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【:ヤマ太(♀)】小話



「ひかりぃいいいいッ!!」

太一が何度名を叫ぼうと、無情にもそれは飛び去っていく。どんどんとヒカリから距離が離れていくのを、太一は必死に追いかけて防ごうとする。けれど小学生の歩幅などたかがしれている。確実に間が空いていくのを目の当たりにし、太一は息が詰まった。

「ひかりぃいいッ、うわッ…!」

呼吸の乱れで足がもつれる。でこぼことした道に躓き、太一は勢いを殺せぬまま前へと思い切り倒れ込んだ。むき出しの肌が地面と擦れ、赤くなる。じくじくと火傷のような痛みに顔をしかめるが、それよりも目の前で遠ざかっていくヒカリの姿に、太一は胸が締め付けられた。じわりと瞼が熱くなって、思わず視線を落とす。

(おれがもっとヒカリのこと見ててやれば……手を繋いであげていれば……それに、スカルナイトモンが追ってきている可能性だって予測できたはずだろ……!)

ぎゅう、と握り締めた手がほんの少し痛む。そもそもあんな危ない戦いにヒカリを巻き込んでしまったこと自体、太一には耐え難いものだった。自分の一瞬の気の緩みが、ヒカリが連れ去られる要因になってしまったのだと、太一は自身の甘さを叱咤する。

(……ダメだ、泣くな泣くな泣くなッ……!泣く資格なんて、おれには、おれにはないだろッ……!泣きたいのは、怖くて仕方ないヒカリなんだッ……)

歪む視界とどんどん熱くなっていく瞼に、太一は自身の腕に額を擦り付けた。何度も耐えろと自分に訴えかけて、早くなる息をできるだけ押さえ込もうとする。

『タイチ……!』

後ろからアグモンの声が聞こえる。けれど今振り返れば、返事をすれば、赤くなった瞼も震えた声も知られてしまうと、太一は躊躇った。沈黙が、太一を責め立てるように突き刺さる。

『立ってタイチ!タイチが落ち込んでたら、誰がヒカリを助けるのさッ!』

アグモンの訴えるような叫びに、太一ははっ、となって顔を上げる。視線の先にはもう、ヒカリの姿は見えない。

(そうだ……ここで落ち込んでる間にも、ヒカリの身に何か起こってるかもしれない……)

痛む身体に鞭を打って、太一はゆっくりと立ち上がった。アグモンに礼を言えば、力強く頼もしい眼差しが返ってくる。太一は空を見上げた。どんよりとした曇り空が、太一の不安を掻き立てる。

(今は……ヒカリを追うしかない。……懺悔も、罰も、全部その後一人で受け入れればいい話だ。)

太一はデジヴァイスを取りだした。みんなを呼び出しながら、ただ自分の罪の意識に押し潰されぬようにと、必死に動揺を押さえ込んでいた。
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