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【ヤマ太】シガーキスを君と



太一はソファに寝転がってベランダを見つめる。電気も付けていない暗闇の中、月の光と遠い場所の照明に照らされてぼんやりと浮かぶ人影は、紛れもなくヤマトであった。彼は月をぼおっと眺めながらその手に持つ一本の煙草を口へと近付けると煙を吸い、吐くという動作を繰り返す。太一もまたその様子をぼおっと眺めながら、身体の内にもやもやと溜まる煙を吐き出すようにはぁ、とひとつため息をついた。

ヤマトの口から吐き出された煙はぷかぷかと空をめざして彷徨い、ヤマトの体へとまとわりつく。月の光がそうさせているのか、酷く強調されたヤマトの唇から吐き出される煙を見て、あぁ、勿体ねぇな、なんて思ってしまった。

太一は一度両腕を耳横まで持ってくると思い切り振りかぶる。その反動で身体を起こすと、一瞬だけぐらりと体が揺れた。ずっと寝転がっていたから体がびっくりしたのだろうか。太一はがしがしと頭を掻きながら、自分の足元を見つめる。暑いからと中途半端に脱いだ靴下を乱暴にソファに脱ぎ捨てると、ぺたぺたとベランダへ近付いた。
ヤマトの家のベランダにはサンダルが一足しかない。その一足をヤマトが今使っているのだ。だけど太一は自分の足が汚れるのを躊躇った。だから。

「……ん?たい、…んっ、」

ぐい、と無理やりヤマトを引っ張ってこちらへ向かせるとそのまま押し当てるようにキスをした。ちょうど煙を吸っていたのだろう。舌を入れれば煙たいそれが口を伝って太一の喉を刺激した。慣れない煙に一、二度こほっ、と噎せて口を離すが、ヤマトの心配の声など聞きたくないと言いたげにすぐにキスを再開する。いつもされているみたいに不器用にヤマトの歯列をなぞり、舌に必死に吸い付く。

ヤマトに主導権を握られぬようにと不意をついたのに、この状況を受け入れたのか、最初は戸惑いされるがままだったのが、ほんの少し口角をあげて太一の腰へするりと手を伸ばして引き寄せる。調子に乗るなと言ってやりたくて口を離そうとしたら、その隙を狙って次はヤマトの舌が太一の口内へと入り込んできた。先程自分がしたのと同じ場所を狙われ刺激されれば、途端に太一は体を震わせてくぐもった声を上げた。

「んっ、ふっ……たい、ち………ん、」

「はっ、ぁ、……………んむ、ぅ、……!」

流石に苦しくなってぐっ、とヤマトの肩を押せば、それに気づいたヤマトはゆっくりと口を離す。つぅ、とお互いの口を繋ぐように垂れた銀の糸が月の光に照らされて、ヤマトは思わずふっ、と息を吐いた。そのままベランダに置いている灰皿に煙草を押し付けようとすると、その手を太一に掴まれてしまった。ぽろ、と落ちた灰が虚しく灰皿の上で散らばる。

「太一、どうした?」

「別に。てか煙草、高いんだろ。無理に消さなくていいよ。」

「お前の誘いを断って吸うほど魅力的なものでもないさ。」

そう言って眉を下げるヤマトからふらりと離れると、太一はぺたぺたと再び歩んでソファに寝転がった。何事も無かったかのように天井を見つめる太一の様子に苦笑しながら、ヤマトは吸い残った煙草の先を灰皿へと押し付けた。さっきまで身体にまとわりついていた煙が風にさらわれて消えていく。サンダルを脱ぎ捨て窓を閉めながらヤマトは太一の元へと向かった。

「あー、消しちゃったの?もったいねー」

「このままお前を放置する方が勿体ない。」

「オレは別にお前になんか構ってやらねーよ」

「相変わらず扱いの難しい恋人だな」

「このまま噛み付いてやろうか?」

「…勘弁してくれ。」

ギシ、と音を立ててヤマトがソファに膝をつく。逃がさぬと言いたげに手首を掴んで縫い付けられる。月の光と、自分を押し倒すヤマトの姿と、動く度に音のなるソファと。
その全てが夜の情事を思わせて、太一は思わず顔を逸らす。そんな仕草にヤマトは気を良くしたのか、頬や首筋にちゅっ、とわざと音を鳴らしてキスを降らせてくる。

「………太一は、煙草を吸う俺を止めたりはしないんだな。」

「……別に、勝手に吸って勝手に死んでろ。」

「いや……言い方………」

悲しそうに眉を下げるヤマトを見ながら、太一はふんっ、と鼻を鳴らす。

「太一。」

する、とヤマトの手が太一の頬を撫でる。

「キス、していいか?」

「……煙草の代わりに、とか言ったら蹴り飛ばすからな。」

「そんなわけないだろ。」

懇願するように目をそらさないヤマトに、太一もまたその蒼い瞳へ魅入られたように見つめる。近づいてくる蒼を受け入れるために、太一は唇を緩めた。

舌を絡めながら、太一はふと考える。
そういえば、煙草を吸う人は口寂しくて吸うと聞いたことがある。じゃあヤマトは口寂しいんだろうか。オレなんかお前のこの甘ったるいキスに口寂しいどころかうんざりしているのに。


なぁヤマト、お前寂しいの?


聞いてみたい気がするけど、その答えを聞くのがなんだか怖くて太一は目を閉じる。その代わりに手を伸ばして、ヤマトの髪をくしゃりと撫でた。


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