結月の発した言葉によりその場は痛いほどの静寂に包まれた。

「は？アンタ何言って、「佐助ェ、控えよ！」…旦那まで…」
「なぜ、この世ではないと？」
「わた、私がいたところでは、その、着物を日常的に着るのは、珍しくて…。ぁ、あと、お兄さんが持っているような槍とかそういうものも持ち歩かないし…」
「ふむ…」
「そ、それに…」

言いかけて迷ってしまった。
これから言うことは、残酷なことかもしれないから。

「言うてみよ。」
「…武田信玄様、あなたと同じ名前の方を知っていますが、私の世界では、歴史上の人物として有名なんです。。。」

歴史上の人物。それは結月の世界ではすでに武田信玄は死んでいるということ。

それを聞いて考え込むように黙ってしまう信玄。不安になり視界が滲んでくる。自分の世界ではあなたは死んでいますなんて失礼すぎる。
ここで切られてしまうのかと、血の気が下がった顔を俯かせてしまう。

「…あいわかった。そなたを信じよう。嘘をついているようにも見えん。」
「えっ…えっ…！？」
「行くところもないのだろう。どうじゃ。儂の娘にならぬか？」
「お館様！？」「大将！？」

信玄は先ほどとは違いまっすぐ結月を見ている。疑いの目ではなく、自信を持った力強い目。信じてもらえたと、ほっとしたのと同時に涙が流れた。

「そそ、そんな、娘なんて、私なんか。」
「結月は嫌か？」
「ぃ、嫌とかじゃ…っ」
「決まりじゃな。よいな、佐助。」
「俺様が言っても大将は変えないでしょ。よろしくね、結月ちゃん。」
「お館様ぁああ、某、感動いたしました！某は真田源二郎幸村でござる。宜しくお頼み申す、結月殿！」

いきなり騒がしくなったその場に結月はつい笑みが溢れてしまった。

「む。」
「あら。可愛いじゃないの。」
「は、破廉恥でござるぅぅうううう！！」

三者三様。
佐助からはまだ疑っている感じはするものの、この暖かい空間にまた静かに涙流すのだった。