【ヤマ丈】鍋と体温とあなたと
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「部屋、何だか寒いねぇ。」
がちゃりと玄関の扉が開く音と声に気がついて振り向けば、ふらりと丈が姿を見せた。がさがさと手に持っていたレジ袋が音を鳴らす。その袋を地面に置くのを見てヤマトは立ち上がった。
「お、ちゃんと鍋の材料買ってきてるな。」
「あのねぇ…僕のことなんだと思ってるのさ…。」
ヤマトはすまん、と思ってもない謝罪を口にして袋を手に取りキッチンへと運ぶ。がさごそと材料を並べながら軽く目分量で鍋に入れる野菜の量を決める。残ったのは軽く調理してタッパーにでも入れておけば明日食えるだろ、と適当に野菜をざくざくと切っていく。丈は防寒具を手早く脱いでハンガーにかけると、とたとたとキッチンへやって来た。
「手伝うよ。」
「あぁ、悪い、食器とか鍋とか頼む。」
丈は下の戸棚から鍋を取り出して蛇口を捻る。水滴を少し撒き散らかしながら水を入れて火にかけた。ヤマトが適当に味付けをして豪快に野菜と肉を流し入れる。その間に丈は食器を机に並べて、机が熱でやられてしまわないようにと適当に引っ張り出してきた分厚い新聞紙を敷いた。ぐつぐつと煮だったそれを机の真ん中に置いて蓋を開ける。むわりと広がる湯気で曇った眼鏡を拭く丈を見て、ヤマトは何だかおかしくて笑ってしまった。
「いただきます。」
二人で手を合わせて挨拶をすれば、あとはもう男子大学生二人の食べっぷりなど予想つく。特に話すこともない、黙々と食べ続ける二人だが、咀嚼音だけが響くこの沈黙に気まづさなど感じなかった。
「そうだ、どうしてこんなに寒いのに部屋のエアコン付けてないんだい?」
「んぁ?」
ふと、気になって丈が口にする。ヤマトは口元まで持ってきていた肉をそのまま口に放り込んで咀嚼する。答えが返ってくるまで丈はお玉で汁を器へと移していた。
「エアコン、壊れたんだ。」
「こんな寒い日に?」
「おぉ。」
「それは災難だねぇ。」
自分にあまり関係ないからと、丈はけたけたと笑う。ヤマトがむっ、と顔を顰めれば「早くしないと食べちゃうよ」と言われてしまった。
「早く直さないと風邪引いちゃうよ?」
「あぁー…うん、そーだなぁ……」
「あ、今めんどくさいなって思ってるでしょ。」
「さみーけど、上着とか着込んでたらいけるかなって。」
「何を面倒くさがってるのさ。風邪ひいても知らないからね。」
丈の素直な優しさがむず痒くて、ヤマトは目を逸らしながらずずずっ、とダシのきいた汁を啜った。
〇
空になった鍋を流しに持っていき水で冷やす。その間に二人でせーの、と声を揃えて机を持ち上げると部屋の端へと移動させた。丈がヤマトの部屋に泊まりに来る時はいつもこんな風に机を寄せて布団を敷いて雑魚寝だ。丈が布団を敷く間にヤマトは冷めた鍋を洗ってそのまま風呂を沸かしに行く。浴室から戻ってくれば、丈は敷き終わった布団の上でごろごろしていた。ヤマトが戻ってきたことに気が付くと、ぽんぽん、と手で優しく布団を叩いて誘う。その仕草にほんの少し頬を赤くするヤマトの様子に丈が笑うと、ヤマトは笑うな!と悔しそうに声を上げた。
「来ないの?」
そう言ってまたぽんぽんと布団を叩けば、ヤマトは下唇を噛みながらもぼすんっ!と勢いよく布団へ転がってきた。
「エアコン壊れたから1人で寝るのは寒いだろう?」
そう言って丈は布団をかける。まだ風呂に入ってないぞとヤマトはこぼしたが、丈はんー、と生返事をした。ぽん、ぽん、と規則正しく丈は手でヤマトの背中を叩く。それが何だか心地よくてこのまま寝てしまいそうになった。
「お前は……母親かよ…」
「あれ、そういうプレイがお好み?」
「うるせぇ乳首吸うぞ」
「やだー、ヤマトクンノエッチー」
きゃっきゃと笑う丈にヤマトはあのなぁ、と呆れた声を出すが、その後言葉を続けるのも億劫なほどの眠気に襲われてヤマトは目を閉じた。昔ならこんな冗談通じなければ、冗談で返されることもなかったのにな。時間の流れも、関係の変化も早いものだとヤマトは思った。普段はほとんど感じることの無い人の体温特有の温かさが心地いい。風呂…、と最後の抵抗のようにヤマトは呟くとそのまま規則正しい寝息を立て始めた。丈は中途半端に掛けた布団を首元まで上げてやると自分も潜り込む。さっきまで顰めっ面していたこめかみのシワを伸ばすように指でつついてやると、不愉快そうに唸った。
「エアコン直さないと、風邪引いちゃうよ。」
ま、それでも僕はいいけどね、丈は笑いながら目を閉じる。ヤマトは意外と素直だから、きっと数日後には電化製品店に行って修理を頼むのだろう。次来る時にはきっともう直っている。
次来た時も、エアコン壊れてないかなぁ。
丈はその言葉を心の中だけに留めて、自身も眠りの波に攫われていった。
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