【デュオメ】その視界を埋めたくて
じぃ、とデュークモンは隣に座る恋人を見つめる。その恋人は器用に両の手でパンを挟むと、そのまま口へと運び控えめに咀嚼した。満足の味だったのか、ふむ、と小さな納得したような声をもらした。
「………パンぐらい私が作ってやるというのに。」
「アグモンたちが勧めてくれたものなのだ。食わぬ訳にはいかん。」
「………そうだな。」
恋人が隣にいるというのに視線はひとつもこちらに向けずパンばかり見つめている姿にデュークモンはむっとしたが、そう返されてしまえば何も言い返せない。デュークモンにとっても、アグモン達は可愛い仲間だ。それでももう少し構ってくれてもよいではないか、と思うのは自身の浅はかさの表れなのだろうか。デュークモンはオメガモンとパンを交互に見つめながら、そっとオメガモンの頬に手を添える。「なんだ?」と声を上げながらこちらへ向くオメガモンを見て、あ、やっとこっちを向いてくれた、と少し嬉しくなった。また目をそらされる前にと、デュークモンは顔を近づける。どうやら自分たちは人間の言う『接吻』をするのは難しいらしい。しかし、真似事程度なら出来るだろうと、少し顔の角度を変えて目の下へと自身の口を押し付ける。コツン、と控えめに音が鳴るのがデュークモンはなんだか好きだった。ゆっくりと顔を離すと視界に入るのはきょとんとしたオメガモンの表情で、デュークモンはおかしくて笑ってしまう。
「…………ふふ、はははは…!」
「……何なんだいきなり…」
「いや……そうだな、特に意味は…………」
笑うのを抑えながらオメガモンを見つめる。驚きからかぱちぱちとさせている薄浅葱色の目が透き通るようで綺麗だった。
〇
そういえば前に、どこかで聞いた気がする。アグモンだっただろうか、誰だろう。ただ、デュークモンは普通のデジモンからこの言葉を聞いてしまえば嫉妬から傷をつけてしまいかねない気がするから、やっぱりアグモンあたりがそう言ったのだろう。
「オメガモンのお目目はなんだか、『つぶらな瞳』だね!」
なるほど、とデュークモンは自身の中で噛み締める。確かにこれは『つぶらな瞳』というやつだ。
「……おい、デュークモン。何のつもりだ?」
「何のつもり、とは?」
「私にいきなり接吻をした理由についてだ。」
「無粋なことを言う、キスに理由を求めるなどと。」
「お前の接吻にはいつも理由があるだろう。」
真っ直ぐ見つめられそう言われれば、デュークモンは折れるしかない。オメガモンの頬に添えたままだった手を離して降参のポーズをする。こんな姿、今までもこれからもオメガモンにしか見せる気は無い。
「………お前の食べているパンの味が気になったのだ。」
「また嘘をつくのか?それならば目の下に触れるだけでは味わえぬだろう。」
その言葉に、じゃあお前のその口を奪い暴いてしまえば通った言い訳なのか?と思いつつも、言葉にして機嫌を悪くさせるのも嫌だ。デュークモンは何とか飲み込みつつ、観念したように答えた。
「……隣にいるのに、パンや記憶の中のアグモン達ばかり気にしている。隣にいる私を差し置いて、だ。」
『隣にいる』なんて言葉を二回も主張してしまった。デュークモンは何だか気恥ずかしくてふい、と顔を逸らしてしまうが、次はオメガモンが笑いながらその頬を優しく撫でる。その無機質でゴツゴツとした手、それでも心地良さは何よりもデュークモンの心を満たした。
あぁ、いつになったら耐えることが出来るのだろうか。
デュークモンは心の中で考える。
────どうしても彼から目が離せないのは自分で
ずっとこちらを見ていて欲しいと願うのも自分で
案外自分は我儘なんだ
それでも、
「仕方ない。たまにはお前の我儘にも付き合ってやろう。」
あぁ、お前はそうやって私の我儘を受け入れてしまうのかと。デュークモンは嬉しくなって、言葉で表しきれない歓喜をその身に宿らせ、それを伝えるようにまたオメガモンへと顔を近づけた。
───少しでも彼の視界が自身で埋まるようにと願いながら
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