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800字ssシリーズ

ピピピピッ

枕元で控えめに鳴るスマホの音に、太一はゆっくりと目を覚ました。滲んで見える視界を元に戻そうと何度か目を擦り、太一は隣で眠る恋人にのしかかり枕元のスマホを手に取った。光る画面をタップすれば軽快な音は鳴り止み、見慣れたホーム画面に戻った。画面に示される時間はAM6:00。

(あぁ~~……仕事…)

太一は重ったるい腕を下ろしてふと横を見る。大学院へ通う恋人は今日は休みらしい。すーすーと気持ちよさそうな寝息を立てて寝ている。

(睫毛、長ぇなぁ~)

目元にかかる金色の髪を指で優しく掬うと、じぃっと見つめる。今は閉ざされたこの瞼の下には海よりも深く空よりも濃い青が広がっているのを太一は誰よりも知っていた。髪を耳にかけてやりながら、太一は身を縮こませた。

ちゅっ。

寝起きで少しカサついた唇を額に押し付ける。瞬間、ふるっ、と震えた瞼に太一はほんのちょっと顔を赤らめて「起きてるんなら言えよ…」と口をとがらせた。

「……このまま寝ていたら続けてくれるんじゃないのか?」

「んなわけねぇだろ狸寝入りしやがって」

くすくすと笑いながらヤマトはゆっくりと目を開ける。寝起きのせいかとろんとした青い瞳に太一は目を逸らした。それをいいことにヤマトは太一の胸元に額を押し付け、背中に手を回して抱き締める。

「はぁ~~~ずっとこうしていたい……」

「馬鹿言うな。おれ今から仕事なの!」

「休めばいいのに…」

「お前と違って社会人は簡単に休めねぇんだよばーか。」

そう言って太一はくしゃくしゃとヤマトの髪を撫でてやる。金色の糸は案外さらさらとしていて、指の間をするりと流れていく。触り心地の良さに指でくるくると絡ませながら、太一はぽんぽんとヤマトの背中を叩いた。

「おれ、ヤマトが作った朝ごはんが食べたいなぁ~」

わざとらしく語尾を上げれば、ヤマトは「うぅ~…」と子どもじみた低い唸り声を上げたあと、太一の唇にキスを落としてゆっくりと体を起こした。

「あぁ~…会社……ずるい………」

「お前会社にも嫉妬すんのかよ…なんでもありだな……」

ぼりぼりと頭を掻きながらヤマトは寝室を出てキッチンへと向かった。太一はそれを見送ってからまだ温もりの残るベッドへと体を横たえた。

二人分の体温と、彼のシャンプーの香りと。

太一は機嫌良さそうに微笑むと足をパタパタとさせた。

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