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【:ヤマ太】風を食む



八神太一は、DWに来て力を得た。

デジヴァイスを通して、パートナーに力を与えられるようになった。自分の強い気持ちに共鳴して、パートナーもまた強くなる。みんなを守れることが、パートナーと共に強くなれることが、太一にとってとても嬉しかった。
そして新しい仲間にも会えた。アグモンだけじゃない、光子郎やミミ、丈、タケルに会えた。腐れ縁のソラとは、さらに絆が結ばれたような気がする。妹のヒカリだって、自分がしなければならないことを見つけて行動できた。少し危なっかしいけれど、そこは兄である自分が守ればいいと、むしろヒカリの成長を太一は嬉しく思っていた。
そして何より、ヤマトに出逢えた。最初は名前も呼んでくれないから嫌われているのかと思ったけれど、彼は彼なりに色々と考えていたんだとあとで知った。本当は優しくて、周りをよく見ていて、意外と褒めるのがうまい。言葉は少ないけれど、それは相手にどう伝わるのか考えているからだと、太一は思っている。無口だって、彼の優しさの欠片だ。

DWは、みんなと出逢い絆を深める居場所をくれた。

デジヴァイスは、みんなを守るための力をくれた。

太一はそう信じて疑わなかった。



目の前に広がるのは、無惨な光景。
ヤマトとガブモンが傷だらけで倒れている。その前で、タケルがトコモンと共にダンデビモンの攻撃を受けている。
どちらも助けに行かなければいけない。助けたい。なのにどうして、どうして身体は言うことを聞いてくれないのだろうか。こんな痛み、どうってことない。例え瘴気に侵食されようが、太一はただみんなを守りたかっただけなのに。
ダンデビモンが嘲笑っている。戦えない太一を、力を上手く使いこなせない太一を、嘲笑っている。嘲笑いながら、仲間たちに危害を加えている。
太一には許せなかった。仲間を平気で傷つけるダンデビモンのことも、何一つとして守れていない自分の弱さも。せっかく力はあるのに、メタルグレイモンはまだ戦おうとその身を保っているのに、自分だけが動けない。この地面を這いつくばってでもタケルの所へ行かなければいけないのに、どうして前へ進めない。
侵食が広がるのがわかる。自分のこの気持ちに反応して、肥大していっているのだろう。でもそれで、状況が変わるのならそれでいい。ダンデビモンのように力をつけることができるなら、悪魔にだって魂を売ってやる。

守らせて。

そう願った彼の心は怒りに沈み、黒い瘴気に呑まれた。



















あの後のことを、太一はよく思い出せない。
必死に戦っていたのはわかる。けれど吹き飛ばされて、自分はダンデビモンに食われた。そして気がついたらダンデビモンは消え、自分は宙に放り出されていた。
あの後のことを、ヤマトは教えてくれなかった。

「お前とアグモンが、あいつを倒したんだ。」

それだけしか言ってくれない。倒したと言われても、自分には記憶がない。どうやって倒していたのか聞いても、よく分からないと言われる。
だから太一はタケルにこっそりと聞いた。あの時ヤマトは気を失っていたようだし、一番あの時周りを見ていたのはタケルだろうから。
そこで太一は、自分の暴走を知った。躊躇いがちに話してくれるタケルから聞く話は、どれもおぞましいものだった。
自分が食われたあの後、太一を失った怒りと悲しみから暴走したメタルグレイモンがなにかに姿を変え、タケルたちを巻き込んで暴走した。エンジェモンの力によってそれ以上の暴走は避けることができたものの、一歩間違えればタケルたちに取り返しのつかないことが起こっていたかもしれない。

(これも、おれの力なのか……?)

太一は震えた。アグモンたちの進化は、自分たちパートナーの心とも反応する。デジヴァイスを通じて、心を通わせたパートナーは進化する。通わせた心によって、きっとその姿は変わる。だとしたら、あの時共に暴走したアグモンは、元はと言えば自分のせいなのではないだろうか。
悪魔にだって魂を売ってやると思っていた。けれどそのせいで、アグモンまで巻き込んでしまった。タケルやヤマトたちを守るどころか、危うくは傷つけるところだった。

太一は力を得た。

けれどそれは、必ずしもみんなを守るためのものじゃなかった。

太一がDWから授かったのは居場所じゃなくて、呪いだった。

デジヴァイスはみんなを守るための力の象徴ではなく、自分が化け物であると、呪いを受けているのだという象徴だった。
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