石を模したビーズがキラキラと反射する。真ん中についた大きなオレンジ色のビーズの周りに、小さなビーズが囲むようにして丸を描いている。それはまるで、太陽のようだった。

「やまと、これって……」

「指輪だ。約束の指輪。」

「約束の指輪?」

やまとはこくんと頷く。

「太一、俺……太一のことが、好きなんだ。」

「へ?」

「ずっと、ずっと好きだった。もちろん俺は男で、太一も男だ。歳もたくさん離れてて、こんな子どもに言われたって笑われるだけかもしれない。けど俺は……太一のことが、好きだ。ずっと一緒にいたいし、離れたく、ない……。」

最後の方は少し声が小さくなっていた。太一は突然の告白に動揺していたが、決してやまとを笑ったり揶揄ったり冗談だと突っぱねることはなかった。やまとのその真剣な瞳に、深縹色の瞳に射抜かれて、嘘だとは思えなかった。
ずっと一緒にいたいし、離れたくない。その言葉に、太一は「そうだね」とは返してやれなかった。高校を卒業した太一は、四月から別の場所へと移り住んで大学へと通うことになっている。ここから特別遠いわけではないが、まだ六歳の彼が簡単に行ける場所ではない。太一はその事を分かっていて、そしてそれをやまとにも事前に伝えているから、やまとのその言葉に寂しさを感じた。

「……わかってる、太一がずっとその大学に行くために勉強を頑張っていたこと知ってるから、別に今更止めたりしない。だけど、その代わりその指輪を持っていて欲しいんだ。」

「これを?」

「もし、もし太一に好きな人が現れたら、その指輪は捨てて欲しい。太一のその左手の薬指にはまるのはその指輪じゃなくなるから。だけど、もしも俺が二十歳になっても太一に好きな人が現れなかったら、その時はその指輪を目印に俺が迎えに行く。そして、一緒に結婚する。」

つまりこれは目印なのだ。太一に想い人がいるのかいないのか、それを示すもの。もしも太一に好きな人が出来て自分の存在が邪魔になってしまったら。自分が身勝手に告白して太一を悩ませてしまったら。それを防ぐための、目印。

「わかった、その約束守るよ。」

太一は快く受け入れてくれて、約束の指切りをした。その大きな手にいつか追いつきたいと、やまとは思った。





「……太一、さっきは何を考えていたんだ。」

「ん〜?」

ギシッ、とベッドの軋む音が鳴って、なみなみと水の入ったコップを持ったやまとが腰を下ろした。近くのテーブルにコップを置き、寝転がっている太一の顔の横に手をついて見下ろす。

「別に、何も。」

「嘘をつくな。さっき確かに俺の方を見ていなかったろう。」

「さっきって、いつ?」

不機嫌そうに顔をしかめるやまとを見て、太一は揶揄うようにくすくすと笑った。それが気に食わないのか、やまとは更に眉間に皺を寄せる。

「……教えてやろうか? ここに、俺のが、入っていた時だ。」

「……、ぁ、」

やまとのもう片方の手が、太一の腹をするりと撫でた。何も身につけていない太一の身体は無防備で、未だ快楽の一片が残る身体にぴりっ、と快感が走る。

「何考えてたんだ。」

「やまとのこと、考えてた。」

「俺の事? 目の前にいるのにか。」

「やきもち?」

「……うるさい。」

その対象がやまとであろうと、本人は嫉妬をしてしまうらしい。十二歳も歳下の恋人が可愛くて、太一は口角が上がってしまうのを我慢できなかった。

「やまとから貰った指輪のこと考えてたんだ。」

「指輪? 一年前にあげたものか?」

「ううん、そっちじゃなくて、やまとが六歳のときにくれたやつ。」

そう言って左手を部屋の明かりにかざすと、薬指にはめられた二本の指輪がキラキラと輝く。ひとつは今から十五年前に貰ったもの、もうひとつは一年前に迎えに来たやまとがプレゼントしてくれた指輪だ。

「まだ二つともつけてるんだな。昔の方はもう約束も果たせたんだから外してもいいんじゃないか?」

「ううん、おれがつけていたいんだ。なんだか、落ち着かなくてさ。」

たはは、と笑う。あれから十四年、律儀にずっとつけていた太一にとって、この指輪はもう身体の一部となっていた。今はもう、つけなければなにか忘れ物をしたかのように不安で仕方なくなる。

「俺が言うのもなんだが、まさか本当にずっとつけてくれているとは思わなかった。」

「なんだよ〜、約束しただろ? おれは約束は守るぞ。たとえそれが、十四歳も歳下の小さな男の子と交わしたものでもね。」

ぱちん、とウインクをしながら、太一はやまとの頬を撫でた。

「それにしても、大きくなったなぁ。」

その言葉に、やまとは嬉しそうに頷く。自分よりも大きく成長した彼の姿に、太一は嬉しくなる。その愛おしさから太一はやまとを引き寄せ、ちゅ、と優しく唇で触れた。

「……太一、もう一回したい」

「え〜、もうそれ何回目だよ〜。」

最初はキスのことかと思ったが、身体を撫でられ、その意味がその先の行為まで含んでいるのだと理解した。やまとは今年で二十一歳、太一は三十三歳になる。付き合い始めてから一年、性欲がありあまるやまとの相手をするのも体力の限界を感じている。できるだけ満足するまで付き合ってやりたいが、さすがの太一も途中でのびてしまう。それが最近のちょっとした悩み。

「おれもやりたいけど、ちょっと休憩しよう。」

「……無理させてすまない。」

「おれもやりたいんだって。」

座っていたやまとをベッドの中に誘い、向かい合うように横になる。

「せっかくやりたいって言ってくれてるのに、おれの身体がついていかないのは申し訳ないけどね。」

「そんなことない。そもそも俺は太一を手に入れるのに十四年待ったんだぞ。それに比べたらこれくらいなんてことない。」

確かにそうだと、太一は頷く。十四年の空白を埋めるように、二人は身を寄せあった。
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