【二拓】ロケットサイダー
「輝二!アイス買いに行こうぜ!」
休日、家に帰る途中、偶然拓也と出会った輝二は拓也のその言葉にぱちくりと瞬きをした。
「……俺、今から帰るんだが…」
「いーじゃねーか、どーせ輝二もあちぃだろ?」
そう言って笑う拓也は輝二の手を取った。汗ばんだそれは輝二の手のひらを熱くさせたが、何故か不快には感じなかった。
〇
近くのコンビニで適当にアイスを買って、最寄りの公園へ足を踏み入れる。きゃっきゃ、と小さな子供たちが元気に走り回るのを見ながら公園の端っこ、ぽつんと存在しているブランコに腰を下ろした。多少錆び付いたそれはキィッと音を立てて緩やかに揺れる。足を軽く振りながらブランコを揺らす拓也を横目に、輝二はレジ袋をがさがさと音立てながら中からアイスの袋をふたつ取り出す。
「拓也、ほら」
「ん、さんきゅー」
ばりっ、と袋を開けるとゴミは適当にレジ袋に突っ込んで二人してアイスにかぶりついた。
「輝二、お前何にしたの?」
「サイダー味。拓也は?」
「おれミルクー」
「お前バニラ好きだな。甘ったるくないか?」
「暑い時こそ糖分とりたくなんの。お前もサイダー味好きだな。」
「こんなに暑いとさっぱりしたのが食べたくなるんだ。」
それだけ話すと、あとはもう溶ける前にと無言で食べ進める。身体が冷えていくのがわかって心地よい。ふと、ちょんちょんと肩をつつかれた。「どうした?」と輝二が返せば、拓也はイタズラを思いついた子供のようににぃ、と笑う。
「見てろよ、輝二」
そう言うと拓也は口を開けてぱくりとアイスを口に含む。じゅう、と音を立てながら溶けつつあるそれを吸い、ぽたぽたと落ちるしずくを舌で受け止めながらゆっくり下から上へと舐め上げる。腕に伝うそれも舐め取りながらわざとらしくごくん、と喉を鳴らして飲み込んだ。
ぶわりと顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。はっ、と熱の篭った熱を吐きながらも、目をそらすことが出来ない。そんな輝二の様子を横目に拓也は心底楽しそうに笑った。
「………誘ってるのか?」
「やだーこーじこわぁい~」
「………どこでそんなこと覚えたんだ?答えによっては怒るからな…」
「さぁ~ね。……お前は怒っても怖くないよ。」
そう言ってけたけたと笑う拓也の姿に、輝二はむっ、と顔をしかめる。手に持つアイスの最後の一口を口に含むと、そのまま拓也の肩を掴んで唇を押し当てた。最初はびくりと体を震わせた拓也も、状況を理解してかゆっくりと口を緩めた。待ってましたと言わんばかりに輝二は唇をこじ開けて舌を入れ込む。歯列をなぞりながら上顎に優しく這わせる。反射的に逃げようとする腰を掴んで引き寄せれば、溶けかけた拓也のアイスがぼとりと胸元に落ちた。それに気付いた拓也の口の隙間からもれた「ぁ、」という声を合図にゆっくりと口を離す。つぅ、とお互いの口を結ぶ銀の糸を拭って、はぁ、と拓也はひとつ息を吐いた。ほんの少し息が上がって肩を上下させているのが分かる。そういえばこいつは息継ぎが苦手だったなと思い出して、思わず輝二は口角を上げる。
「はぁ、……笑ってんじゃねぇよ。」
「……誘ったお前が悪いんだからな。」
ふと、輝二は先程の拓也の言葉を思い出す。そうして確かめるように口を開いた。
「……怖いか?」
ほんの少し口角を上げて、試すようにそう言えば、拓也は驚いたように目を見開いたが、すぐに睨みつけるように細めると「んなわけねーし。」と呟いた。その仕草が酷く可愛らしくて、輝二は思わず目線を拓也の胸元へと移す。先程拓也の手から溶け落ちたアイスが染みて、白いTシャツがほんの少し色を変えていた。輝二はゆっくりと手を伸ばすと、濡れてほんの少し冷たさを残るそこに手を這わす。「は、え…?」と気の抜けた声をあげる拓也を無視して、輝二はその二つの突起物を指でピンッと弾く。分かりやすくビクリッと身体を揺らす拓也の姿に、輝二も思わず耐えきれない熱息を吐き出す。「おま、え!」と声をあげようとする拓也を黙らせるようにもう一度突起物を指で撫でてからきゅっ、とつまみ上げた。「ひっ、ぁ、…!」と可愛らしい声が頭上から聞こえて思わず輝二は顔を上げる。さっきよりも顔を真っ赤にしてこちらを睨みつけてくる恋人の表情に、思わず唾を飲み込む。
「っ、お前…!ここ公園だぞ、分かってんのか…!?」
「大丈夫だ、ここはあまり人もいないし木々が多いから見えにくい。」
「そーいうこと言ってんじゃ、!ぁ、…ひぃ、ンッ!」
親指と人差し指で挟んで優しくぐりぐりと摘めば、それに合わせて拓也も体をふるわす。声を我慢するためか輝二を離そうと肩を押していた手が自身の口元へと移動した。ふっ、ふっ、ともれだす吐息に輝二は思わず下唇を噛みながらその突起物に顔を近づけた。ふぅー、と息を吹きかけ、そのままぱくりと口に含む。染みたバニラ味のアイスが舌を刺激して甘ったるい。そのままじゅぅ、と吸い上げれば塞いでいたはずのその口から同じく甘ったるい声が聞こえる。
「ふっ、ぅ"ぅ"~~、こぉ、じっ、……ァ、!」
名前を呼ばれて、なんだかその可愛い口にまた口付けたくなった。輝二は一度口を離すと顔を上げる。拓也の手を取ってそのまま再度キスを重ねた。次は触れるだけに留めてゆっくりと離す。
「………怖いか?」
さっき呟いた言葉を再度問う。答えなんて分かっているが、聞かずにはいられなかった。
「………ねーし。」
ぐっ、と唇を悔しそうに噛み締めながら呟かれたその言葉に輝二ははぁーー、と息を吐く。
なんでこいつはこんなに煽るのが上手いんだ。
このまま抑えるはずだったのに、まだ見た目には出てきてない欲がどんどん熱を帯びていくのを感じた。
「………拓也。」
「…………なに。」
「今から家に来い。」
「………やだ。どーせ続きするんだろ…?」
「あぁ。」
「~~~~~ッッッ!!!」
言葉にならない声を上げて、せめてもの抵抗か拓也は輝二の座るブランコをゆらゆらと力任せに揺らす。振り落とされぬように錆び付いた鎖に掴まりながら輝二はじっ、と拓也を見つめる。
「拓也」
「……やだ」
「頼む」
「………うぅ~~~~ッッッ……!!!」
拓也は悔しそうに地団駄を踏むが、覚悟したように勢いよく立ち上がった。
「っ、アイス!お前のせいで全部食べれなかった!!!買ってこい!!!」
「よし、決まりだな。」
嬉しそうに微笑むと、輝二もまた勢いよく立ち上がった。ゴミを入れたレジ袋を右手に掴んで、左手は拓也の手を絡める。躊躇いがちに握り返されたそれに笑みをこぼしながら、二人はゆっくりと歩き出した。
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