ネモフィラの追憶
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貴方だからこそ、守り通したかった。
ここで終わる命ではないと思ったから。
貴方が炭治郎達を生かしたいと思ったのと同じように、私も貴方を生かしたいと思った。
誰よりも尊く誰よりも優しく強い煉獄さんだからこそ、生きるのをやめてほしくなかった。
ただそれだけなんだ。
「...退け、弱い奴に用は無い。」
ゴポリ、と嫌な音がした。
上弦の鬼の腕は私のお腹を貫通していて、そこから沢山の血が溢れている。
ああ、いけない。これは駄目だ。
自分でも分かるくらいの致命傷。きっともう、助からない。
後ろで炭治郎達が私の名前を呼ぶが、今はそれどころじゃない。絶対にこの鬼の腕を離すものか。
私だってこの世界に生を受けたのだ。そして推しと同じ時代に生まれることができた。
ならば阻止しよう。死ぬべき人の運命を変えよう。
本当に平和を望むのなら原作を変えるような事をしてはいけないなんて分かりきっている。
...でも、それでも、彼には生きてほしい。
そして炭治郎達と共に平和を築いて欲しい。
いつか鬼だった人たちがまた人として生を受けて、みんなが幸せに暮らせる平和な世界を。
誰も彼もが笑っていられる優しい世界。
「っ斬れ!!!」
この手を離すまいと力を込めるも、私は柱じゃない。
この鬼なら。こんなのいとも簡単に抜け出せる。だから早く。私はいいから、と。
思いが伝わったのか煉獄さんは覚悟したように刃を振るう。
けれどスレスレの所で鬼は刃が首に通る前に腕を犠牲にし避けた。
腕は私の腹の中を貫通したまま。鬼は朝日が昇るのと同時に逃げていった。
ああ、あわよくば道ずれにしたかったのに。
少しでも鬼によって悲しむ人が少なくなれば良かったのに。
「苗字少女!!!」
崩れそうになる私を抱きとめる煉獄さんの初めて見る焦った顔に、少しだけ罪悪感を感じた。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
貴方が生きて来れた事が何よりも嬉しい。私は貴方が無事ならそれでいい。
けど、...けど、貴方と出逢えたなら、もう少しだけ生きたかった。
「れ、ごくさん...わた、し」
「もういい、喋るんじゃない。傷が深すぎる。君は良くやった、だから死ぬな。死んではいけない」
そう言って煉獄さんは悲しそうに顔を歪めてしまった。
ごめんなさい、そう言いたいのにもう声が出なかった。
「頑張るんだ。もう少しで応援が来る。すぐに胡蝶の所へ連れて行く。だから死ぬな!!」
必死に私へ呼びかけてくれる。
だけど、もう助からないなんて誰が見ても分かるはず。
片腕も千切れて、腹には大きな穴が空いていて、片目も潰れてしまった。
本来これを煉獄さんが受ける痛みだと考えると彼がこの痛みを受けずに済んだ事に心底安心した。
そして何より、まだ彼が鬼殺隊として生きている。
鬼を狩ることができる。
...ならそれで十分だ。
大好きな人に看取られて死ねるなら幸せだ。
もう耳も機能しなくなり、煉獄さんの声が聞こえなくなった。
何かを叫んでいるけど、よく分からない。
ああ、怒っているのかな。
貴方の命令を無視して死んでしまってごめんなさい。
そう思いを込めて優しく頬を撫でた。
こんなに頑張ったんだ。これくらいのご褒美はあってもいいだろう。
なんて、思いながらゆっくりと目を閉じた。
最後に感じたのは、頬に冷たい水が落ちたこと。