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【タケ大】お面



「お前さぁ、思ってもねぇのに笑うなよ。気持ちわりぃ。」

大輔の吐き捨てるような言葉に、タケルはぱちぱちと二、三度瞬きを繰り返した。そんなタケルの様子を見てふんっ、と大輔は鼻を鳴らすと手に持っていたコーラをずずずっ、と音を鳴らして飲み干す。飲み終わったあと、がじがじとストローを噛むのは大輔のクセだった。

「大輔くん、それみっともないよ。」

「うるせーやい。」

べー!、と舌を出して反撃してくる大輔に、タケルは思わず苦笑する。タケルもまたアイスコーヒーを飲み干してストローから口を離した。暑いな、なんて思う。どれだけ冷たい飲み物を飲んだって、体はすぐに熱を作り出してしまう。鬱陶しい汗を拭いながら顔をしかめると、大輔に名前を呼ばれた。「ん?」と顔を向ければ、また不機嫌そうな顔。

「……なぁ、だからそれやめろって。」

「うーん…大輔くんの言ってることがわかんないよ。」

どういう意味?、そうタケルが聞けば、そういうのは自分で気が付かないとなおんないだろ、と返されてしまった。タケルがまた口を開こうとすればそれを遮るように見知った声が間を割く。

「大輔くーん!タケルくーん!」

「ヒカリちゃ~~~~ん!!!」

遠くからぱたぱたとオシャレなサンダルを鳴らしながらヒカリが手を振る。それに答えると二人は飲み終わった紙コップをゴミ箱へ捨てた。話の続きを、とタケルが大輔へと目を向ければ、大輔はもうヒカリの元へと駆け出し満面の笑みで手を振っている。その後ろ姿にタケルはため息を吐くと、先程までの疑問を飲み込むようにアイスコーヒーがほんのり交じった唾液を飲み込んで、駆け出した。





「大輔く~~ん!」

「……帰れ。」

「酷いや大輔くん、ボク大輔くんのラーメン食べたいなぁって思って来たのに。」

「か! え! れ!」

ぐぐぐっ、と玄関のドアを閉めようとする大輔に、タケルは慌てて身体を滑り込ませる。ちっ、とわざとらしく舌打ちをする大輔に困ったような笑みを浮かべながら靴を脱いだ。家の中へさえ入ってしまえば大輔は口では嫌だと言っても本気で追い出したりしない。タケルはそれがわかってるから我が家のように廊下を通り小さな一人暮らしのアパートの一室で横になった。窓の方へ目を向けると、窓は閉め切っている。それでもいつものように食事後の香りがしないからやっぱりまだ晩ご飯は食べてないんだね、とタケルは頭の中で考える。

「大輔くん~!晩御飯にラーメン食べたいよ~」

「んだよいきなり来てオレに作れってか?」

「ボクだったらどんな味でも素直に感想言ってあげるからいい試食相手じゃない?」

「作るのめんどくせぇって話をしてるんだよオレは…!!」

床に寝そべるタケルをげしげしと足で蹴りながら大輔は悪態ついた。それでも動こうとしないタケルに大輔は観念したようにため息をついて「ラーメンは無理だけど適当になんか作ってやる」と言ってキッチンへと向かった。「大輔くんの手料理だ~!」と騒げば「うるさい!」と背中を蹴られてしまった。がちゃがちゃと棚から鍋を取り出すのが見える。

「何作るの?」

「鍋」

「またなんで鍋?」

「今日は最近使って余った野菜ぶっ込んで鍋にする予定だったんだよ。」

「なるほど~」

感心したように呟けば「お前も寝てないで手伝え!」と怒られてしまった。よいしょ、と重たい体を起こしてキッチンへと向かう。棚から箸やら食器やらを取り出して、軽く水ですすいで机へと運ぶ。その間にもトントンと心地いい包丁の音が聞こえる。流石と言うべきか、料理をしている大輔の手際は良い。先程まで中途半端な形で残されていた野菜たちがたちまち形を整えられて鍋に入れられる。タケルがある程度食器を並べ終えた頃にはもうその野菜たちは全て鍋に移って火にかけられるところだった。タケルは最後にコップを取ろうと棚へ手を伸ばす。仕事柄か、食器に関しては意外と整理整頓されている。

「ねぇ、大輔くん。」

「あぁん?」

「ここに、女の子連れてきたことあるの?」

「はぁ?」

がたがたとコップを取り出しながらタケルは聞いた。

「このコップ、口紅がちょっとついてるよ。」

タケルはそのコップを手に取り大輔の目の前へとかざす。大輔はきょとんとした顔で「あ、ほんとだ」なんて軽く言うもんだからタケルはむっ、と顔を顰めた。

「大輔くん、仮にも恋人がいるのにそう簡単に女の子を家に連れてきちゃダメだよ。」

「毎日のように女子と飯食ってるお前が何言ってるんだ?」

「失礼な、毎日じゃないし狙ってもないよ」

「オレだって狙ってねぇよ」

そっぽを向く大輔にタケルはため息をつきながらも流しにそのコップを置いた。一瞬目を伏せてそのコップにこびり付く口紅を見つめた。その紅が存在を主張しているのが何だか憎たらしかった。そしてそれを簡単に許す大輔にも腹が立った。そんな気持ちを飲み込んでタケルは小さく深呼吸をするとニコリと笑う。

「もう、次からは気をつけてよね。」

そう言いながら大輔へ目を向ければ、怒ったように顔を顰めてこちらを睨みつける大輔と目が合った。その予想外の表情にタケルはぽかんと口を開ければ飛びつくように大輔がタケルの胸を掴みあげてきた。

「えっ?だ、大輔く」

「その顔やめろっつっただろうが」

ぎりっ、と歯を噛み締め、大輔は鋭い視線を向けてきた。突然のことに抵抗すらできないタケルに大輔は更に顔を顰めた。

「いつもヘラヘラしやがって。言いたいことあるなら言いやがれ!」

「だ、大輔くん落ち着い、ぶっ、!」

とりあえず宥めようと声をあげれば両手で頬を挟まれてしまった。ぐぐぐ、と指がくい込んで地味に痛い。

「泣きたい時に笑うな、怒りたい時に笑うな…!いっつも同じ顔しやがって気持ちわりぃんだよ…!」

大輔の表情は怒りのそれからどんどん泣きそうな顔に変わっていき、タケルは困ったように眉を下げる。何で君が泣くんだい。そう言いたいのに言葉が出ない。もしかしたら大輔の言葉を待っていたのかもしれない。

「そんなお面、今すぐ捨てちまえっ…!」

はっ、とタケルは息を飲んだ。その瞬間唇にふにっ、と柔らかい何かが押し付けられる。視界が褐色の瞳で埋まる。それが酷く揺れているのは涙のせいだろうか。そこにうつる自分の瞳と混ざり合い何とも言えない色へと変わっていた。


パキリと、何かが割れる音がした。


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