【:ヤマ太(♀)】小話
「あ、ヤマトーー!!」
「! 太一!」
遠くから駆けてきた太一は、こちらを振り返ったヤマトに思い切り飛びついた。構えきれていなかったヤマトはそのまま後ろに倒れ込むが、何とか頭は打たないように手を添えられた。
「わっ! ヤマトごめん!」
「いや、構わない。それより無事だったのか。」
「あぁ! 心配かけてごめんな。」
へへへっ、と申し訳なさそうに頭を搔く。ヤマトはゆっくりと上体を起こして太一を膝に座らせると、傷がないか頬や腕を確かめる。
「アグモンはどうしたんだ?」
「それが……一緒に捕まっちゃったんだけどおれとは別の部屋に連れて行かれたみたいで……探すにもおれ一人じゃ危ないから、ヤマト達に助けを求めようと思って……」
「そうか、……じゃあ太一とアグモンがいる場所に連れて行ってくれ。」
「おう! わかっ、た、──ぁ゛あ゛……!?」
ザクッ、と何かを切り裂く音とともに、太一の背中に激痛が走った。痛みで震えながらその場に蹲る太一を無視して、ヤマトはゆっくりと立ち上がった。後ろを見れば、ガブモンの鋭い爪が背中を切り裂いたのだとわかった。けれどそこに血の跡はない。
「やっぱりか、いい加減正体を現せ。」
ジジッ、と太一の身体が映像のようにぶれる。それはノイズが走ったように姿形を変え、見たこともないデジモンの姿へと変わった。
「な、ぜ……わかっ、た……!」
「あいつはアグモンが囚われたままだと分かっているならそのまま一人で探しに行く。それぐらい危なくて勇敢なヤツなんだ。良くも悪くも……な。」
ヤマトの冷たい視線が突き刺さる。その恐怖に、デジモンは思わず身震いをした。
「俺を騙したかったんだろうが、たかが数分太一と会話をしただけのお前が俺を騙せると思うな。」
吸い込まれるような深縹色の瞳がまとわりつく。
「さぁ太一とアグモンの居場所を吐け。タイムリミットはない。……俺は今、気が立っているんだ。」
ガブモンの爪が背後からデジモンの首へと当てられる。口内で煌々と燃ゆる青い炎は、いつでもその身を焼き尽くしてやるぞと言わんばかりだ。
その小さな身体から発せられるプレッシャーに、デジモンは恐慄いていた。小さな狼は、この世を統べてしまいそうな程大きく見えた。
「──俺の恋人を返してもらうぞ。」