【ヤマ太】
身体中が軋んで痛む。指一本動かすだけでも全身に響く痛みに、ヤマトは顔を顰める。それでも唇を噛み締めその痛みに耐えながら、ヤマトは震える手を前へと伸ばした。歪む視界の先にいる小さな背中を掴むように、ヤマトは必死に前へ前へと地面を掴む。
「タイ、チィ…!」
その声は酷く掠れていて、ヤマトはけほけほと噎せた。その声は届いたのだろうか、タイチはゆっくりと振り返ると、にこりと笑ってヤマトの元へと駆け寄る。傷のついたヤマトの頬を優しく撫でながら、安心させるように額にひとつキスを落とした。自身の頬にぽたぽたと落ちてくる紅いしずくがタイチの血だと分かって、ヤマトは泣きそうに顔をクシャりと歪めた。タイチの額から流れる血を何度も拭ってやりながら、その血の量にヤマトははっ、と息を吐く。
「タイチ、タイチッ…!」
「大丈夫、ヤマト。大丈夫だから。だから泣くなよ。」
ぽろぽろとヤマトの瞳からこぼれ落ちる涙を指で拭いながら、タイチはその手のひらをそっとヤマトの手元を覆うように乗せる。ふぅー、とひとつ息を吐くと、タイチの手のひらにオレンジ色の明かりが灯る。じわじわと身体の痛みが消えていく感覚に、ヤマトはひゅっ、と喉を鳴らした。
「ッ、タイチ、待ってくれタイチ!俺はまだ戦える…!頼むからッ、頼むから俺にも戦わせてくれタイチッ…!」
「ごめん、ごめんなヤマト、大丈夫すぐ終わらせるから、ほんの少しだけ寝ててくれよ。傷も治して、すぐに家に帰らせてやるから。」
縋りつこうと伸ばされたヤマトの手を、タイチは優しく掴んで下ろしてやる。そっとヤマトの目元を覆っていた手を離して、タイチは立ち上がった。キンキンと甲高い音を鳴らしながら水晶の中にある太陽を象った紋章が回り始める。熱を持った水晶はオレンジ色に輝き、赤とオレンジが混ざった炎がタイチの体を包む。
その様子を、ヤマトは悔しそうに唇を噛み締めながら見つめていた。どんなに杖を握りしめても、自身の紋章は回り始めない。
(もう力が残ってないのか…!)
ヤマトは襲い来る眠気と必死に戦っていた。タイチが先程与えてくれた力はきっとヤマトの治癒能力を上げているのだろう。治癒に専念するために意識を落とされようとしている。タイチもきっと、これを狙って自分に力を分け与えたのだろう。炎を纏った太陽の名前を必死に呼びながら、ヤマトの視界はゆっくりと暗闇へ変わった。
「なんで、なんで守らせてくれないんだよタイチッ…!」
タイチの手が震えていることに気づいた瞬間、ヤマトは意識を飛ばした。
それが、ヤマトの中のタイチの最後の姿だった。