【ヤマ太】
「やま、とぉ~~…。」
「タイチ、やっと来たか。」
扉が開く音がして、ヤマトは読んでいた本を閉じた。部屋に入ってきたタイチは目を擦りながらうーうーと唸っている。ヤマトは本をテーブルに置いて立ち上がると、睡魔に襲われてごつん、と壁に頭をぶつけて不機嫌そうに顔をしかめるタイチの手を取った。そのまま優しくベッドへと誘導して、二人揃ってごろんと横になる。
「んふふっ」
「なんだよ。」
「んーん、なんでもない。」
ヤマトに抱きついて額を胸元に押し付ける。聞こえてくる鼓動にタイチはくすくすと笑った。ヤマトはそんなタイチの様子に困ったように笑いながら、頭を優しく撫でてやる。鳶色の髪は案外さらさらとしていて、手のひらを撫でる感覚がほんの少しこそばゆくて、愛おしい。
タイチは太陽の申し子である。正確に言えば、その身に太陽を宿した、太陽そのものである。見た目は人間の幼い少年であるが、その身のうちには全てを焼き尽くす太陽が眠っていた。太陽と一体化しているタイチは、太陽が沈めばその身体も活動を一時停止させる。人間でいう「睡眠」というやつらしい。
ヤマトは月の申し子であった。月は常に空の上で存在を主張し、夜は太陽の代わりに世界を淡く照らす。だからヤマトには「睡眠」という感覚は存在しなかった。睡眠を必要とする太陽の子は、本能的にその身を守るため月の子に接触するのだという。タイチが眠りに落ちる時に無意識にヤマトを探してヤマトの傍で眠りにつくのはそのせいらしい。
太陽が世界を照らし、照らされた月は太陽を守る。
ヤマトはタイチを起こさないようにゆっくりと手を持ち上げた。ぱっ、と手を広げて空に浮かぶ月を掴むように手を緩く握り締める。刹那、青白い粒のような光がちかちかと光りながらヤマトの手の元へ集まってくる。それは次第に一本の線を描いてぱんっ、と弾けた。先程まで光の粒子の集まりだったそれは一本の細い棒となり、先端には水晶と、その中に青い紋章のようなものが回っている。紋章の回転、それはいつだって月の力を放つことが出来るという合図だった。ヤマトはそれをゆっくりと胸元にまで下ろす。何かあった時に、いつでも戦えるように、彼を守れるように。
ヤマトは眠るタイチを抱きしめた。太陽であるタイチは体温が高い。まるで熱でもあるんじゃないだろうかと思うほど熱を放っているが、もしかしたらそれは単にヤマトの体温が低いだけかもしれない。身を焦がすほどの熱さえも愛おしくて、ヤマトは決してその身体を離さない。
むしろ彼の熱で焼き尽くされてしまえるのなら、どれだけ幸せだろうかと。最後の瞬間まで彼の熱を感じていられるのなら、それほど幸福なことはない。
このままこの時だけが続いて欲しいとヤマトは願った。平凡な何もない村の小さな小屋で、何も特別なことはない毎日をタイチと送るただそれだけで幸せなのだ。ずっとこのまま居られたらいいのに。ヤマトの願いは口に出されることなく闇に溶ける。
タイチがヤマトの前から姿を消したのは、それから半年後のことだった。
「タイチ、やっと来たか。」
扉が開く音がして、ヤマトは読んでいた本を閉じた。部屋に入ってきたタイチは目を擦りながらうーうーと唸っている。ヤマトは本をテーブルに置いて立ち上がると、睡魔に襲われてごつん、と壁に頭をぶつけて不機嫌そうに顔をしかめるタイチの手を取った。そのまま優しくベッドへと誘導して、二人揃ってごろんと横になる。
「んふふっ」
「なんだよ。」
「んーん、なんでもない。」
ヤマトに抱きついて額を胸元に押し付ける。聞こえてくる鼓動にタイチはくすくすと笑った。ヤマトはそんなタイチの様子に困ったように笑いながら、頭を優しく撫でてやる。鳶色の髪は案外さらさらとしていて、手のひらを撫でる感覚がほんの少しこそばゆくて、愛おしい。
タイチは太陽の申し子である。正確に言えば、その身に太陽を宿した、太陽そのものである。見た目は人間の幼い少年であるが、その身のうちには全てを焼き尽くす太陽が眠っていた。太陽と一体化しているタイチは、太陽が沈めばその身体も活動を一時停止させる。人間でいう「睡眠」というやつらしい。
ヤマトは月の申し子であった。月は常に空の上で存在を主張し、夜は太陽の代わりに世界を淡く照らす。だからヤマトには「睡眠」という感覚は存在しなかった。睡眠を必要とする太陽の子は、本能的にその身を守るため月の子に接触するのだという。タイチが眠りに落ちる時に無意識にヤマトを探してヤマトの傍で眠りにつくのはそのせいらしい。
太陽が世界を照らし、照らされた月は太陽を守る。
ヤマトはタイチを起こさないようにゆっくりと手を持ち上げた。ぱっ、と手を広げて空に浮かぶ月を掴むように手を緩く握り締める。刹那、青白い粒のような光がちかちかと光りながらヤマトの手の元へ集まってくる。それは次第に一本の線を描いてぱんっ、と弾けた。先程まで光の粒子の集まりだったそれは一本の細い棒となり、先端には水晶と、その中に青い紋章のようなものが回っている。紋章の回転、それはいつだって月の力を放つことが出来るという合図だった。ヤマトはそれをゆっくりと胸元にまで下ろす。何かあった時に、いつでも戦えるように、彼を守れるように。
ヤマトは眠るタイチを抱きしめた。太陽であるタイチは体温が高い。まるで熱でもあるんじゃないだろうかと思うほど熱を放っているが、もしかしたらそれは単にヤマトの体温が低いだけかもしれない。身を焦がすほどの熱さえも愛おしくて、ヤマトは決してその身体を離さない。
むしろ彼の熱で焼き尽くされてしまえるのなら、どれだけ幸せだろうかと。最後の瞬間まで彼の熱を感じていられるのなら、それほど幸福なことはない。
このままこの時だけが続いて欲しいとヤマトは願った。平凡な何もない村の小さな小屋で、何も特別なことはない毎日をタイチと送るただそれだけで幸せなのだ。ずっとこのまま居られたらいいのに。ヤマトの願いは口に出されることなく闇に溶ける。
タイチがヤマトの前から姿を消したのは、それから半年後のことだった。
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